ドイツ語入門編(13) 所有の言い方、未来形

 今回はまず所有の言い方のお話をします。ドイツ語では、所有、つまり日本語の「の」に当たる言い回しは、3通りの言い方が使い分けられます。

○所有の表現

・まず第一に、2格を使った言い方。
 ein Foto des Idols アイン フォート デス イドールス [Foto (中)写真 Idol(中)アイドル] そのアイドルの写真
 この言い回しは英語の"……'s"にあたります。これが基本です。

 人名の場合は、英語と同様にsをつけて済ませることがあります。英語と違ってアポストロフィ、つまり記号「'」がつかないことに注意。単にsです。
 Dvoraks Symphonie ドヴォルジャクス ジュンフォニー [Symphonie (女)]ドヴォルザークの交響曲
 修飾される名詞に2格の名詞をつける場合には、2格は後置されます。2格の名詞が固有名詞ではないときはほぼ必ず後置されます(des Idols Fotoとはふつうしない)。
 die Symphonie Dvoraks

 ちなみに、2格で-sがつくのは中性名詞と男性名詞(弱変化を除く)ですが、女性名詞でも人名や地名なら-sをつけてすますことも出来ます。
 das Lied Annes ダス リート ンネス (もしくはAnnes Lied ンネス リート) [Lied (中)歌]
 アンネの歌


・次に、所有冠詞を使った言い方。人称代名詞の2格は所有を表すのに使えず、代わりに所有冠詞を使います。英語の人称代名詞所有格にあたります。
 sein Foto ザイン フォート 彼の写真

 ちなみに、英語の人称代名詞の所有格は、実は本当は所有格ではなく、所有冠詞です。冠詞なので、定冠詞や不定冠詞と同時に現れることが出来ないのです(the my brotherなどとは言えない)。ドイツ語でも同様です。冠詞は1つの名詞に対して1つまでしかつけることが出来ません
 所有冠詞については、次の項で扱います。


・最後に、前置詞vonを使った言い方があります。英語のofに当たります。vonの後には3格の名詞が来ます。
 ein Foto von der Spielerin アイン フォート フォン デア シュピーレリン [Spielerin (女)女優、女性プレイヤー]
 その女優の写真

 英語ではofを使う言い回しが多用されますが、ドイツ語ではそれほどでもありません。2格で済ませることも多いようです。しかし女性名詞には、2格と3格が区別できないという問題があります。例えばein Foto der Spielerinとすると「その女優の写真」なのか「写真が/をその女優に」なのかわかりにくくなってしまいます。このような場合に誤解を避けるため、vonを使います。

 また、名詞によっては語尾がsやßで終わっていて、更に2格の-sをつけることが出来ない場合があります。こんな時も代わりにvonを使って2格であることを示します。
 ein Foto von Hans アイン フォート フォン ンス ハンスの写真
 Hanss Fotoとかein Foto Hanssとやっても発音できないから困る。それでvonの助けを借りるわけです。

○所有冠詞

 人称代名詞の2格はほとんど使いません。なぜなら、その代わりに所有冠詞というのを使うからです。「〜の」という表現の時に人称代名詞の2格を使ってはいけません。人称代名詞の2格は、前置詞や動詞が要求したときにだけ使うのです。

 まず所有冠詞の表を挙げましょう。

人称所有冠詞
単数mein マイン
dein ダイン
sein ザイン
ihr イーア
sein ザイン
複数unser ウンザー
euer オイアー
ihr イーア

 所有冠詞はeinと同様の変化をします。以下、mein「私の」を使って変化を示します。

所有冠詞mein1格2格3格4格
男性mein マインmeines マイネスmeinem マイネムmeinen マイネン
女性meine マイネmeiner マイナーmeiner マイナーmeine マイネ
中性mein マインmeines マイネスmeinem マイネムmein マイン
複数meine マイネmeiner マイナーmeinen マイネンmeine マイネ


 所有冠詞は不定冠詞einと同じ変化をするので、所有冠詞の後に付いた形容詞は混合変化になります。形容詞の混合変化については(11)で扱いましたが、(11)ではeinに複数形がないからという理由で複数形を挙げずじまいでした。でも所有冠詞は複数になれます。というわけで、ここで所有冠詞seinを例に、複数形を含む混合変化を挙げることにします。


所有冠詞sein1格2格3格4格
男性
neuer Stuhl
「新しい椅子」
sein neuer Stuhl
ザイン ィアー シュトゥー
seines neuen Stuhls
ザイネス ィエン シュトゥールス
seinem neuen Stuhl
ザイネム ィエン シュトゥー
seinen neuen Stuhl
ザイネン ィエン シュトゥー
女性
wichtige Rolle
「重要な役割」
seine wichtige Rolle
ザイネ ヴィヒティゲ ロッ
seiner wichtigen Rolle
ザイナー ヴィヒティゲン ロッ
seiner wichtigen Rolle
ザイナー ヴィヒティゲン ロッ
seine wichtige Rolle
ザイネ ヴィヒティゲ ロッ
中性
freudiges Präsent
「嬉しいプレゼント」
sein freudiges Präsent
ザイン フィディゲス プレント
seines freudigen Präsents
ザイネス フィディゲン プレンツ
seinem freudigen Präsent
ザイネム フィディゲン プレント
sein freudiges Präsent
ザイン フィディゲス プレント
複数
schwarze Katzen
「(複数の)黒猫」
seine schwarzen Katzen
ザイネ シュヴァルツェン カッツェン
seiner schwarzen Katzen
ザイナー シュヴァルツェン カッツェン
seinen schwarzen Katzen
ザイネン シュヴァルツェン カッツェン
seine schwarzen Katzen
ザイネ シュヴァルツェン カッツェン


 複数は混合変化以外でも女性とよく似た変化をしますが、混合変化1格と4格では形容詞の複数形語尾が女性と違うことに注意してください。女性だと-eですが複数だと-enです。


 この性と数は、所有冠詞が付いている名詞によって決まります。つまり、所有冠詞の指すものが男性であるか女性であるか、等々とは関係ありません。

 例:
 mein Vater 私の父が (Vaterが男性名詞だから無語尾)
 seine Schwester 彼の妹が/を (Schwesterが女性名詞だから語尾-eを取っている)
 ihres Rücksackes 彼女の/彼らの/彼女らのリュックサックの (Rücksackが男性名詞なので-es)

 人称代名詞の三人称複数形は、二人称「あなた」に対して使う場合にはSie、と頭文字を大文字にするのでした。所有冠詞ihrの場合も同じです。

 Ihres Rücksackes あなたのリュックサックの


 なお、1つの名詞に対して冠詞は1つしかつくことが出来ません。つまり、所有冠詞が付くときは定冠詞も不定冠詞もつくことが出来ません。

○kein

 「〜がない」という意味のkeinも不定冠詞と同様の変化をします。これはかかった名詞がないことを表します。

 Es gibt keine Feder. エス プト カイネ フェーデル
 ペンがありません。

 keinも意味上複数形のない語です。

○werdenの変化

 werdenは「(1格)になる」という意味の動詞です。また、未来形や受け身を表す助動詞としても用いられます。この動詞は不規則な変化をします。

人称単数複数
werde ヴェアデwerden ヴェアデン
wirst ヴィルストwerdet ヴェアデト
wird ヴィルトwerden ヴェアデン

 2人称単数と3人称単数で母音eがiになること、3人称単数で語尾-tがないことに注意。

○未来形

 ドイツ語の未来形は、werden+不定詞で作ります。以下、動詞gehen「行く」を例に表にします。

人称単数複数
werde gehen ヴェアデ ゲーエンwerden gehen ヴェアデン ゲーエン
wirst gehen ヴィルスト ゲーエンwerdet gehen ヴェアデト ゲーエン
wird gehen ヴィルト ゲーエンwerden gehen ヴェアデン ゲーエン

 文を作るときには、定形第二位の法則というのがありました。定形とは主語によって形の定まるもののことですから、未来形の場合は助動詞werdenが定形として2番目に来ます。

 Ich werde zu Berlin gehen. イッヒ ヴェアデ ツー ルリン ゲーエン [zu (3格)へ]
 私はベルリンに行くつもりです。

 不定詞はこのように、必ず文末に来ます。

 未来形を否定するときは、不定詞の前にnichtを置きます。

 Er wird auf den Brief seines Vaters nicht antworten. ア ヴィルト アウフ デン ブリーフ ザイネス ファータース ヒト ントヴォルテン [Brief (男)手紙 antworten (auf+4格)に返事する]
 彼は父の手紙に返事を書かないでしょう。

 未来の疑問文は、現在形の場合と同様、werdenを文の最初に持ってきて作ります。

 Werden Sie fernsehen? ヴェアデン ズィー フェルンゼーエン [fernsehen テレビを見る]
 テレビ見る?


 さて次回です。次回は分離動詞についてのお話です。英語でも動詞+副詞で決まった言い回しになる場合がありますが、ドイツ語では動詞+副詞が奇妙な振る舞いをして私たちを惑わせます。しかしわかってみればルールは簡単。ついでに前置詞についても触れることにします。

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