化石ハンター展 〜ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣〜

 2022(令和4)年7月16日〜10月10日にかけて国立科学博物館で開催された特別展「化石ハンター展 〜ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣〜」。アメリカ自然史博物館のロイ・チャップマン・アンドリュース(Roy Chapman Andrews、1884-1960)が、1922年に大規模な調査隊を編成してゴビ砂漠へ探検を開始してからちょうど100年であることを記念し、企画されたものです。
 アンドリュースは、師にあたるヘンリー・F・オズボーン(1857〜1935年)が提唱した「哺乳類の起源がアジアにある」という仮説を証明するため、当時はサメの歯ぐらいしか発見されていなかったゴビ砂漠へ向かい、「太平洋の真ん中で化石を探すようだ」と批判の声もある中で、数々の大発見を行います。
 この化石ハンター展では、その業績に注目するほか、後にゴビ砂漠で発掘調査を行った世界の化石ハンターたちによる研究成果、史上最大の陸生哺乳類パラケラテリウムの展示、チベットケサイの全身骨格と生体モデルの世界初公開などが行われています。
 (撮影:裏辺金好/解説:馬藤永徳、裏辺金好)


和服姿のアンドリュース
アンドリュースはクジラ類の研究者として、1909年から8か月間、日本に滞在。様々なクジラの調査を行い、イワシクジラとイシイルカ、さらに朝鮮でコククジラに関する論文を発表し、クジラ類の研究に大きな業績を上げました。


イワシクジラ 【実物】【現生】


ツチクジラ 【実物】【現生】


アンドリュース調査隊



プシッタコサウルス
白亜紀前期の鳥盤類角竜類。アンドリュースは1922年に発見しました。展示標本は中国遼寧省で発見されたミイラ状になった産状骨格と全身骨格。

プロトケラトプス 【全身骨格】
白亜紀後期(約8000万年前)の鳥盤類角竜類。アンドリュースの中央アジア探検隊による最初の調査の終了間際に、「炎の崖」で一つだけ採取された頭骨に基づいて名付けられ、学名はアンドリュースに因みプロトケラトプス・アンドリューシです。


プロトケラトプスの成長
最近の研究では、9歳から10歳ぐらいまで成長するほか、オスとメスの違いはよく分かっていないそうです。


恐竜の卵 【実物】
1923年または1925年に炎の崖で発見された卵。当時はプロトケラトプスの卵と考えらえていましたが、現在はオビラプトル類の卵であると判明しています。

エミューの卵
参考として現生動物であるエミューの卵を比較展示。色付き卵の例で、恐竜でもマニラプトル類の卵に色素が見つかっているとか。


バクトロサウルス 【全身骨格】
白亜紀後期の鳥盤類鳥脚類で、1922〜1923年にかけて幼体から成体まで、現在の内モンゴル自治区二連浩特(エレンホト)で6体が見つかっています。

アーケオルニトミムス 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類で、1923年にかけて幼体から成体まで、現在の内モンゴル自治区二連浩特(エレンホト)でバラバラになった骨が多数見つかりました。当初は北アメリカで知られていたオルニトミムス属の新種と思われていましたが、後にもっと原始的であることが判明し、現在の分類に。

ヘーユアンニア 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類で、元々はインゲニアと名付けられていたオビラプトル類です。

ヴェロキラプトル 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類。鳥類に近縁な恐竜です。

ザナバザル(サウロルニトイデス) 【頭骨】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類。1923年に炎の崖で見つかった獣脚類の1つがサウロルニトイデス。展示標本は1974年にサウロルニトイデスの新種として命名されるも、頭骨の長さや葉の数の違いから2009年にザナバザルという新属とされましたが、やはり サウロルニトイデスの別種ではないかという研究もあり、恐竜研究の難しさを感じさせてくれます。

ピナコサウルス 【産状骨格】
白亜紀後期の鳥盤類曲竜類。アジアで初めて発見され、またアジアでは最もよく知られる「よろい竜」です。展示の骨格は小さいことから幼体と思われます。

タルボサウルス 【頭骨】
ここからはアンドリュース以後に発掘された恐竜を中心に展示。タルボサウルスは白亜紀後期の竜盤類獣脚類。

タラルルス 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類装盾類。

アビミムス 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類。小さい頭骨のわりに、脳と目が大きめなのが特徴。


コンコラプトル 【産状骨格】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類。頭の上にトサカがない、オビラプトルの仲間です。当初はオビラプトルの幼体で、成長するとトサカが発達すると考えられていましたが、現在は別種とされています。


プレノケファレ 【全身骨格】
白亜紀後期の鳥盤類堅頭竜脚類。頭骨の形に特徴があり、鼻先が短く、ドームの周りに一列の小さなコブのようなでっぱりが並びます。


ガリミムス 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類堅獣脚類。展示は幼体です。

シノルニトイデス 【産状骨格】
1980年代の「中国・カナダ恐竜プロジェクト」によるゴビ砂漠の発掘成果から。このシノルニトイデスは、白亜紀前期の竜盤類獣脚類で、展示標本は全身約1mと推定。鳥類に近縁で、鳥類のように丸まって寝ているかのような状態で発掘されました。


モノニクス 【全身骨格】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、展示標本が唯一発見されている化石。


ネメグトマイア 【全身骨格】
1996年の日本隊の調査の最後の日に発見された化石を元に復元。ネメグトマイアは、白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、他のオビラプトル類よりトサカが発達しています。


ゴビベナトル 【全身骨格】
1992〜2010年まで行われた林原自然科学博物館とモンゴル科学アカデミーの発掘成果から。ゴビベナトルは、白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、脳の大きさが恐竜の中でとても大きく、高度な行動をとっていたと考えられています。


ネメグトマイア 【全身骨格】
1996年の日本隊の調査の最後の日に発見された化石を元に復元。ネメグトマイアは、白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、他のオビラプトル類よりトサカが発達しています。


シノルニトミムス 【産状骨格】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類。

パラケラテリウム 【全身骨格】
ここからは、アンドリュースが追い求めていた哺乳類の化石を展示。パラケラテリウムは、漸新世(約3000年前)の奇蹄目サイ上科。最大の陸生哺乳類です。

パラケラテリウム 【頭骨】

エンボロテリウム 【頭骨】
始新世(約4100万〜3400万年前)の哺乳綱奇蹄目プロントテリウム科。

アンドリューサルクス 【頭骨】
始新世(約4100万〜3400万年前)の哺乳綱鯨偶蹄目エンテロドン類またはメソニクス類。アンドリュースの功績をたたえ、オズボーンが命名したものですが、見つかっているアンドリューサルクスの化石は1923年に発見した、この1点のみ。謎の多い動物です。

アンドリューサルクス 【頭骨】
下顎を推定復元したもの。

プラティベロドン 【頭骨】
中新世中期(約1300万年前)の哺乳綱長鼻目ゴンフォテリウム類。1928年から1930年にかけて、様々な成長段階の化石が発見されました。

キロテリウム 【全身骨格】
ここからはチベット周辺の化石から。中新世後期(約1100万年〜約800万年前)の哺乳綱奇蹄目サイ科。ユーラシア大陸に生息していた中型のサイの仲間です。

キロテリウム 【実物】
下顎と頭骨の実物化石です。

ディノクロクータ 【頭骨】
中新世後期(約800万年前)の哺乳綱食肉目ベルクロクータ科。ハイエナ類として史上最大の化石で、非常に頑丈な頭骨が特徴。先ほどのキロテリウムもディノクロクータに襲われたと思われる化石が見つかっています。


チベットケサイ 【生体モデル】
始新世鮮新世(約500万年〜約200万年前)の哺乳綱奇蹄目サイ科。チベット高原で発掘されたもので、今回のモデルは世界初の復元。今回の特別展では「アウト・オブ・チベット説」が提唱され、鮮新世のチベット高原で、この場所の厳しい寒さに哺乳類が事前に適応し、更新世の氷河時代が到来した際に、チベットを降りてアジアやヨーロッパに進出したというもので、チベットケサイはそのきっかけとして展示されています。

チベットケサイ 【全身骨格】


アルガリ 【剥製】
現生の哺乳綱鯨偶蹄目ウシ科で中央アジアから中国北部まで広く分布します。ヒツジ目の中で最大の種です。

チベットユキヒョウ 【頭骨】
中新世〜始新世の哺乳綱食肉目ネコ科で、現生のユキヒョウに最も近縁とされています。チベットユキヒョウの化石は、ライオンも含めたヒョウ属の中で、最も古い記憶です。

ユキヒョウ 【剥製】

ホッキョクギツネ 【剥製】
現生の哺乳綱食肉目イヌ科。足の裏に至るまで、断熱効果抜群の体毛に覆われています。

チベットザンダギツネ 【下顎】
新生代鮮新世(約500万年〜440万年前)の哺乳綱食肉目イヌ科で、チベットのザンダ盆地から発掘。ホッキョクギツネに近縁とされ、現代のチベット高原に棲息するチベットスナギツネとは別系統で、より肉食性の度合いが高いと考えられています。チベットから北極へ…という可能性を示しています。

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