さて、今回は複数のお話です。まず複数形の作り方を、それから複数での格変化を説明します。それから最後に特殊な変化をする男性名詞と、辞書での名詞の見方を説明します。これで名詞の格変化の話は終わりです。
ドイツ語の名詞の複数形の作り方は、ややこしい話ですが4通り存在します。このほか、外来語の場合は英語やフランス語風に-sをつけて複数にする語もあり(例えばAuto「自動車」の複数形はAutos)、実質的には5通りです。ドイツ語本来の複数形4通りは、どれが主流ということはなく、全てよく見られます。従って全てきちんと覚えなければなりません。
しかも、母音がウムラウト化する場合もあるので、ちょっと面倒です。さらに、どの名詞がどの複数形になるのかは、単音節の中性名詞が3.の-er式、それ以外の単音節の語が2.の-e式が多いという傾向が言えるだけで、基本的には名詞ごとに覚えなければなりません。語形から決まっているのではなく歴史的に決まっているせいです。
いわゆる単複同形。つまり単数形と複数形が同じ形というものです。
Spiegel シュピーゲル (男)鏡
Zimmer ツィンマー (中)部屋
複数形にする時に母音がウムラウト化(a→ä、o→ö、u→ü)する名詞もあります。
Vater ファーター (男)父親 →Väter フェーター
Tochter トホター (女)娘 →Töchter テヒター
aやoやuという母音があるのに、ウムラウト化しない名詞もあります。
Adler アードラー (男)鷲 →Adler
Onkel オンケル (男)叔父 →Onkel
複数形にするときに語尾に-eを追加するというものです。単音節(つまり語の中に母音が1つしかない)語の多くはこの方式です。
Tag ターク (男)いちにち →Tage ターゲ
Jahr ヤール (中)年 →Jahre ヤーレ
König ケーニヒ (男)国王 →Könige ケーニゲ
このタイプの変化をするものにも、複数形にするときに母音がウムラウト化するものがあります(JahrやTagのように、ウムラウト化しないものもあります)。このタイプの女性名詞の単音節語は可能なら必ずウムラウト化します。
Stadt シュタット (女)都市 →Städte シュテッテ
Gast ガスト (男)客 →Gäste ゲステ
Fuß フース (男)足 →Füße フューセ
Traum トラウム (女)夢 →Träume トロイメ
äuはeuと同様、オイと発音します。
複数形にするときに語尾に-erを追加するというものです。この方式の変化をする女性名詞はありません。また、母音は可能なら必ずウムラウト化します。単音節の中性名詞はほとんどこの方式です。
Feld フェルト (中)野原 →Felder フェルダー
Land ラント (中)国 →Länder レンダー
Gott ゴット (男)神 →Götter ゲッター
複数形にするときに-enを追加します。名詞が-eで終わっていた場合にはnだけを追加します。この方式で母音がウムラウト化することはありません。
Löwe レーヴェ (男)ライオン →Löwen レーヴェン
Junge ユンゲ (男)若者 →Jungen ユンゲン
Student シュトゥデント (男)学生 →Studenten シュトゥデンテン
See ゼー (女)海 →Seen ゼーエン
Arbeit アルバイト (女)仕事 →Arbeiten アルバイテン
Quelle クヴェッレ (女)泉、水源 →Quellen クヴェッレン
Staat シュタート (男)国家 →Staaten シュターテン
Auge アウゲ (中)目 →Augen アウゲン
qは単独で用いず、必ず後ろにuを、そしてその更に後ろに母音を伴います。
qu-は[kv]と発音します。つまり、例えばque-はクヴェと発音します。英語のように「クェ」とは発音しないので注意。
複数形では、性の区別はありません。どの性の名詞も複数形では同じ変化(いや、変化するのはやっぱり冠詞と形容詞なんですけどね)をします。
複数形Länder「国々」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
定冠詞der | die Länder ディ レンダー | der Länder デア レンダー | den Ländern デン レンダーン | die Länder ディ レンダー |
不定冠詞ein | Länder レンダー | Länder レンダー | Ländern レンダーン | Länder レンダー |
冠詞なし | Länder レンダー | Länder レンダー | Ländern レンダーン | Länder レンダー |
複数形の格変化は、女性形と非常に似ています。しかし3格でderではなくdenになり、さらに名詞自身に-nという語尾が付きます。複数形の作り方が4.の-en式だった場合はそもそも語尾が-nで終わっているわけですが、この場合は更にnが付くことはありません。
複数形Jungen「若者たち」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
定冠詞der | die Jungen ディ ユンゲン | der Jungen デア ユンゲン | den Jungen デン ユンゲン | die Jungen ディ ユンゲン |
不定冠詞ein | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン |
冠詞なし | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン | Jungen ユンゲン |
なお、不定冠詞einは「1」を表す数詞einsが語源であり、「ひとつの」という意味を含んでいるので、複数形につくことが出来ません。このため「不定」の意味の複数形は冠詞を伴わない形になります。このため「不定」は3格しか識別できません。Jungenのような-en型の複数形の場合は格を全く区別できません。
余談ですが、英語の不定冠詞はaで、後ろに母音が来るときにはan、と説明されていますが、これは逆です。本来はanで、後ろに子音が来るときにaになるのです。もちろんanはoneが語源です。
単数形の変化の中には、1格以外の全ての格で語尾-enが付くものもあります。この変化をするのは男性名詞に限られ、男性弱変化名詞といいます。男性弱変化名詞の複数形は必ず4.の-en式です(従って母音のウムラウト化はありません)。
つまり、男性弱変化名詞は、単数1格以外で全て語尾-enをとるわけです。
以下、このタイプの変化を示します。
男性名詞Student「学生」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 | |
定冠詞der | 単数 | der Student デア シュトゥデント | des Studenten デス シュトゥデンテン | dem Studenten デム シュトゥデンテン | den Studenten デン シュトゥデンテン |
複数 | die Studenten ディ シュトゥデンテン | der Studenten デア シュトゥデンテン | den Studenten デン シュトゥデンテン | die Studenten ディ シュトゥデンテン | |
不定冠詞ein | 単数 | ein Student アイン シュトゥデント | eines Studenten アイネス シュトゥデンテン | einem Studenten アイネム シュトゥデンテン | deinen Studenten アイネン シュトゥデンテン |
複数 | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | |
無冠詞 | 単数 | Student シュトゥデント | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン |
複数 | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン | Studenten シュトゥデンテン |
単数2格以外で全て語尾が付くので、このタイプの名詞は冠詞がないとほとんど格も数も表せません。
ドイツ語の辞書では、名詞について意味の他に次の3つの情報が必ず載っています。
1.性
2.単数2格の語尾
3.複数の語尾
この3つが載ってなかったらその辞書は不良品です。直ちに使用を取りやめて出版社に抗議の手紙を書きましょう。
単数2格と複数の語尾を載せるのは、それによって名詞の変化形が表されるからです。もちろんウムラウト化が起こる場合にはそれも表示することになっています。
例)
Spiegel (男)-s/- 鏡
:スラッシュ記号の前が単数2格、後ろが複数形です。ハイフンだけは変化なしということ。つまりこれは単数2格はSpiegels、複数形はSpiegelのまま(同尾式)ということです。
Stadt (女)-/-¨e 都市
:-¨は、ハイフンの上にウムラウト記号が載った文字で、単語中の母音(ここではa)がウムラウト化するよ、ということです。従って単数2格はStadtのまま、複数形はStädteということです。
Löwe (男)-n/-n ライオン
:単数2格も複数も-nですから、男性弱変化名詞です。単数2格・3格・4格、複数全てでLöwenとなります。
なお、ここでは男性名詞は(男)、女性名詞は(女)、中性名詞は(中)という略号を使っていますが、ドイツ語の頭文字を使って示すこともあります。
m. Maskulinum マスクリーヌム(またはマスクリヌム) 男性名詞
f. Femininum フェミニーヌム(またはフェーミニヌム) 女性名詞
n. Neutrum ノィトルム 中性名詞
Maskulinum、Femininum、Neutrumはどれも中性です。ですから定冠詞をつけるとdas Maskulinum、das Femininum、das
Neutrum。ややこしい話ですが、「男性名詞」「女性名詞」という言葉は中性名詞なのです。
ちなみに複数形は特殊で、-umを-aに変えて作ります。Maskulinum→Maskulina、等々。ラテン語に由来するので、ラテン語の複数形の作り方に従っているのです。
あ、そうそう、ちなみに「複数形」は、
pl. Plural プルーラール(またはプルラール) または
pl. Pluralis プルラーリス
といいます。PluralもPluralisも男性名詞で、Pluralの複数形はPlurale(ドイツ語の-e型)、Pluralisの複数形はPlurales(ラテン語式)です。
さて、名詞の変化はこれで全て終わりです。特殊変化がちょっと残っていますが、それはまたおいおい扱うことにしましょう。ですが格変化はこれで終わりではありません。形容詞の変化はまだ説明していません。来週は形容詞の変化を扱います。