ドイツ語入門編(24) 不定詞句とdass

○はじめに

 今回は名詞句・名詞節の使い方がメインです。句も節も文の一部で、ひとかたまりになって文の要素をなす(今回でいえば名詞の役割を担う)ものですが、節が完全な文の形をしているのに対し、句は主語を伴わないという違いがあります。ドイツ語では、不定詞は句を作りますが節を作ることはできず、節を作るためにはdassを用いなければなりません

 これまで不定詞については、前回取り上げた分詞と同様、他の動詞と結合して特別な意味を表す場合についてしか説明してきませんでした。その理由は分詞と同じ。つまり、名詞句を作るため、構文がややこしくなるからです。とはいえ、分詞の場合ほどややこしい構文を作るわけではありません。

 一方で、動詞(文)の名詞(句・節)化の手段は、不定詞以外にもいくつか存在します。先ほど言ったdassがそうですし、英語の動名詞に当たるような派生語を使うことも可能です。今回は、動詞の名詞化についても見ていくことにします。

○不定詞句

 分詞は形容詞化した動詞ですが、不定詞は名詞化した動詞です。従って分詞と同様に不定詞も目的語を取ることが出来ます。
 不定詞句は、他と区別する必要があるときにはコンマで区切られ、zuを伴った不定詞が最後に置かれます。つまり、
 , (目的語や副詞) zu (不定詞),
 という構造をしています。

 不定詞句は名詞句の一種ですから、名詞として文の主語や目的語になったり、前置詞に支配されたりします。

 Alltäglich zu rauchen ist nicht gut. アルテークリヒ ツー ウヒェン イスト ヒト グー
[alltäglich 毎日 rauchen 煙草を吸う]
 毎日煙草を吸うのは良くない。


 分離動詞がzuを伴うとき、前綴と動詞の間にzuを挟みます。前綴とzuと動詞はスペースをはさまずに一気に書きます。

 Er kam also, gegen die Reform anzulaufen. ア ム ルゾー ゲーゲン ディ レフォルム ンツーラウフェン
[kommen (zu不定詞)という状態になる also それで Reform (女)改革 an|laufen (gegen+4格)に反対する]
 そんなわけで彼はその改革に反対するようになった。


 不定詞句の代わりにesを置いて不定詞句を後置することも可能です。

 Es ist nicht gut, alltäglich zu rauchen.


 不定詞句が4格目的語になったり前置詞に支配されることも可能です。4格目的語となった不定詞句はesで、前置詞に支配された不定詞句はda(r)+前置詞を置いて後置することが出来ます。

 Ich habe es schon aufgegeben, den deutsche Buch zu lesen.
 イッヒ ハーベ エス ショーン アウフゲゲーベン デン イチェ ブッフ ツー レーゼン
[aufgeben 諦める]
 私はもう、そのドイツ語の本を読むのは諦めた。

 Ich freue mich darauf, den deutsche Buch zu lesen.
 イッヒ フイエ ミッヒ ダウフ デン イチェ ブッフ ツー レーゼン
[freuen sich4 auf (3格) 〜を楽しみにしている]
 そのドイツ語の本を読むのが楽しみだ。


 英語の不定詞には、名詞的用法の他形容詞的用法や副詞的用法がありましたが、ドイツ語ではこのような用法はありません。
 ドイツ語の不定詞は名詞的用法しか持たないのです。

○dass節

 従属接続詞dassもzu不定詞と似た使い方をすることが出来ます。esで先行させて後置出来るのも同様です。
 但し、dassは従属接続詞ですから、作るのは名詞句ではなく名詞節です──つまり節内に主語も必要です。

 Es ist sicher, dass er kommt. ス イスト ズィッヒャー ダス ア ムト
[sicher 確かである]
 彼が来るのは確かだ。


 なお、dassは英語のthatにあたる語ですが、thatと違って省略することは出来ません。

○その他の動詞の名詞化方法

不定詞

 不定詞は句を作ることもできますが、単独で使って名詞として扱うことも可能です。
 この場合は、頭文字を大文字にし、中性名詞として扱います。
lesen レーゼン 読む→das Lasen 読書

動名詞(的なもの)

 英語では、動詞の後に-ingをつけた形を「動名詞」と呼び、不定詞と競合するものとして習います。これは英語の不定詞に前置詞と一緒に用いることが出来ない、という制約があるためです。名詞化した動詞を前置詞の目的語にする代わりに、動名詞を前置詞の目的語にするわけです。

 また、動詞によっては直接目的語に不定詞を取るか動名詞を取るか決まっている(あるいは、どちらを取るかで意味が変わる)というものもありました。

 一方、ドイツ語にも、-ungという、動名詞に当たる形がありますが、その用法は英語ほど広くはありません。ドイツ語の不定詞は問題なく前置詞の目的語になれるので、-ung形をわざわざ使う必要はないわけです。直接目的語に-ung形の4格が来なければいけない、という動詞も、私の知る限りでは、ありません。

 そんなわけで、ドイツ語の授業では、わざわざ-ung形を文法事項で教えることはないようです。ただ、いくつかの動詞の決まり切った言い方として-ungによる名詞が存在する、というのも事実です。英語の-ingほど見かけず、-ungによる名詞形は必ずそれ自身独立した名詞として辞書に掲載されているということを考えると、恐らく化石化した言い回しなのでしょう。
 というわけで、ここでは、
・不定詞の-enを除いて-ungをつけた形の名詞がある場合もある。
・動詞から自由に-ung形の名詞を作れるわけではない。
・-ung形の名詞は必ず女性名詞。
 とまとめておくに留めます。

○性数の一致問題

 二つ以上の名詞がundで結ばれたとき、全体としては性と数をどうやって扱えばいいのでしょう。

 この問題は、性を持つ言語では面倒な問題です。例えば男性名詞と女性名詞が混ざっている場合、その集合体は「男性複数」なのか「女性複数」なのか?
 もちろんドイツ語では複数では性の区別がありませんから、それほど悩まずに済みます。単に複数形になればいいのです。

 ですが、全く問題がないわけではありません。男子学生Studentと女子学生Studentinの混ざった集団はStudentenでしょうかStudentinnenなのでしょうか。

 総じて、性の区別のある言語では、男性と女性が混ざっている場合には男性複数にするのがルールです。つまり男子学生と女子学生が混ざっている場合、男子学生がたった一人しかいなくてもStudentenにするのです。

「犬がしっぽを振る」

 「犬のしっぽ」や「彼らの鼻」というような、身体の一部に言及する場合の問題についてです。
 犬がしっぽを振る、という場合、「犬」が複数形なら「しっぽ」は単数にすべきでしょうか複数にすべきでしょうか。

(1)Die Hunde wedeln mit dem Schwanz.
(2)Die Hunde wedeln mit der Schwänze.
[Hund (男)犬 wedeln mit (3格) 〜を振る Schwanz (男)しっぽ]


 (1)のように「しっぽ」を単数形にすると、たくさんの犬が1つのしっぽを共有しているようですし、(2)のように「しっぽ」を複数形にすると、しっぽをたくさん持った犬がいっぱいいるようにも感じられます。つまりどちらでも変なわけです。


 ドイツ語ではこのようなとき、「しっぽ」を単数形にするのが規則です。


 さて次回。次回からは最後の大物、関係代名詞についてです。次回に定関係代名詞、次々回に不定関係代名詞を扱います。


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