第56回海上保安庁観閲式及び総合訓練
       Japan Coast Guard Inspection parade 2012
●高速機動連携訓練
 1985年に発生した最初の不審船事件である日向灘不審船事件、1999年に発生した能登半島沖不審船事件、2001年に発生した九州南西海域不審船事件を経て、海上保安庁は不審船の脅威を認識し、装備の見直しを図り続けてきました。

 不審船対策に重きを置いた警備型巡視船には「足の速さ」と「強力な武器」の二本を軸とした設計がなされています。この訓練は不審船を追尾する際など、複数の警備型巡視船がチームプレイで容疑船を追い詰める場面での操船技術を確認するものであります。

 海上自衛隊護衛艦「やまぎり」と海上保安庁巡視船「しきしま」が連携を取りつつ前進します。海上自衛隊も不審船事案の際には「海上警備行動」を発令し、海上保安庁の手に余ると判断された場合その強力な装備をもって戦線に参加することが可能であり、実際に1999年に発生した能登半島沖不審船事件では船艇の都合で脱落した海上保安庁に代わり海上自衛隊が対処を行いました。この事件の後、「不審船に係る共同対処マニュアル」が策定され、年数回のペースで海自・海保合同で不審船共同対処訓練が実施されているようです。

 巡視船「あまぎ」と巡視船「しもきた」の2隻が高速でコンビネーションプレイを見せます。2隻とも汎用型巡視船を目指して設計されたものの、どちらかというと警備型巡視船としての性能が重視されたタイプであり、速力も30kt以上と言われます。もっとも、あまりに警備型の性質が強すぎて救難業務においては不都合が多いとも言われていますが・・・。


 巡視船「らいざん」「びざん」「たかちほ」の3隻が波飛沫を上げながら向かって参りました。読者の皆様におかれましては、このような小型巡視船による追跡が「不審船対処」としてはもっとも浮かびやすい構図なのではないでしょうか。小型巡視船はその機動力・速力ともに最も優れているタイプであり、最前線での活動を約束されていると言っても過言ではありません。3隻による荒々しくも緻密な連携をご覧ください。






●ファラウェルパレード
 正式なプログラムは以上をもって終了となりますが、まだまだ終わってはいません。ファラウェルパレード――平易な言葉で言うところのお別れパレードこそ、観閲式・総合訓練に続く第3幕と言っても過言ではありません。

 海上保安庁の船艇は配属替えごとに船名を変更する習わしがあり、船名も現地の環境に基づいたものが付与されます。(例外として巡視船「あまみ」など殊勲船として永久にその名が留められるものもあります。)それゆえか、各船には地元愛とも言うべき文化が根付いており、全国各地から巡視船が東京に集まるこの機会を活かして地元PRを行う、それがこのファラウェルパレードの魅力でもあります。

 本来ならば登場順にご紹介すべきところではありましょうが、「地元愛を感じる順」として独断に基づくものではありますが、その熱意への敬意を表する形で掲載したいと思います。あくまでどれも素晴らしいものであり、比べられるものでないと理解した上での順位付けであるということをご承知置きください。

 まず第8位/警視庁 警備艇「ふじ」
 警視庁は毎度お決まりの帽振れ。

 第7位/釧路航空基地 シコルスキー76「しまふくろう」
 ヘリコプターという極めて限られた条件であるを承知の上で、お手降りのみは物足りないところ。「コスプレ・着ぐるみ」でポイントを稼ぎたい。

 第6位/高松海上保安部 巡視艇「ことなみ」
 「讃岐うどん」をコンセプトに電光掲示板をフルに活用したPR。「船上でうどんを食べる」というアイデアはグッと来るものがあるが、「コスプレ・着ぐるみ」の要素が見られなかったのが残念だ。

 特別賞/海上自衛隊 護衛艦「やまぎり」
 これまでファラウェルパレードとなると距離を置いてあまつさえ一足先に帰ってしまう海上自衛隊がなんと今回はパレードに参加。後部甲板上で職種毎の服装で帽振れとシンプルなものだが、その意気には拍手を送りたい。来年以降の参加も望みたいところだ。

 第5位/宮崎海上保安部 巡視船「たかちほ」
 「日南市・古事記編さん千三百年」をコンセプトに着ぐるみ3体の強気の勝負。しかし上位層にインパクトというポイントで点差を付けられてしまったことが残念でならない。

 第4位/徳島海上保安部 巡視船「びざん」
 徳島からの「びざん」は船上で阿波踊りを披露。狭いスペースをフルに活用し、小道具の用意も完璧。まるで船上がお祭り会場と化したようなその雰囲気に見ているこちら側まで突然現れた「徳島」という世界に引き込まれそうになる迫力は見事としか言いようがない。ビバ徳島。

 第3位/中城海上保安部 巡視艇「おきぐも」
 沖縄からの「おきぐも」は船上で沖縄伝統の文化であるエイサーを一糸乱れぬ統率で見事に披露。船上という制約されたスペースも締太鼓の使用で見事にカバー。写真には写っていないが、地謡と呼ばれる先頭で三線を弾き唄う人もおりその完璧さが伺える。沖縄という地理条件もあってか特に地元愛を感じたPRであった。そういった点では第1位に劣るものはなく、むしろ本来は彼らが第1位であるべきなのだ。


 第2位/福岡海上保安部 巡視船「らいざん」
 これまで何度か観閲式には参加して来たが、船首部まで使用したパフォーマンスというのは安全上の理由ゆえかあまり見ることはなかった。が、しかし、その禁忌を破ってまでも新しいパフォーマンスを開拓しようとする挑戦者には最大級の称賛を送りたい。加えて「明太子王子」をセンターに加えた完璧なフォーメーションでの「博多どんたく」を披露。インパクトという点では最高のPRと言えよう。

 特別賞/八戸海上保安部 巡視船「しもきた」
 今回観閲式に参加した船艇の中で2隻、東北太平洋沖地震の被災地から参加した船艇がありましたが、青森・八戸からやってきた「しもきた」が「東北応援ありがとう」の垂れ幕を掲げてファラウェルパレードに参加しました。

 海上保安庁では現在も船艇30隻・航空機8機体制を確保して不明者の捜索に当たっており、まだ彼らにとっては終わってはいないのだ、ということを改めて認識させられます。東北太平洋沖地震における海上保安庁の活動については別途したためたいところですので、今回は敢えて多きに触れはしれませんが、やはり感謝と敬意の念は尽きないところであります。

 もちろん「しもきた」も地元PRの一環として広い後部甲板を活かして「八戸えんぶり」を披露。

 第1位/境海上保安部 巡視船「おき」
 自由と無法は違う――しかし、そのギリギリのラインにおいて見事な芸術を完成させる者もいる。きっと彼らはその一員なのだろう。かつてこれほどまでにフリーダムなパフォーマンスがあっただろうか。一見統制が取れていないようなパフォーマンスの中にも「かに」という共通したコンセプトの基に各人がカニのお面を被り思い思いのPRをするという形式は実に地元愛が伝わってくるものがあった。あっぱれ。

 実は「おき」を最高だと評した理由には彼の存在によるところが大きい。ファラウェルパレードでロープ訓練を披露するなどというのは前代未聞である。もはや訳が分からずコンテクストが崩壊しかけているが、それがこのパレードの魅力でもあるのだ。

 「おバカパレード」とまで言われるこのパレードは海上自衛隊などにはあるわけはなく、海上保安庁ならではのものと言っても間違いあるまい。力強い訓練の後に見せるこのファラウェルパレードのギャップには何故かホッとするものがある。皆様も観閲式にご来場する機会があれば、是非この最後のパレードを楽しみにしていてほしい。

●帰り道
 我々観閲船隊は途中でぐるっと針路を180度転換しながら総合訓練の模様を拝見しておりましたので、船はプログラムが終わるとそのまま直進して東京港へと戻って行きます。途中、横浜から来た客を乗せた巡視船「いず」が再び横浜へと戻るために観閲船隊から離脱して南へと向かいます。また他県から観閲式に参加した船艇も「いず」に続き横浜にある海上保安庁の基地に全速で戻って行きます。


 我々が観閲式のプログラムを楽しんでいる間、巡視船「たかとり」を筆頭に京浜管内の巡視船艇約10隻、ヘリコプター1機による周辺警備が行われていたことに謝意と敬意を示しまして、巡視艇「ゆりかぜ」の写真をここに掲載します。お疲れ様でした。

 船は東京港晴海埠頭へと針路を取り、レインボーブリッジも目の前に迫って参りましたところでレポートの筆を置かせていただきます。前回まで帰港時には都営バスが豊洲行きノンストップバスを運行していたのですが、なんと今回はなし。これまではあのバスのおかげで退路を確保出来ていたので今回の撤退戦は非常に厳しいものとなりました。ガッデム。