城の見方ガイド(9) 屋根の形と破風の形

○はじめに


 今回は城に限った話ではなく、日本建築の大半に当てはまるお話なのですが、屋根の形に注目していきたいと思います。建物を解説する際には、必ず出てくる用語ばかり。これで観光地で古建築の解説板を見ても、意味が解るようになります。まあ、難しい話ではないので、ここで覚えてしまえば屋根の形を見ただけで、何という分類なのか、解ると思いますが。

 さて、まずはすべての分類に共通する話を、弘前城追手門を例にご紹介します。

 建物の頂上、水平になっている部分がありますが、こういった部分を棟(むね)といいます。写真で棟と示した部分は、屋根の頂上にあることから、大棟(おおむね)として特に区分することもあります。さらに、棟から屋根の勾配(こうばい)に沿って軒先に造った棟を、降棟(くだりむね)、上部の隅の軒先に向かう棟を、隅棟(すみむね)といいます。

 それから建物の側面のうち、幅が広い方を、狭い方をといいます。また、妻面に出来る三角形の部分のことを、破風(はふ)といいます。

○屋根の形を分類する


切妻造(二条城番所)


寄棟造(大坂城金蔵)

入母屋造(金沢城河北門)

 言葉でぐちゃぐちゃ説明するよりも、写真で見比べてしまった方が一目瞭然かもしれません。
 いずれも、妻側の屋根の形にご注目。

 まず切妻造は、大棟から2方向に長方形の屋根を葺き降ろした形です。私の勝手なイメージでは、妻側の面がスパッとしたシンプルな形状になっているというもの。本を開いて伏せたような形、と思っていただいても構いません。なお、切妻造にできる破風のことを、切妻破風といいます。

 続いて寄棟造は、大棟から4方向に屋根を葺き降ろした形です。ということで、切妻造と違って全ての面に屋根が存在しているのが特徴です。このため、破風はできません。

 そして入母屋造は、屋根の上半分が切妻造で、下半分が寄棟造とした合体バージョン。見てお分かりの通り、入母屋造はスタイルが美しく、城の建物の多くがこの形の屋根を採用しています。ちなみに、妻面の屋根に三角形の空間が出来ているのが特徴で、これを特に入母屋破風(いりもやはふ)と呼びます。

○城を美しく彩る「破風」(はふ)とは?

 さて、これまでにも言葉自体は登場し、先ほども入母屋破風という言葉を出しましたので、ここで破風について解説をしていきたいと思います。繰り返しになりますが、破風は妻面にできる三角形の部分のことで、切妻造と入母屋造に見られますが、破風の形が2種類だけかと思ったら大間違い。ということで、様々な破風をご紹介しましょう。


切妻破風入母屋破風(弘前城天守閣)
 既に紹介済ですが、ここで注目していただきたいのは切妻破風。弘前城天守閣の場合、出窓といって出っ張っている部分があるのが特徴で、ここに切妻破風の屋根を取り付けています。


千鳥破風(津城模擬隅櫓)
 千鳥破風は、切妻破風を屋根の上に直接置いた形。つまり屋根本体から独立した形です。古くは破風部屋などを置くこともありましたが、時代が下るにつれて、単純に格好良いからという理由で、千鳥破風を配置するようになりました。


唐破風(彦根城天守閣)
 唐破風は曲線を連ねた形状の破風板を、屋根に付けたもの。屋根本体の先っちょを丸く盛り上げた軒唐破風と、出窓のように独立して葺き下ろしの屋根の上に置いた向唐破風(むこうからはふ)の2タイプがあります。軒唐破風は上写真のようなタイプで・・・。


唐破風(丸亀城天守閣)
 向唐破風はこのように、千鳥破風のごとく屋根の上に屋根、という感じの形状を指します。ちなみに丸亀城天守閣の向唐破風の場合、特に出窓があるわけではないので、ただの装飾で付けたものであること解ります。


 以上が破風の基本ですが、最後に名古屋城天守を例にもう少しだけ。
 このように大規模な建物になると、様々な破風を組み合わせていることが多くなります。まず、赤印は千鳥破風が2つ並んでいます。これを、比翼千鳥破風といいます。ちなみに入母屋破風が並んだ場合は、比翼入母屋破風といいます。

 さらに青印も千鳥破風ですが、大変大きいのが特徴。こういう千鳥破風のことを、大千鳥破風といいます。そして、その上の緑印は軒唐破風ですね。


 それから、破風をさらに格好良く見せるための装飾として、このような装飾を施した板が施されることがあります。これを、懸魚(げきょ)といいます。これも幾つかのデザインパターンがあって、
 ・蕪懸魚(かぶらげぎょ)
 ・三ツ花懸魚(みつばなげぎょ)
 ・梅鉢懸魚(うめばちげぎょ)
 ・猪の目懸魚(いのめげぎょ)
 と大別できるのですが、いささか話がマニアックになってくるので、ご興味のある方は調べてみてください。ちなみに、上写真の高知城天守閣の場合は、蕪懸魚です。蕪のような形をしているのが、名前の由来です。

↑ PAGE TOP