今回はまず所有の言い方のお話をします。ドイツ語では、所有、つまり日本語の「の」に当たる言い回しは、3通りの言い方が使い分けられます。
・まず第一に、2格を使った言い方。
ein Foto des Idols アイン フォート デス イドールス [Foto (中)写真 Idol(中)アイドル] そのアイドルの写真
この言い回しは英語の"……'s"にあたります。これが基本です。
人名の場合は、英語と同様にsをつけて済ませることがあります。英語と違ってアポストロフィ、つまり記号「'」がつかないことに注意。単にsです。
Dvoraks Symphonie ドヴォルジャクス ジュンフォニー [Symphonie (女)]ドヴォルザークの交響曲
修飾される名詞に2格の名詞をつける場合には、2格は後置されます。2格の名詞が固有名詞ではないときはほぼ必ず後置されます(des Idols Fotoとはふつうしない)。
die Symphonie Dvoraks
ちなみに、2格で-sがつくのは中性名詞と男性名詞(弱変化を除く)ですが、女性名詞でも人名や地名なら-sをつけてすますことも出来ます。
das Lied Annes ダス リート アンネス (もしくはAnnes Lied アンネス リート) [Lied (中)歌]
アンネの歌
・次に、所有冠詞を使った言い方。人称代名詞の2格は所有を表すのに使えず、代わりに所有冠詞を使います。英語の人称代名詞所有格にあたります。
sein Foto ザイン フォート 彼の写真
ちなみに、英語の人称代名詞の所有格は、実は本当は所有格ではなく、所有冠詞です。冠詞なので、定冠詞や不定冠詞と同時に現れることが出来ないのです(the
my brotherなどとは言えない)。ドイツ語でも同様です。冠詞は1つの名詞に対して1つまでしかつけることが出来ません。
所有冠詞については、次の項で扱います。
・最後に、前置詞vonを使った言い方があります。英語のofに当たります。vonの後には3格の名詞が来ます。
ein Foto von der Spielerin アイン フォート フォン デア シュピーレリン [Spielerin (女)女優、女性プレイヤー]
その女優の写真
英語ではofを使う言い回しが多用されますが、ドイツ語ではそれほどでもありません。2格で済ませることも多いようです。しかし女性名詞には、2格と3格が区別できないという問題があります。例えばein
Foto der Spielerinとすると「その女優の写真」なのか「写真が/をその女優に」なのかわかりにくくなってしまいます。このような場合に誤解を避けるため、vonを使います。
また、名詞によっては語尾がsやßで終わっていて、更に2格の-sをつけることが出来ない場合があります。こんな時も代わりにvonを使って2格であることを示します。
ein Foto von Hans アイン フォート フォン ハンス ハンスの写真
Hanss Fotoとかein Foto Hanssとやっても発音できないから困る。それでvonの助けを借りるわけです。
人称代名詞の2格はほとんど使いません。なぜなら、その代わりに所有冠詞というのを使うからです。「〜の」という表現の時に人称代名詞の2格を使ってはいけません。人称代名詞の2格は、前置詞や動詞が要求したときにだけ使うのです。
まず所有冠詞の表を挙げましょう。
数 | 人称 | 性 | 所有冠詞 |
単数 | 1 | mein マイン | |
2 | dein ダイン | ||
3 | 男 | sein ザイン | |
女 | ihr イーア | ||
中 | sein ザイン | ||
複数 | 1 | unser ウンザー | |
2 | euer オイアー | ||
3 | ihr イーア |
所有冠詞はeinと同様の変化をします。以下、mein「私の」を使って変化を示します。
所有冠詞mein | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
男性 | mein マイン | meines マイネス | meinem マイネム | meinen マイネン |
女性 | meine マイネ | meiner マイナー | meiner マイナー | meine マイネ |
中性 | mein マイン | meines マイネス | meinem マイネム | mein マイン |
複数 | meine マイネ | meiner マイナー | meinen マイネン | meine マイネ |
所有冠詞は不定冠詞einと同じ変化をするので、所有冠詞の後に付いた形容詞は混合変化になります。形容詞の混合変化については(11)で扱いましたが、(11)ではeinに複数形がないからという理由で複数形を挙げずじまいでした。でも所有冠詞は複数になれます。というわけで、ここで所有冠詞seinを例に、複数形を含む混合変化を挙げることにします。
所有冠詞sein | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
男性 neuer Stuhl 「新しい椅子」 | sein neuer Stuhl ザイン ノィアー シュトゥール | seines neuen Stuhls ザイネス ノィエン シュトゥールス | seinem neuen Stuhl ザイネム ノィエン シュトゥール | seinen neuen Stuhl ザイネン ノィエン シュトゥール |
女性 wichtige Rolle 「重要な役割」 | seine wichtige Rolle ザイネ ヴィヒティゲ ロッレ | seiner wichtigen Rolle ザイナー ヴィヒティゲン ロッレ | seiner wichtigen Rolle ザイナー ヴィヒティゲン ロッレ | seine wichtige Rolle ザイネ ヴィヒティゲ ロッレ |
中性 freudiges Präsent 「嬉しいプレゼント」 | sein freudiges Präsent ザイン フロィディゲス プレゼント | seines freudigen Präsents ザイネス フロィディゲン プレゼンツ | seinem freudigen Präsent ザイネム フロィディゲン プレゼント | sein freudiges Präsent ザイン フロィディゲス プレゼント |
複数 schwarze Katzen 「(複数の)黒猫」 | seine schwarzen Katzen ザイネ シュヴァルツェン カッツェン | seiner schwarzen Katzen ザイナー シュヴァルツェン カッツェン | seinen schwarzen Katzen ザイネン シュヴァルツェン カッツェン | seine schwarzen Katzen ザイネ シュヴァルツェン カッツェン |
複数は混合変化以外でも女性とよく似た変化をしますが、混合変化1格と4格では形容詞の複数形語尾が女性と違うことに注意してください。女性だと-eですが複数だと-enです。
この性と数は、所有冠詞が付いている名詞によって決まります。つまり、所有冠詞の指すものが男性であるか女性であるか、等々とは関係ありません。
例:
mein Vater 私の父が (Vaterが男性名詞だから無語尾)
seine Schwester 彼の妹が/を (Schwesterが女性名詞だから語尾-eを取っている)
ihres Rücksackes 彼女の/彼らの/彼女らのリュックサックの (Rücksackが男性名詞なので-es)
人称代名詞の三人称複数形は、二人称「あなた」に対して使う場合にはSie、と頭文字を大文字にするのでした。所有冠詞ihrの場合も同じです。
Ihres Rücksackes あなたのリュックサックの
なお、1つの名詞に対して冠詞は1つしかつくことが出来ません。つまり、所有冠詞が付くときは定冠詞も不定冠詞もつくことが出来ません。
「〜がない」という意味のkeinも不定冠詞と同様の変化をします。これはかかった名詞がないことを表します。
Es gibt keine Feder. エス ギプト カイネ フェーデル
ペンがありません。
keinも意味上複数形のない語です。
werdenは「(1格)になる」という意味の動詞です。また、未来形や受け身を表す助動詞としても用いられます。この動詞は不規則な変化をします。
人称 | 単数 | 複数 |
1 | werde ヴェアデ | werden ヴェアデン |
2 | wirst ヴィルスト | werdet ヴェアデト |
3 | wird ヴィルト | werden ヴェアデン |
2人称単数と3人称単数で母音eがiになること、3人称単数で語尾-tがないことに注意。
ドイツ語の未来形は、werden+不定詞で作ります。以下、動詞gehen「行く」を例に表にします。
人称 | 単数 | 複数 |
1 | werde gehen ヴェアデ ゲーエン | werden gehen ヴェアデン ゲーエン |
2 | wirst gehen ヴィルスト ゲーエン | werdet gehen ヴェアデト ゲーエン |
3 | wird gehen ヴィルト ゲーエン | werden gehen ヴェアデン ゲーエン |
文を作るときには、定形第二位の法則というのがありました。定形とは主語によって形の定まるもののことですから、未来形の場合は助動詞werdenが定形として2番目に来ます。
Ich werde zu Berlin gehen. イッヒ ヴェアデ ツー ベルリン ゲーエン [zu (3格)へ]
私はベルリンに行くつもりです。
不定詞はこのように、必ず文末に来ます。
未来形を否定するときは、不定詞の前にnichtを置きます。
Er wird auf den Brief seines Vaters nicht antworten. エア ヴィルト アウフ デン ブリーフ ザイネス ファータース ニヒト アントヴォルテン [Brief (男)手紙 antworten (auf+4格)に返事する]
彼は父の手紙に返事を書かないでしょう。
未来の疑問文は、現在形の場合と同様、werdenを文の最初に持ってきて作ります。
Werden Sie fernsehen? ヴェアデン ズィー フェルンゼーエン [fernsehen テレビを見る]
テレビ見る?
さて次回です。次回は分離動詞についてのお話です。英語でも動詞+副詞で決まった言い回しになる場合がありますが、ドイツ語では動詞+副詞が奇妙な振る舞いをして私たちを惑わせます。しかしわかってみればルールは簡単。ついでに前置詞についても触れることにします。