恐竜・翼竜ガイド(11)学名ってなんだ?

○はじめに


 上写真はフクイリュウ。学名はFukuisaurs tetoriensis(フクイサウルス テトリエンシス)といいます。 イグアノドン類の一種で、生きていた時代は、中生代の白亜紀前期。2003年に正式に命名されて、日本初の日本固有種かつ全身骨格が見つかった恐竜化石として話題になった恐竜です。

○フクイサウルスとはどういう意味か

 さて、冒頭でも紹介しましたが、フクイリュウには二つ名前があります。

 ひとつはフクイリュウといい、通名といいます。その名の通り、通称です。日本と中国産以外の恐竜が日本で紹介される場合にはあまりつけられていません。あだ名のようなもので、好きにつけることが出来ます。ですので、1つの生物に対して、各国ばらばらの名前がついています。    

 もうひとつのFukuisaurs tetoriensis(フクイサウルス テトリエンシス)は、学名といいます。これは、研究に役立つように「特定の命名規則に従い」「記載論文で」命名された「正式な」名前で、「世界中で」通用します。

 今見られる殆どの動物の場合、通名で呼ばれることが殆どなので、学名は研究者でないと馴染みはないでしょうが、恐竜の場合は少し事情が異なり、多くの恐竜はこの学名で様々な本や展示会などで紹介されています。

 たとえば、恐竜の代表格として有名なティラノサウルス。これは学名です。もっとも、正式な学名はTyrannosaurus rex(ティラノサウルス・レックス)といいます。通常はティラノサウルスと学名の前半部分だけで呼ばれ、後半部分は省略されます。

 一方、ゾウを学名で呼ぶことは殆どありません。アフリカゾウの場合、学名ではLoxodonta africanaと表記。でも、この学名で呼ぶことは一般には殆どないですね。ちなみに英語だとAfrican elephant です。
 

○学名:特定の命名規則

 それでは、この学名はどのようにして命名されるのでしょうか。

 国際動物命名規約(International Code of Zoological Nomenclature)、略称ICZNというものが、動物命名法国際審議会 (International Commission on Zoological Nomenclature)ICZNによって制定されています。ちなみに動物以外では、国際藻類・菌類・植物命名規約、国際細菌命名規約なんてのもあります。詳細な内容には踏み込みませんし、規約により細かい違いはありますが、以下のような取り決めになっています。

@ ラテン語で表記

A 分類に従い、属名+種名(種小名) で命名

 Fukuisaurs tetoriensis
 ↑       ↑
 属名     種名

 これを、二名法といいます。あとで紹介しますが、分類を反映した名前なのです。
 ここではフクイサウルスというのは、1つのグループ名と覚えておいてください。ちなみに話がややこしくなりますが、属名と種名の間に亜属名なんて入ることも。属名と全く同じ綴りの場合は、(頭文字.)と表記したり、(s.s.)と表記します。・・・まあ、とにかく複雑な学名表記もあるよ、ぐらいの話で。

B イタリック(斜体)で表記

 Fukuisaurs tetoriensis

 このように、イタリック(斜体)で表記するのが正しい学名の綴り方。

 Fukuisaurs tetoriensis Kobayashi & Azuma, 2003
 ちなみに、命名者と記載論文の発表年度をノンイタリックでつけることもあります。ちなみに命名者の中で唯一、カール・フォン・リンネ(Carl von Linne、1707-1778)の名前のみはL.で略されています。彼は、こういった学名や分類の基礎を考案した「分類学の父」であり、特別扱いされているというわけです。

C 同じ名前の動物がいないこと

 異物同名(ホモニム)はだめです。後から命名したものは名前を変えなくてはなりません。
 

D 別種とされていた2つの生物が、同じ生物だと判明した場合

 こうなってしまうと、同じものに二つの違う名前がついている状態になります。これを、同物異名(シノニム)といいますが、こういう状況はNG。そこで、原則として先に命名された名前が有効となります(先取権)。ただし、先に命名された名前を有効にした結果、かえって混乱する場合は別です。
 

▼ということで・・・


 さて、改めて学名Fukuisaurs tetoriensis(フクイサウルス テトリエンシス)という恐竜について。(上写真は復元モデル)

 以上の説明に従って学名を解説すると、Fukuisaurs tetoriensis=フクイサウルス属のテトリエンシス種の恐竜、という意味になります。このように、学名は分類を反映した名前です。ただ、繰り返しになりますが恐竜の場合、大抵は学名の前半部分、つまり属名だけで一般に紹介されることが大半。フクイサウルス、ティラノサウルスとか、ステゴサウルス、トリケラトプス・・・という感じに。

 はて、これってどういう状態なのでしょう?
 テトリエンシス種と、それ以外のフクイサウルスの種には、どのような違いがあるのでしょうか?

 そこで身近な例で、ライオンとトラについて考えて見ましょうか。ライオンの学名は「Panthera leo」、トラの学名は「Panthera tigris」なので、実は両方とも同じパントラ属として分類されています。つまり、普段は属名で呼ばれる恐竜ですが、実はライオンとトラを区別しないで紹介しているような感じなのです。

○恐竜の名前の意味

 名前をつけるときには多くの場合、意味のある名前をつけますね。長男を「太郎」、次男を「次郎」とするように。恐竜をはじめとする生物の名前にも、ちゃんと意味があります。では、フクイサウルスとはどういう意味でしょう。

 まず、フクイは当然福井県から来ています。ではサウルスはどういう意味でしょう?

 これは、トカゲという意味です。または、たまに竜と紹介されることもあります。サウルスという言葉(ラテン語)は、トカゲだけではなく「爬虫類全般」も意味するらしい曖昧さなので、「竜」と訳しているのは間違いというわけではありません。ともあれ、フクイサウルスという名前の意味は、福井のトカゲということです。

 そしてこのように、恐竜の名前は多くは「○○のトカゲ」という意味を持っています。


 ちなみに種名のtetoriensis(テトリエンシス)は、発掘場所の手取層群(福井県勝山市)に由来しています(上写真は当時の環境を再現した模型)。ただ、恐竜のすべての種名が発掘場所に由来しているわけではないので、種名の由来はケースバイケースですね。  


 ほかの例も見てみましょう。
 有名な恐竜の1つ、ステゴサウルスの場合、外見的特徴が属名の由来です。

 上写真を見てお分かりの通り、何と言ってもステゴサウルスの最大の特徴は、外見的に目立つ背中の板! それを屋根に見立て、屋根を意味するステゴという名前が与えられました。つまり、ステゴサウルスという学名(属名)は「屋根トカゲ」という意味なのです。
(執筆:馬藤永徳)

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