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兵科と兵種 その役割 1(階級を分類する)


○はじめに

 いつの時代においても軍というものは組織である。
 組織であるからには当然、様々な部署と階層を有する。

 用兵を学ぶにあたり、また、軍事的戦略戦術を学ぶに置いても、この組織構造を理解することは重要である。


 そこでまずは近代から現代に至る階級制度から見ていこうと思う。

 軍組織の階級制度はその所属する国家ないし組織によって区々であるが、概ね平均的に3段19階層であろうか。従って今回はこの3段19種の階級を陸軍歩兵を中心に説明していこうと思う。個々の役割については、標準的相当であり、それらは国家個別で異なり、更に陸海空の各組織によっても異なる点は、先に明記しておく。


1.【兵】

 そのまま兵士の事を指す。
 兵とは下士官未満の身分であり、軍祖組織の大半を占め、そして末端に位置する。
 概ね兵長以下の階級が兵に分類される。


●新兵
 新兵は実際は階級ではない。
 召集に応じて集められた者が、訓練期間を経て、各所属部署に配属された上で、この様に呼称される。これは大体、配属から三ヶ月間程度(次の新兵が配属される為)。
 以後は階級で呼ばれる。


●二等兵
 軍組織の最末端の階級である。多くは配属から一年以下の者が多い。
 或いは一年以上の者の場合は、徴兵によって徴発された兵士である。直接の上司は上等兵である。


●一等兵
 徴兵された二等兵の軍務期間が過ぎて軍に留まる(志願扱い)と基本的にこの階級になる。或いは志願兵が一年間の軍務期間を過ぎるとこの階級となる。二等兵との格差はそれ程大きくはなく、専任配属の兵士という程度。


●上等兵
 通常は志願兵が一等兵任官から二年目でこの階級となる。或いは、徴兵期間を一期勤めた後、民間に戻り、その後、再び徴兵されるとこの階級となる。軍最小組織である分隊の中で、班を構成し、分隊に配属された兵の面倒を見るのが役割。直接の上官は兵長や伍長である。


●兵長
 通常、志願兵が上等兵の期間を一期勤めると、自動的この階級となる。
 兵長は兵の練達者とされ、早い者だと分隊を任される。このあたりからが本当の職業軍人であろう。


2.【下士官】

 下士官は伍長以上曹長以下の階級で、兵を直接指揮する身分である。また、少佐以下の下級士官の補佐をする立場にある。兵20名に対して1人の割合で軍組織に存在する。また、上等兵士として取り扱われる場合もあり、その際には貴重な兵器が貸し与えられる。


●伍長
 通常は兵長を一期勤めるとこの階級となるが、その場合は、下士官候補生として数ヶ月の訓練期間が設けられる。訓練期間を経て配属されると、分隊長として10名前後の部下を任される。但し、兵長の段階で、分隊長に任命されている場合は、分隊長任命から半年前後でこの階級となり、その際には訓練期間が免除されることが多い。


 また、下士官候補学校や各種軍施設学校を卒業して軍に配属される場合、多くはここがスタートラインとなる。


●軍曹
 叩き上げの場合、分隊長二期勤めると、軍曹に任官される。
 下士官候補学校の成績優秀者の任官の際、この階級で任じられる事もある。或いは、何らかの技術的要素を見出され、訓練期間を経た兵士が、再配属後、この階級となる時もある。一般的に軍隊の知識者とされ、一定の待遇を受けられる。

 軍曹はそれに続く曹長の地位とともに、小隊に於いて実質的な指揮官となる。


●曹長
 叩き上げの場合、軍曹を四期勤めると、曹長に任官される。そして、恐らく現役軍人としては最終的な地位である。
 下士官候補学校の卒業の場合は、もっとも在任期間が長い階級である。しかしながら、曹長の地位はただ、下士官の最上位という地位に留まらず、士官への足がかりとなる重要な地位であり、また、叩き上げ軍人の中から、より経験豊かな士官を求める際に、注目される地位とも言える。

 つまりは、叩き上げ軍人が下士官のままで軍人生活にピリオドを打つか、或いは士官として新しい人生を開くかの分かれ道である。

 それだけに、曹長の地位は質、責任ともに前線では最重要を占め、その言には士官にも一目置かれるのである。


3.【士官】

 士官は准尉以上の階級で、軍組織を直接指揮し運用していく立場にある。

 しかしながら、一言で士官と括る訳にはいかない。というのも、直接、戦場を支える事が多い士官である少佐以下と、司令部を構え、その構成員となり得る中佐以上の格差は埋めがたい物が存在する。この為、少佐以下の士官を下級士官、中佐以上を上級士官と呼ぶ場合もある。ただ、一般的には尉官を下級士官(将校)と置き、佐官を中級士官とし、将官を以って上級士官とするのが、通例であろうか?


●准尉
 正式な士官ではない。
 士官候補生、或いは暫定的士官の意味合いが強い。軍士官学校の生徒は在籍中にこの地位にある。曹長からの昇進でも、平時は部署配属待命中に帯びるのみである。しかも、やはりこの間に士官学校へ士官教育を受けに出向するので、准尉としての地位は士官学校の生徒が帯びる時と、大差がない。

 准尉が准尉のまま何らかの役を帯びざるを得ないケースは、非常事態時に限定される。
 先任将校が何らかの理由で、任を外れ、該当士官が得られない場合、曹長の中より前線指揮官が任命し、該当区管轄指揮官が認可する事で、准尉への昇進が確定され、そのまま先任士官の任を、後任が来るまで引継ぐ。後任が正式に配属されれば、通常は一時、後方勤務に回され、士官学校へ士官教育を受けることになる。

 そして、少尉として原隊復帰する。


●少尉
 正式な士官の最初の第一歩が少尉であり、ここから上級指揮官としての第一歩が始まる事になる。


 さて、少尉には二種類の存在がある。ひとつは実績と信頼性の確かな経験豊富な叩き上げの士官。
 そして今一方は、士官学校あがりの役立たずである。役立たずの少尉は新兵と同じ扱いであり、上官に怒られ、御守役の軍曹や曹長にいびられて、現場のABCを叩き込まれる。

 無論、士官学校でも彼らは徹底したシゴキを経験しているはずであるが、学校は精神面の基本的な強化と肉体面の造成に当てられるのに対して、現場ではより強固な精神骨格の組上げと、部下に対する責任の意味を学んでいくのが、新任の少尉の役目である。基本的には少尉は小隊を預かり、小隊長として任務に就く。


●中尉
 士官学校卒業の士官は少尉任官から一年後には中尉に自動的に昇進する。叩き上げの軍人の場合は、この限りではない。基本的に一人前の士官のレッテルと共に小隊を束ね、能力の如何によっては、より高級軍人の副官任務に就く。

 士官として士官らしい活動をしていくのはここからである。


●大尉
 中尉任官から数年の後に、大尉の辞令が下る。通常は五年前後であろうか。

 大尉は小隊を預かり、時に独立部隊を管轄し、所属する中隊においては、事務官、補給官、等の各種事務を預かり、中隊司令部を構成する。但し、早い者は大尉の階級のままに中隊を預かる事もある。また、将官の副官任務に選抜され、暫し、作戦全体に関与する。そして叩き上げの軍人にとっては最後の階級であろう。

 現場の士官としてはもっとも激務であり、それだけに階級に応じた任務をこなす事で、より高い地位に選抜されるのである。


●少佐
 佐官の第一歩である。
 士官学校卒業の場合、最初の士官任官から10年で任官されれば優秀な方だ。

 中隊を預かり中隊長となり、尉官を統括して中隊司令部を構成する。中隊司令部を構成する事で、来る後の司令部の運用を学ぶ。また、有事戦闘においての最前線の作戦指揮官となり、更に大隊、連隊において、各司令部の構成要員となる。この他、師団司令部の構成要員になる。


●中佐
 実質的な部隊指揮官である。
 大隊を預かり大隊司令部を構成し、各中隊司令部を統括し、連隊・師団の各司令部の構成要員となる。条件や能力に応じて、独立決裁権を有し、本営の作戦司令部の役員となるため、連隊に属さない独立大隊を構える事もある。

 また将校の副官が付く。


●大佐
 高級軍人の実質的な一歩である。
 連隊を預かり連隊司令部を構成し、大隊以下の部隊を束ね、統括し、戦術プランを遂行していく。

 独立決裁権を始め、多くの権限を有し、軍組織内の実権をもっとも掌握している階層である。

 それ故に、クーデターがもっとも成功しやすい階級なのである。

 師団に属さない、本営・総司令部付きの独立大隊を指揮することもある。


●准将
 これも准尉と同様に、正規の将官ではない。
 どちらかというと、将官になる為の準備期間として与えられる階級である。従って、立場としては大佐とそれ程変わらない。連隊指揮権限を失うだけ、大佐の方がマシかもしれない。しかし、准将という地位はより大きな組織運用を学習し、視野を戦術から戦略へと切り替える時期である。

 大佐時代との差が明確なのは、作戦にかかる視野の差かもしれない。


●少将
 正式な将官の第一歩となるのが少将である。だからといって喜べるものでもない。

 彼らには基本的には指揮すべき部下はいない。師団司令部に座し、必要に応じて連隊を統括し指揮するのである。また司令部では司令部会議の委員を務める。

能力に応じては師団から分離した旅団や、師団に属さない独立旅団を預かる事もあるが、連隊長の発言権や実権が暫し強い部隊組織では影が薄くならざるを得ない。
各連隊を掌握し、信頼を勝ち取り、多くの問題を抱えやすい部隊内部において、有効的な指揮系統を確立する方法を実践的に学ぶのである。


 従って、同期の足を引っ張り合う事が多い階級である。


●中将
 将官の中でもっとも将軍らしい地位が中将である。
 一万人以上の人員を誇る師団を統括し、作戦司令部の定めたマクロ的な戦略と戦術の中で、ミクロ的な戦略と戦術を練り上げ、任務を遂行していく。また単純に作戦司令官という位置に留まらず、軍組織において重要な要職に付く。佐官時代、准将・少将の時代に学んだ事が、ここで重要になる。

 さらに、掌握した実践指揮官たる連隊長が彼の組織での実行力となり、組織内部での発言力の大小に影響するのである。
 そして将官の中では唯一、指揮すべき実戦部隊があるのである。


●大将
 将官の中から選抜、選出され、叙任される。
 基本的には中将から昇進してなる訳だが、有事であれば、准将や少将が抜擢により大将になる事もある。

 大将はただ階級が大将に留まるものではなく、軍組織においてもっとも重要な席を担うのである。有事において作戦に従事する際は、複数の師団を統括し、方面軍を組織する。但し、常に指揮統括を受けるべき部下がいる訳ではない。実戦部隊を預かっているのは、基本的には彼の方面司令部に属する中将達であるからだ。


 故に、暫し大将は自らの子飼の中将を部下とし、発言権の強化に勤めるのである。
 これが軍閥化である。


●元帥
 現職の大将から選抜されるものと、退役した大将が退役後に贈与されるものがある。
 元帥は基本的に階級と共に職務である。また常任で置かれなければならないと言う規程もない。 当然、実戦部隊を直接指揮する事も滅多にない。


 ちなみに特殊なのは元帥は退役しても元帥である。
 退役元帥という言葉はあるが、基本的には元帥は常に現役である。
 罪を犯して有罪にでもならない限り、死後も剥奪されない。

 退役元帥は制服組から私服組になっただけであり、軍組織には多大な影響力を持つ。軍組織の元老院に参画し、軍組織に口を、手を、力と影響を与える。現職のままに元帥になった場合は、退役の比ではない権限と影響力を有するが、現場で矢面に立つ事はやはり少なくなる。


 とはいえ、国家の有する軍の顔であり、諸外国を相手に軍の窓口の矢面には立たされるので、精神的な疲労は、並大抵のことではない。逆に言えば、厄介払いの地位ともいえるのである。


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