大英自然史博物館展

  2017年3月18日(土)〜6月11日(日) に上野の国立科学博物館で開催された大英自然史博物館展。イギリスのロンドンにある、大英自然史博物館から始祖鳥のロンドン標本をはじめとする370点が展示されました。
 殆どが日本初公開で、うちロンドンで常設展示されているものは17点という非常に貴重なものばかり。
(解説:馬藤永徳&裏辺金好/撮影:裏辺金好)

大英自然史博物館とは?




 大英自然史博物館(Natural History Museum/日本語訳ではロンドン自然史博物館と表記することも)は、元々大英博物館の一部門として始まったもので、1753年にアイルランドの医師ハンス・スローン卿から遺贈された動物・植物・鉱物などのコレクションを、ブルームズベリーのモンタギュー・ハウスに収めたことに始まります。

 1881年、大英博物館の自然史部門長だったリチャード・オーウェンの提言によって大英博物館からBritish Museum (Natural History)として分離独立し、今に至ります。

 今回の展示で注目してほしいのは、とりあえず珍しいものを集めていた博物学から、近代的な学問がいかに生まれて、私たちの周りの自然を理解できるようになったか、ということ。珍しいものを集めている時代から、カール・リンネの近代的分類法、ウィリアム・スミスの地質図、チャールズ・ライエルの斉一説、チャールズ・ダーウィンの進化論を経てどう体系的に研究がなされるようになったのかに注目です。

 もちろん、珍しい標本、それに美しいスケッチに、珍しい研究メモなども注目です。写真のない時代だあるため、研究者は丁寧なスケッチを残しています。それも楽しんでください。

主な見どころ


”ダドリーイナゴ”と呼ばれたブローチ
本物の三葉虫をつかったブローチ。珍しいものを持っているぞと、自慢したかったのでしょうか???

ハンス・スローンの肖像画の模作
大英自然史博物館のできる前に、沢山の標本を収集した偉人。彼の収集物が、大英自然史博物館の元となります。

カメの甲羅の化石
ハンス・スローンのコレクションの1つ。約2000万年〜1000年前のもの。

オオフウチョウ
ニューギニアの人々が売る時に足をとった標本。そのまま、足のない鳥として勘違いされ、一生風に乗って飛んでいる bird of paradise (天国の鳥)とされてしまいました。


ガラスケースのハチドリ
南アフリカ産で、大英自然史博物館の開館にあたり目玉展示とされたもの。異国の鳥は、大いに人々を興奮させました。

リチャード・オーウェンの肖像画
政府に働きかけて大英博物館に分離する形で、自然史博物館をオープンさせた人。比較解剖学を牽引した他、モアの研究や恐竜(Dinosaur)の名付け親としても、有名です。

テラコッタ製のライオン
大英自然史博物館の建設にあたっては、オーウェンの指針の下、自然界の多様性を反映しています。

プリニウスの博物誌
印刷されたヨーロッパの書物の中では、最も古いもの。ヴェネツィアで、1469年に印刷されました。


カール・リンネ『植物の種』
リンネは近代的な分類体系を確立した人物。二名法(属名と種名を並べて、命名する方法)の考案者です。この本は、当時知られていたすべての植物を二名法でリスト化しました。

カール・リンネ『自然の体系』
この本は、全生物種を二名法で分類することを目指した書籍です。

モア全身骨格
オーウェンの研究により、飛べない巨大な鳥とわかった鳥類

モアの羽毛


ウィリアム・スミスの地質図(イングランドとウェールズ、およびスコットランドの一部の地層の描写図)
ウィリアム・スミスによる世界初の地質図。イングランドとウェールズ、およびスコットランドの一部の地質を解明した1枚ですが、これだけ書いても老年になるまでウィリアム・スミスは認められませんでした・・・。


メアリー・アニング
メアリー・アニング(1799〜1847年)は、イギリスの初期の化石採集者(化石商)であった女性です。

メアリー・アニングが発見した魚竜(イクチオサウルス)

チャールズ・ライエル「地質学原理」
チャールズ・ライエル(1797〜1875年)が1830〜33年に出版したもの。地球の年齢が、当時信じられていた6000年よりもずっと古いことを地質学的証拠に基づき、記述しました。また、自然の変化の説明に聖書上の天変地異を用いる考えを否定し、「斉一説」を世に広めました。
「斉一説」とは、現在でも見られる自然現象が積み重なった結果、今の自然があることを示したものです。この「斉一説」により現在の観察結果を用いた議論が可能となり、近代的な地質学やダーウィンの進化論へとつながっていきました。

アルダブラゾウガメ
ダーウィン関連の展示物の1つ。ダーウィンは、ビーグル号で航行中に見たゾウガメを称賛しています。この個体は、なんと200歳で死んだとみられており、ゾウガメの中でも最高齢!このほか、進化論発表までの手稿などが展示されていました。

ウォレスからの手紙
アルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823〜1913年)は、イギリスの生物学者、探検家、地理学者など様々な分野で活躍した人。ダーウィンと同じ時期に進化論に至り、文通等によってダーウィンの研究に大きな影響を与えています。また、インドネシアの動物の分布を二つの異なった地域に分ける分布境界線、ウォレス線の特定など、多大な功績を残しています。

始祖鳥
これまで様々な恐竜博でレプリカが展示されていた始祖鳥のロンドン標本のオリジナルが来日。今回の目玉展示です。ダーウィンにとって、始祖鳥は進化論の証拠となるものでした。

ジョセフ・ハンクスのタカラガイコレクション
ジョセフ・ハンクス(1743〜1820年)がエンデバー号の航海中に、ブラジルやタヒチ、ニュージーランド、オーストラリアなどから収集したもの。

南極産の炭化木化石
ロバート・スコット(1868〜1912年)率いる探検隊が南極大陸で発見したもの。石炭紀/三畳紀 3億2300万年前〜2億100万年前頃のもので、南極大陸に森林が広がっていた証拠となりました。

ニホンアシカ
日本ではすでに絶滅したとされているアシカ。千島列島で捕獲されたもので、横浜の貿易商、アラン・オーストンが大英自然史博物館に送りました。

粘菌
昭和天皇が皇居で採取した標本の胞子から培養したもので、大英自然史博物館に寄贈されました。

キャスリーン・ドゥルーが研究した欧州産アマノリ類の1種
キャスリーン・メアリー・ドリュー=ベーカー(1901〜1957年)は、イギリスの藻類学者。それまで知られていなかった、海苔の夏の居場所を明らかにし、その研究成果を九州大学の藻類学者である瀬川宗吉に知らせ、研究が進められたことで、海苔の人工養殖が完成しました。
これによって日本の海苔生産の安定化、大規模化が実現したことから、熊本県宇土市では毎年4月14日にドリュー祭(ドゥルー祭)が開かれています。

サーベルタイガー
ここからは、絶滅した動物の展示。


オオナマケモノ

メガラダピス
かつてマダガスカルに生息していた大型の原猿。2000年前にマダガスカルへ人間が上陸したことが、絶滅の一因となったと考えられています。


オオツノジカの頭骨

ロンドン塔で発見されたバーバリーライオンの頭骨

ドードーの模型

オオウミガラス

リョコウバト


フクロオオカミ(タスマニアタイガー)


ピルトダウン人
20世紀初頭にアマチュアの考古学者、チャールズ・ドーソンが発見し、類人猿と人類を繋ぐ重要な化石とされていたもの。しかし、1953年に現代人の頭骨と、オラウータンの下顎骨を合成した偽物と判明!
思い込みなしに検証することが必要不可欠であることを教えてくれます。

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