ドイツ語入門編(21) 接続法

○接続法とは

 接続法とは、英語の仮定法にあたるものです。
 しかしこの説明で終わらせるのには不安があります。ひょっとすると……というか、多分……高校では仮定法をちゃんと教えられていないのではないでしょうか。恥ずかしい話ですが、私自身仮定法の使い方をきちんと理解したのは浪人してからでした。

 
そもそも仮定法過去という名前が悪いのです(ドイツ語の「接続法I式」なんて名前も最悪ですが)。仮定法過去は仮定の意味を持っているわけでも過去の意味を持っているわけでもない。なのに仮定法過去。なぜこんな名前を付けたのかと、最初に名前を付けた人を問いつめたいぐらいです。


 では仮定法、ドイツ語の接続法の意味は何なのか。
 それは、その文の内容が真実かどうか私わからないよ、ひょっとしたら嘘かもね、という書き手の気持ちを表す形です。
 英語の例文で有名な形に、I wish I were a bird.というのがあります。このwereには、「いやー私が鳥かっていうともちろん違うんだよね。けどね、もし鳥だったらなあ」という気持ちがこもっている。踏み込んで言えば、そこにはI am not a bird「私は鳥じゃない」という意味すら含まれている。だから仮定法なのです。

 もちろん、この文に過去の意味などありません。wereという仮定法の形が、偶然にも過去形と似ているというただそれだけの理由から仮定法「過去」と呼ばれています。本当に誤解を生む名前だと思います。


 接続法、仮定法の意味をまとめると、こうなります。

 接続法(英語の仮定法)は、その文の内容が真実であるかどうかを書き手、話し手が疑っているということを表す

○接続法I式

 さて、接続法の意味をまとめなおしたところで、ドイツ語の接続法の作り方と意味の話に入りましょう。
 ドイツ語には2つの接続法があります。これをI式、II式といいます。もともと現在形であった方がI式、もともと過去形であった方がII式です。I式を接続法現在、II式を接続法過去と呼ぶ場合もあるようですが、どちらも今では現在や過去のことを表しているわけではないので、I式、II式の方が適当ですし、またそう呼ぶのが普通でもあります。


 接続法I式は、不定詞の語尾-enを外して、以下の人称語尾をつけて作ります。

人称単数複数
-e-en
-est-et
-e-en


 2人称単数・複数と3人称単数以外はふつうの現在形と同じ形になってしまいます。
 但しseinは不規則で、全ての人称形でふつうの現在形と違う形であり、しかも単数で-eを伴いません。

人称単数複数
seiseien
seistseiet
seiseien


 接続法I式の用法は2つあります。

要求話法

 1人称複数や3人称に対して、「〜しよう」「〜してくれ」と呼びかける用法です。

 Lernen wir Deutsch! ルネン ヴィーア イチュ! [lernen 学ぶ]
 ドイツ語を学ぼう!

 Sieに対する命令「−en Sie」も、命令形と習いますが、実はこの接続法I式の要求話法です。

間接話法

 他人の言ったことを引用する時、動詞を接続法I式にして「これは誰かが言ったことで私の意見じゃないんだよね、本当かどうかわからないよ」という意味合いを加味します。

 Er sagte, er lerne Deutsch. ア クテ ア ルネ イチュ
 彼は、自分がドイツ語を学んでいると言った(らしい)。

 もし、間違いなく本当だと思っているなら、接続法にする必要はありません。普通の形を使います。

 Er sagte, er lernt Deutsch. ア クテ ア ント イチュ
 彼は、自分がドイツ語を学んでいると言った。

 なお、ドイツ語には時制の一致という概念はありません。なので、上の例のlerntを過去形にしてはいけません。過去形にすると「彼は、(前に)自分はドイツ語を学んでいたと言った」という意味になってしまいます。


 誰かの意見で自分の意見じゃないということを明らかにしたいのに、接続法I式が普通の現在形と同じで見分けが付かないときには、次に述べる接続法II式を使います。

○接続法II式

 接続法II式は、過去基本形に先ほどの語尾をつけます。

人称単数複数
-e-en
-est-et
-e-en

 この時、動詞の母音は変音可能なら必ず変音します。
 sein:過去基本形war→ich wäre, du wärest, er wäre, wir wären, ihr wäret, sie wären
 haben:過去基本形hatte→ich hätte, du hättest, er hätte, wir hätten, ihr hättet, sie hätten
 spielen:過去基本形spielte→ich spielte, du spieltest, er spielte, wir spielten, ihr spieltet, sie spielten

 spielenのように、弱変化動詞で母音がa,o,uではない場合、過去形と接続法II式が同形になってしまいます。

 接続法II式は、英語の仮定法過去と同様、実現不可能であることを表します。

 Wäre ich ein Vogel! ヴェーレ イッヒ アイン フォーゲル [Vogel (男)鳥]
 もし私が鳥だったらなあ!
 Wenn ich Geld hätte, kaufte ich den PC. ヴェン イッヒ ルト ヘッテ ウフテ ッヒ ダス ペーツェー
[wenn もし kaufen 買う PC (男)パソコン]
 お金があったらパソコンを買うんだけどなあ。

 「お金があったら」「パソコンを買う」がともに現実的ではないので、両方接続法II式になっています。なお、この文の語順は変ですが、これは複文だからです。複文における語順については、次回に扱います。

 なお、このkaufenのように過去形と接続法II式が同形である場合、接続法であることを示すためにwürden+不定詞を使うことがあります。

 Wenn ich Geld hätte, würde ich den PC kaufen. ヴェン イッヒ ルト ヘッテ ヴュルデ ッヒ デン ペーツェー ウフェン
 お金があったらパソコンを買うんだけどなあ。


 さて、複文が出てくるようになりました。次回は、複文における配語の話をします。


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