はじめに
 上写真の戦艦「大和」をはじめ、過去から現代に至るまで、軍艦には様々な名前が与えられています。今回はその中でも、日本海軍はどのような基準で、艦名を命名したのをご紹介したいと思います。

▼ 基準ができたのは1905(明治38)年から
 明治になって海軍が創設されてからは、特に基準はなく、山岳名、旧国名、河川、名所旧跡などが適宜用いられてきました。名所旧跡の場合ですと、「三笠」「松島」「畝傍」が代表例でしょうか。特に、戦艦「三笠」は日露戦争では連合艦隊旗艦を務め、連合艦隊司令長官の東郷平八郎大将らが座乗したことで有名ですね。

 それが、1905(明治38)年に海軍大臣の山本権兵衛(やまもと ごんのひょうえ 1852〜1933年)が艦名付与基準(案)を作成し、8月1日に標準として決定されたことにより、以下の基準となりました。

艦種 基準 艦名の例&備考 (艦名は代表例。網羅はしていません。)
戦艦 旧国名
大砲を主要兵器とする軍艦のうち、最大のもの
例:安芸、薩摩、摂津、長門、日向、大和、伊勢
例外として日本の異称である「扶桑」も採用
巡洋戦艦 山岳
戦艦と同口径の主砲を搭載し、防御力を減らし速力を増した艦種

例:天城、金剛、比叡、霧島、榛名
一等巡洋艦(重巡洋艦)
山岳
基準排水量10,000トン以下。6.1インチ超え8インチ以下の大砲搭載

例:筑波、伊吹、妙高、那智、足柄、高雄、摩耶
(筑波、伊吹はのちに巡洋戦艦へ転籍)
(例外として加古、最上、利根など。河川名だが、当初は軽巡と扱って製造したため)
二等巡洋艦(軽巡洋艦) 河川
巡洋艦のうち、比較的小型のもの

例:北上、天竜、木曽、阿武隈、神通
練習巡洋艦 神社
例:香取、鹿島、香椎 
航空母艦 瑞祥動物
飛行甲板があり、航空機運用能力を持つ艦船

正規航空母艦の例:翔鶴、瑞鶴、飛龍、蒼龍
 (鶴や龍が付く名前)
軍艦改造航空母艦の例:祥鳳、瑞鳳、龍鳳
 (鳳が付く名前)
商船改造航空母艦の例:隼鷹、飛鷹、大鷹、雲鷹
 (鷹が付く名前)
≪昭和18年には山岳名が命名基準に追加≫
例:天城、葛城、笠置、阿蘇
(例外:信濃は製造途中で戦艦から航空母艦へ、赤城、加賀は製造途中で準用戦艦から航空母艦に変更)
一等駆逐艦
天象、気象
海洋、季節
魚雷を主兵装とした小型の軍艦。装甲が薄い代わりに速い。

例:天霧、夕立、吹雪、弥生、満潮
1943(昭和18年)に植物名を追加し、次のとおり分類
 甲型(艦隊随伴):夕雲、巻雲、鳥風、清波、沖波
  (雲、風、波が付く名前など)
 乙型(防空用):秋月、照月、新月
  (月が付く名前)
 丙型(船団護衛用):松、竹、梅、桑、楓
  (草木の名前)
二等駆逐艦 植物名
例:樺、楢、葦、栗、若竹、呉竹
潜水艦 番号
水中潜航が可能。潜水艇が大型化したことにより、大正時代に潜水艦と改め、大きさに応じて等級分け。

一等潜水艦:「伊号第○○潜水艦」
二等潜水艦:「呂号第○○潜水艦」
三等潜水艦:「波号第○○潜水艦」 ※伊>呂>波の順に大きい
潜水母艦 鯨が末尾に付く
潜水艦を接舷させ食料、燃料、魚雷その他物資を補給

例:大鯨、長鯨、迅鯨
水雷艇
水雷装備で敵を攻撃する小型艦艇

例:千鳥、隼、鳩
海防艦 島、島嶼、列島
沿岸・ 領海警備、船団護衛、対潜哨戒等を主任務とする。

例:占守、八丈、択捉
水上機母艦
武勲艦名
抽象名詞
水上機の運用を行うことを専門とした軍艦

例:千歳、瑞穂、日進
敷設艦 (右のとおり)
(1)機雷敷設艦は島・海峡名(例:沖島、八重島、津軽)
(2)設網を主任務とする艦は鷹の名(例:白鷹、初鷹)
敷設艇・敷設特務艇 島、島嶼、岬
例:夏島、平島、神島、燕
砲艦 名所古蹟
例:鳥羽、比良、熱海
掃海艇・駆潜艇・哨戒艇 番号
一等輸送艦 100番未満の番号
例:第1号輸送艦
二等輸送艦 100番以上の番号
例:第100号輸送艦
特務艦
海峡、水道、瀬戸、港湾、岬、半島
例:足摺、間宮、宗谷
雑役船 番号名(公称第XXXX号)
1937(昭和12)年から、600t以上の大型雑役船中、曳船および救難船の新造船については、泊地にちなんだ地名(市町村名、地域名)を附与

 厳密にいえば・・・や、既にいくつか例示したように、設計変更や改造に伴う転籍によって例外も色々あるのですが、全部こと細かく書いていると、結局何を言いたいのかわからなくなってしまうので、とりあえずこの程度で。なお、分類や解説については、大和ミュージアムの解説板や、「大和・赤城と日本の軍艦(笠倉出版社)」を参考にしています。


戦艦「長門」

巡洋戦艦「高雄」

一等巡洋艦「筑波」

航空母艦「赤城」



一等駆逐艦「島風」



伊号第401潜水艦