今度の主役は「トゲトゲ」だ!特別展「恐竜博2023」

 2023(令和5年3月14日(火)〜6月18日(日)にかけて国立科学博物館で開催された特別展「恐竜博2023」。2023年7月7日(金)〜9月24日(日)には大阪市立自然史博物館でも開催される本展は、今度の主役は「トゲトゲだ」!をキャッチコピーとし、“究極”の防御のために胴体に板状・トゲ状の突起や鎧を進化させた装盾類(剣竜類・鎧竜類)をメインにした、これまでと一味違う展示構成となっています。
 展示として一番面白い部分は、今まで”化石の保存状態が良くない”ため研究ができなかった様々な組織(軟体部やバラバラになりやすい骨)等を研究できる様々なパターンを紹介している点です。



 中でも、頭骨から尾の棍棒までが一緒に発見された貴重な鎧竜であるズール・クルリヴァスタトル(上写真)は日本初公開で、鎧には皮膚が、尾には棍棒を支える腱などの軟組織までが化石として残っており、その実物化石と復元骨格の双方を見ることが出来ます。ズールの属する「装盾類(剣竜類・鎧竜類)」は、皮骨がバラバラになるため復元が大変という点があり、今回の展示の主役としてはまさにぴったりでした。また、1コーナー作って紹介されている「レーザー励起蛍光法」は、ズールほど保存状態が良くなくとも、軟体部の研究ができるという点で大変画期的な物です。
 また、ティラノサウルスが2体並べて展示され、これだけでも圧巻ですが、このうちタイソンと呼ばれる個体は世界初公開。また、イタリア以外では初公開となるスキピオニクスは、孵化してから3週間未満の幼体と考えられ、気管・肝臓・胃・腸・血管などの軟組織まで残るという、大変貴重なものです。
 もう1つ、初期の三畳紀の恐竜と、白亜紀後期の南米アメリカのメガラプトル類について展示されていましたが、分類の見直しが議論されている恐竜たちです。前者は恐竜の定義自体(寛骨臼に穴が〜に例外が!)、後者は南半球最後の肉食恐竜が何者であったのか(アロサウルスに近いのか、ティラノサウルスに近いのか)に関わってくるところで、ここも今回の展示で面白い部分でした。
 メガラプトル類の展示では、新種であるマイプ・マクロソラックスが世界で初めて公開され、今回の恐竜博は装盾類以外にも見所だらけの圧巻の展示となっています。
 (撮影:裏辺金好/解説:馬藤永徳、裏辺金好)



エオドロマエウス (学名の由来:夜明けのランナー)
三畳紀後期の竜盤類獣脚類で、アルゼンチンで産出。最古級の獣脚類で、同じ地層から発見されるエオラプトルに似ているものの、歯がナイフのような形状をしているほか、下顎の先端がカーブしておらず、恥骨の先端が膨らんでいます。

アシリサウルス (学名の由来:祖先【※スワヒリ語】のトカゲ)
三畳紀中期の生物で、タンザニアで産出。恐竜との共通祖先から分岐した、恐竜に最も近縁な恐竜形類シレサウルス類に分類されます。2020年と2022年に一部のシレサウルス類から鳥盤類が進化したという系統仮説が発表され、もしかすると恐竜に分類される日も来るかも・・・?
このアシリサウルスが実際に恐竜に分類される場合、恐竜の定義としてよく語られる「寛骨臼に穴が〜」に例外ができるということになります。


ヘテロドントサウルス (学名の由来:異なる歯のトカゲ)
ジュラ紀前期の鳥盤類で、南アフリカ共和国で産出。鳥盤類としては最古級の恐竜です。口の先端に哺乳類の切歯ような歯、先端が尖った犬歯、後ろに植物をすりつぶのに適したような形状の歯を持ちます。


スクテロサウルス (学名の由来:小さな盾のトカゲ)
ジュラ紀前期の鳥盤類装盾類で、アメリカアリゾナ州で産出。最初期の装盾類で、 全身が300個以上の小さな皮骨で覆われているほか、のちの装盾類が四足歩行であるのに対し、二足歩行でした。

スケリドサウルス (学名の由来:見事な脚を持つトカゲ)
ジュラ紀前期の鳥盤類装盾類で、イギリスで産出。恐竜という分類を提唱したリチャード・オーウェンが1861年に記載したもの。ほぼ全身の骨格が発見され、首から腰にかけて3列ずつ、トゲ状の皮骨が並んでいました。剣竜類と鎧竜類が枝分かれする前の装盾類に分類される本種ですが、2021年に鎧竜類に分類されるとの仮説が発表され、鎧竜類の起源が大きく早まる可能性があります。

エオラプトル (学名の由来:夜明けの泥棒)
最古の恐竜の1つ。三畳紀後期の竜盤類竜脚形類で、アルゼンチンで産出。以前は獣脚類に分類されていましたが、前肢の第一指が内側を向き、下顎の先端が下方にカーブ、歯は尖っているものの歯冠の基部にくびれがあることなどから、現在は竜脚形類に分類されます。


プエルタサウルス (学名の由来:プエルタ【※発見者の名前】のトカゲ)
白亜紀後期の竜盤類竜脚形類で、アルゼンチンで産出。南半球で繁栄したティタノサウルス類の1種で、現在はこの2つの化石しか見つかっていませんが、全長30m〜40mになると推定されてる最大級の恐竜です。




ヘスペロサウルス (学名の由来:西のトカゲ)
ジュラ紀後期の鳥盤類装盾類剣竜類で、アメリカのワイオミング州で産出。ステゴサウルス類の1つです。皮骨が楕円形であるのが特徴。

アニマンタルクス (学名の由来:動く要塞)
白亜紀後期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、アメリカのユタ州で産出。肩のあたりにトゲ状の突起を持ち、尾に棍棒を持たないノドサウルス科の1つです。これに対し、同じ鎧竜でもアンキロサウルス類は尾の先に棍棒を持ちます。

サイカニア (学名の由来:美しいもの)
白亜紀後期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、モンゴルで産出。アンキロサウルス科の1つです。

エドモントニア (学名の由来:エドモントン層のもの)【実物】
白亜紀後期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、アメリカのワイオミング州で産出。大型のノドサウルス類の1種です。

タラルルス (学名の由来:籠のような尾をもつもの)
白亜紀後期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、モンゴルで産出。アンキロサウルス類の1種ですが、棍棒が小さいのが特徴です。

ズール・クルリヴァスタトル (学名の由来:【属名】ズール…映画『ゴーストバスターズ』に登場する門の神「ズール」、【種小名】クルリヴァスタトル…脛の破壊者)【実物】
白亜紀後期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、アメリカ・モンタナ州で産出。ここからは、本展最大の見どころであるズールの展示ですが、まずは頭骨の実物から。目の後ろにある角の骨の前面に深い溝があることや、鼻から頭頂部にかけて六角形の皮骨が並んでいるのが特徴です。

ズール・クルリヴァスタトル
全長約6mの、アンキロサウルス類の1種です。

ズール・クルリヴァスタトル
こちらは体骨格産状の複製。胴体を下から背中方向に見た形で、ズールは死後に背中側(鎧の部分)を下にして水中に堆積したことから、背中の鎧側(上写真の裏側)の状態を確認するため、先に腹側をレプリカで保存したものです。




ズール・クルリヴァスタトル 【実物】※体と尾
皮骨には通常では残らないケラチン質まで保存され、脇腹付近の皮骨には三角錐のようなトゲ状になっていました。その中には先端が損傷し、のちに治癒したと思われる部分があり、位置的にズールどうしが尾を振り回し、当たったのではないかと考えられます。また、皮骨がほぼそのままの位置で残ることは非常に珍しく、他の鎧竜の研究にも大きな影響を与えることになりそうです。

ズール・クルリヴァスタトル&ゴルゴサウルス
ズールとゴルゴサウルスの攻守を再現した展示。

ズール・クルリヴァスタトル

ゴルゴサウルス (学名の由来:恐ろしいトカゲ)【実物】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、カナダ・アルバータ州にて産出。ティラノサウルス類の1種です。

ノドサウルス科の頭骨の一部 【実物】
白亜紀前期の鳥盤類装盾類鎧竜類で、北海道夕張市で産出。2006年にアジア初のノドサウルス科として報告されています。

テスケロサウルス
白亜紀前期の鳥盤類新鳥盤類で、歯の標本数は多いものの、頭骨は数点しかありません。


ケラトプス類の未記載種 【実物】
白亜紀後期の鳥盤類新鳥盤類角竜類。国立科学博物館で研究中です。



ティラノサウルス・レックス”タイソン” (学名の由来:暴君トカゲ) 【実物】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、アメリカのモンタナ州で産出。ティラノサウルスを構成する約300個の骨のうち、177個も実物化石が見つかっており、なんと世界初公開。上腕骨に咬み痕があるのが特徴で、タイソンより小型のティラノサウルスが腕に咬みついたと考えられます。


ティラノサウルス・レックス”スコッティ” (学名の由来:暴君トカゲ)
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、カナダで産出。これまで発見されたティラノサウルスの個体では最重量個体です。



スキピオニクス (学名の由来:暴君トカゲ)【実物】
白亜紀前期の竜盤類獣脚類で、イタリアで産出。スキピオニクスとしては、この1体しか発見されていませんが、静かに浅い海底に沈んだ結果、通常は化石に残らない軟組織まで保存されています。歯の生え代わりが無いことや、骨形成が途中であることなどから、羽化して3週間未満と考えられています。


レーザー励起(れいき)蛍光法
目玉のズールや、スキピオニクスに加えて「レーザー励起(れいき)蛍光法」の紹介も大きな見どころです。上写真は白亜紀前期の鳥盤類角竜類で、羽毛恐竜であるプシッタコサウルスの例ですが、既存の化石から、今まではわからなかった、羽毛など骨以外の痕跡が見つかってきています。過去、軟体部は残らないためほとんど研究ができないような話もされてきましたが、状況が変わってきているように見えます。


カルタノサウルス (学名の由来:肉食の雄牛)
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、アルゼンチンで産出。ケラトサウルス類アベリサウルス科の1種で、頭骨の突起が学名の由来です。


フクイラプトル (学名の由来:福井の略奪者)
白亜紀前期の竜盤類獣脚類で、福井県勝山市で産出。南米のメガラプトルの仲間で白亜紀前期の恐竜。メガラプトル類の祖先に近いため、このグループの分類を考える上で貴重な恐竜です。


メガラプトル (学名の由来:巨大なラプトル)
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、アルゼンチンで産出。前あしのかぎ爪状の末節骨が大きいことから「メガ」と名付けられました。南米大陸の白亜紀の肉食恐竜ではアロサウルス上科のカルカロドントサウルスが有名ですが、その後、白亜紀後期の南米大陸の肉食恐竜として登場した恐竜です。この恐竜の含まれるメガラプトル類ははじめアロサウルス上科とされてきましたが、最近ではコエルロサウルス類’(ティラノサウルスに近縁)なのではないかと言われてきています。


マイプ (学名の由来:死の影を意味する現地の悪霊)【実物】
白亜紀後期の竜盤類獣脚類で、アルゼンチンで産出。2020年に国立科学博物館が参加した調査で発見されたメガラプトル科の一種で、2022年5月に新属新種として命名されました。これまでに発見されているメガラプトル類では最大級、約10mの全長と推定されています。一部の骨しか見つかっていないため、今後さらなる発掘が待たれます。

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