ドイツ語入門編(16) 過去形・過去分詞形と再帰動詞

○過去形と過去分詞形

 これから4回に分けて、ドイツ語の動詞の最重要項目である、過去形と過去分詞形、それに過去分詞形と助動詞の組み合わせによる様々な表現を説明します。
 これらは、頻度が高いという意味でも重要ですが、同時に、変化形がややこしく、覚えるのが難しいという点でも重要です。気合いを入れていきましょう。

過去形

 まず、過去形。過去形の意味は英語と同様で、つまり現在(発話の時点)よりも時間的に前の出来事を表します。

 Ich bin Student. ッヒ ビン シュトゥント 私は学生です。
→Ich war Student. ッヒ ヴァール シュトゥント 私は学生でした。

 このwarはseinの一人称単数過去形です。動詞の過去形がどのような形になるかは、次で説明します。

過去分詞形

 過去分詞形は分詞、すなわち動詞の意味と形容詞の用法を併せ持つ形です。過去分詞形の意味は受け身かつ完了、すなわち「○○された」です。形容詞として使うだけではなく、助動詞と組み合わせても使うので重要です。

○過去形の作り方

 ドイツ語の過去形は、不定詞から語尾-enを取って、-teをつけ、更にそれに人称語尾をつけて作ります
 過去形の人称語尾は現在形と違うので注意。

人称単数複数
--en
-st-t
--en

 といっても、現在形と違うのは1人称単数と3人称単数で語尾がないということだけですが。

例:hören ヘーレン 聞く
 →hörte-(過去基本形)
 →

人称単数複数
hörte ヘールテhörten ヘールテン
hörtest ヘールテストhörtet ヘールテット
hörte ヘールテhörten ヘールテン

 Er hörte dann Ihre Stimme. ン ァ ヘールテ イーレ シュティンメ
[dann そのとき Stimme (女)声]
 彼がそのときあなたの声を聞いたのです。

 なお、分離動詞は過去形でも分離し、非分離動詞は過去形でも分離しません。

 Ich räumte das Zimmer auf. イッヒ ィムテ ダス ツィンマー ゥフ
[auf|rämen 片づける Zimmer (中)部屋]
 (私は)部屋を片づけた。

○過去分詞形の作り方

 過去分詞は、動詞の不定詞から語尾-enを取り、頭にge-を、後ろに-tをつけて作ります

 freien フィエン 結婚する→gefreiet ゲフィエト
 lieben リーベン 愛す→gelilebt ゲリープト


 なお、例外として、-ierenで終わる動詞は、ge-をつけず、-tだけで過去分詞形を作ります。この形式の動詞は外来語由来で、頭にアクセントがありません。ドイツ語ではアクセントのない音節が語の頭にいくつも並ぶのは嫌われる傾向にあり、もともと語の頭にアクセントのない動詞は、アクセントのないge-をつけることが出来ないのです。

 studieren シュトゥディーレン 勉強する→ studiert シュトゥディールト

○分離動詞と非分離動詞の過去分詞

 分離動詞の過去分詞は、前綴を除いた部分の動詞の過去分詞を作り、その前に前綴をつけます。
 結果、前綴と動詞の間にgeが挟まる形になります。

 setzen ッツェン 置く→ gesetzt ゲツト
 ein|setzen ィンゼッツェン はめ込む、任命する、始める→ eingesetzt ィンゲゼツト


 非分離動詞の場合は、前綴を除いた部分の動詞の過去分詞を作り、そのge-の代わりに前綴をつけます。結果、過去分詞ですがge-を伴わないということになります。

 durchsetzen ドゥルヒッツェン 混ぜ込む→ durchsetzt ドゥルヒツト

 durchsetzenは分離動詞としても用いられます。分離動詞の場合には意味が変わります。

 durch|setzen ドゥルヒゼッツェン やり抜く、押し通す→ durchgesetzt ドゥルヒゲゼツト

 geは非分離動詞を作る前綴でもあります。例えば、
 gelangen ゲンゲン 達する→ gelangt ゲンクト
 ですが、gelangtは常にgelangenの過去分詞とは限りません。
 langen ンゲン 手を伸ばす→ gelangt ゲンクト
 かもしれないからです。2つの動詞が同じ過去分詞形を持っている可能性があることには注意する必要があります。

○再帰代名詞

再帰代名詞の形と再帰の意味

 「自分自身」という意味を表す代名詞が、再帰代名詞です。
 1人称、2人称では、人称代名詞そのものが再帰代名詞としても使われます。
 3人称では、sich ズィッヒという再帰代名詞を使います。sichは3格でも4格でも、単数でも複数でもsichです。

 Er wäscht sich. ア ヴェッシュト ズィッヒ [waschen 洗う]
彼は自分[の身体]を洗う。


 このように、代名詞の指す意味内容が主語に「再」び「帰」っていきます。ですから「再帰」代名詞です。その性質上、再帰代名詞には1格はありません。

なぜ1人称や2人称では人称代名詞を使うのか

 3人称では、目的語が再帰代名詞であるときと単に3人称の代名詞であるときでは、意味が変わってきます。

 Er wäscht ihn. ア ヴェッシュト イー
 彼は彼を洗う。

 目的語が再帰代名詞ではないということは、このihnは彼自身ではない別の誰かだということになるわけです。

 これに対して、1・2人称には再帰代名詞がなく、普通の人称代名詞が使われます。

 Ich wasche mich. ッヒ ヴァッシェ ッヒ
 私は自分の身体を洗う。

 この場合のmichは、「私を」という意味であり、当然主語のichと同じ人を指しています。このように、1人称や2人称では、主語と目的語の人称代名詞は当然同じものを指すのですから、わざわざ再帰代名詞を用いたりはしないのです。

 ただし、2人称の敬称であるSieは、相手に対して名指しを避けて「彼ら」と呼んでいるのですから、3人称の場合と同様に再帰代名詞sichを使わなければなりません。

 Waschen Sie sich? ヴァッシェン ズィー ズィッヒ
 ご自分の身体を洗うのですか?

主語が複数の時の再帰代名詞の意味──「相互的」な再帰代名詞

 主語が複数の時には、ややこしいことになります。

 Wir waschen uns. ヴィア ヴァッシェン ンス

 この文の意味は、「私たちは私たち自身を洗う」ですが、それはどういった状況を表しているのでしょうか。
 1)私とAくんとBくんが、それぞれ自分自身の身体を洗っている。
 2)私とAくんとBくんが、互いの身体を洗っている
 どちらも、「私たちが私たち自身を洗っている」ことに変わりはありません。そして、どちらの可能性もあり得ます。このように、再帰代名詞は主語が複数の場合には二つの意味の可能性があるのです。

 Sie gaben ein Geschenk sich. ズィー プ アイン ゲシェンク ズィ
[gab gebenの過去形 Geschenk (中)プレゼント]
 彼らは/あなたがたはプレゼントを交換しあった。

 この場合、自分自身にプレゼントを贈るというのはちょっと考えにくいので、相互的に「お互いに贈りあう」、つまり交換するという意味でしょう。

 「自分自身」なのか「互いに」なのかをどうしても区別したい場合、selbst「自分自身で」かgegenseitig「互いに」を付け加えます。

 Wir waschen uns selbst. ヴィア ヴァッシェン ンス ルプスト
 私たちは自分自身の身体を洗う。
 Wir waschen uns gegenseitig. ヴィア ヴァッシェン ンス ゲーゲンザイティヒ
 私たちはお互いの身体を洗う。

前置詞と再帰代名詞の結合

 再帰代名詞が前置詞の目的語になることがあります。代表例としては、
 für sich 自分一人で
 an sich それ自体で
 von sich aus 自発的に
 などがあります。

○再帰動詞

 ドイツ語の動詞には、目的語に再帰代名詞が来ないと駄目、という動詞があります。こういった動詞を再帰動詞といいます。
 再帰代名詞とは主語自身を指す代名詞ですから、再帰動詞は基本的に主語の内部で行われたことを示す動詞ということになります。

例:sich4 interessieren (für+4格に)興味を持つ

 Ich interessiere mich für Fußball. イッヒ インテレッスィーレ ミッヒ フュア フースバル [Fußball (男)サッカー]
 私はサッカーに興味があります。(主語がichなので再帰代名詞が人称代名詞と同じmichになっている)


 上の例のように、辞書では何格の再帰代名詞を使うのかを、sichの右肩の小さな数字で示します。


 さて次回です。次回は過去形・過去分詞形の作り方の続きです。ドイツ語には、今回お話しした規則的な過去形・過去分詞形(つまり過去形-te、過去分詞形ge-...-te)の作り方に従わない動詞がたくさんあります。今回さりげなく顔を出したseinとgebenがそうです。

 そういう不規則な過去形・過去分詞形を作る動詞に共通しているのは、語尾をつけるのではなく母音を変えて作るということです。また母音替えです。まあ、母音交代はドイツ語の最大の特徴なのです。次回は母音交代と、母音交代による過去形、過去分詞形、それにseinのような、母音交代でも説明できない過去形、過去分詞形についてお話しすることにしましょう。

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