富山県黒部市・立山町〜黒部峡谷と黒部ダム〜
  Kurobe Gorge and Kurobe Dam in Kurobe City and Tateyama Town , Toyama Prefecture
○関西電力黒部ルート
 さて、ここからは関西電力の発電施設の保守・工事用として使用している、黒部ダムから下流の欅平に至る輸送設備(黒部ルート)を御紹介します。

 先ほど紹介した黒部ダムは発電用の水をためる施設。実際の発電所はこの北側、黒部の山奥に隠れています。(よく、黒部ダムを黒四ダムといってそこで発電してると思っている方もおられますがそれは間違い)。その発電所を建設し、保守するために黒部ダムから発電所を経由し、欅平(黒部峡谷鉄道本線の終点)まで通り抜けられるルートが存在しています。

 想像を絶する難工事と、険しい地形を克服するため、そして黒部の自然を壊さないための工夫が満載のルートですが、いかんせん工事・保守目的であり危険が伴うため一般の人がこれを使って通り抜けることはできません。

 しかし、関西電力が主催し、富山県が協賛する見学会に応募することで、見事当選すれば1度に30名(逆コースを含めると60名)に限りこの「黒部ルート」を体験することができます。年々人気が高まり当選が難しくなっておりますが・・・。一般では見られない貴重な画像・不思議な乗り物をお楽しみください。
(写真はすべて2008年8月7日、ネオン撮影)

 左側地図は関西電力様の見学公式ページより。なお、ここからしばらくの間一般の方が乗れない乗り物が続きますので、そのような乗り物は背景色を赤に変えて表示いたします。前ページの関電トロリーバスの画像の右側、写っていない場所に秘密の「関係者以外立入禁止」の扉があります。そこから関西電力による指導・案内のもと見学会がスタートします。

 なお今回は、訪問時の運転ダイヤについても記載しておきます。

○関電黒部トンネル専用バス 黒部ダム11:00 → インクライン上部11:35

 観光客が普通乗る扇沢行きのバスは、上に架線があるトロリーバスですが、今回乗り込む専用バスは通常のバスでございます。このトンネルには資材の積み下ろしや緊急時の避難用にいくつか横坑がありますが、その中の1か所で下車しトンネル内を歩きます。なお、バス内でヘルメットが準備され、発電所広報室以外は着用を義務付けられております。

 なお、このトンネルの建設時には途中で大破砕帯にぶつかり、大量に噴き出す水と軟弱な地盤に当時の最高技術をもって対抗して完成させたそうです。

 タル沢と呼ばれる場所より、後立山連邦を撮影。行くのも大変な秘境ですが、そこで好天に恵まれる確率がまた低い。(曇りが多い県ですから・・・)そういった意味で貴重な画像です。よほどの登山の達人は別として、剱岳を裏から見られるポイントはここだけだとか。

 真夏ですが、気温は何と6℃を記録。このままバスに乗ってトンネルの終点には、何やら不思議な乗り物がありました。

○インクライン インクライン上部11:40 → インクライン下部12:00

 インクラインなんてのは筋力トレーニング以外では聞きなれない用語ですが、先ほど人間が乗っていた部分は上3分の1ほど。戦車みたいな全容をしております。撮影場所・状況が厳しいので高感度撮影&補正のオンパレードで何とか掲載^^;

 最大斜度34度(約660パーミル)は高尾山ケーブルを超える日本一の急勾配。これを克服するため、および工事用の重い機材の運搬に耐えるようこんな構造になっているのでしょうか。815メートルの距離しかありませんが20分かけてゆっくり下ります。その間に何と標高1325メートルから869メートルに下がるのだからすごい。

 なお、鉄道で言うインクラインは勾配鉄道のことなので広い意味ではケーブルカーも含まれますが、ここのインクラインは建設重機のような扱いなので、鉄道ではなく、管轄も国土交通省ではなく厚生労働省なんだそうです。何ともややこしい。 筋トレで言うインクラインはよく解りませんが^^;

 インクライン下部駅より。とんでもない急勾配だ。スキーのジャンプ競技の勾配とほぼ同じだそうです。重い機材を急勾配でも安定して運ぶため、非常に軌間が広いです。(2000mmという説あり。本当であれば新幹線以上です)2枚目は貴重な駅舎画像。インクライン下部より、黒部川第四発電所に入ることができます。駅前徒歩0分ですぞ!(ここまで行くのが大変ですが・・)

○黒部川第四発電所(通称くろよん)を見学する

 黒部川第四発電所(通称くろよん)は、黒部の自然保護と雪崩被害防止のため、全施設が地下に造られております。まずは、巨大水車と発電機(の突端部分)が4つ。東京の地下もすごいですが、何せあんな山奥にトンネルやインクラインを掘って、このような巨大地下施設を造ったのだからすごいものです。

 左側は発電用の巨大水車。人間と比べるといかに巨大かが解ると思います。直径3.3メートル、重量は12トン。ゾウ5頭分くらいでしょうか? 上流で見た黒部ダムの水をここに流して水車を回し発電します。右側は発電部分です。ここでPRビデオを見て、午後からはまた次の乗り物に乗車します。

○黒部専用鉄道バッテリーカー(BB型機関車+客車) 黒四P/S前13:10 → 欅平上部13:40


 ここからは小さなトロッコ列車で下っていきますが、駅名に/(スラッシュ)が入っているなんてこの駅くらいのものだろう。なお、2002年大晦日、紅白歌合戦で中島みゆきさんが「地上の星」を生演奏しましたが、そのロケ地はここからトンネルに入ってすぐの場所にあります。(ダムで歌ったのではない)こんな地下深くなので、映像情報は光ファイバーを延々とインクライン→関電トンネルと通して20km先の扇沢まで延ばして配信したのだとか。(中島みゆきさんらスタッフも前述の専用バス→インクラインで移動したのだろう)それも1つのプロジェクトXですなぁ・・。

○仙人谷駅の見学

 バッテリーカーもほぼ全線トンネル区間ですが、発電所から0.9km地点、1か所だけ黒部川を渡るため地上に出ます。約5分間駅構内を見学することができました。画像は仙人谷ダム。黒部ダムへの徒歩登山道「日電歩道」はこのダムの上を通って道なき道を進む登山の上級者向けコースとなっています。

 反対側の風景(黒部川の沢)。黒四発電所など周辺のダム関係者用宿泊所もあります。右側は貴重な駅名票です。

 仙人谷駅では、地上駅ですが冬場は雪崩防止のため、窓部分を鉄板で塞いでトンネル状にして使用します。
 右側はこの先にある「高熱隧道」と呼ばれる場所。500mほどの区間ですが、建設当時坑内温度は何と160℃(!)となり、ダイナマイトが自然発火するなど日本土木史に残る難工事となりました。作業員は20分交替で水をかけながら(岩にも、作業員自身にも水をかける)、サウナよりはるかに気温の高い場所でつるはしを振るっていたのですからその苦労は想像を絶します。ダイナマイト自然発火問題については、あらかじめ竹筒を冷凍庫で凍らせてその中に仕込んで爆発という工夫もあったそうです。

 現在は発電所からの冷水の通路が近くにあることもあり、坑内温度は40℃まで下がっておりますが、ときどき異常高温で60℃〜70℃まで上がるそうです。(さっきのトンネルは6℃だったぞ^^;) この温度を克服するため、バッテリーカーは相当な費用をかけ耐熱構造にしているそうで、また硫黄分の影響で線路は2年に1度は交換しており、維持するのも大変なルートです。

 欅平上部駅に到着。左写真はトンネルの様子。右写真は貴重な車内の様子です。1ドア・ロングシートで定員は10名(長椅子5名+4名、入口近くの補助椅子1名)です。高熱隧道があるため窓は開放不可で、全窓に手動ワイパーがついています。

○竪坑エレベーター 欅平上部13:50 → 欅平下部13:53

 欅平〜仙人谷は戦前に電源開発用に作られたルートであり、当時の技術ではその高低差250メートルを克服することが出来ませんでした。

 そのため、黒部専用鉄道で50m分下り、残りの200mは貨車ごと載せられるエレベーターで越える方法がとられたわけです。高度成長期であれば前述のインクラインみたいなもので越えられたかもしれませんが、戦前に200m(つまり50階建ビル相当)のエレベーターを造っていたんだからすごいものです。

 なお、貨車ごと載せられ積み替えが無いメリットはありますが、このエレベーターの最大積載量は4.5トンであり、インクラインの25トンよりははるかに小さいです。さらに冬場はトロッコ列車が通れません。なので小さい荷物のみこのルートで発電所に運び、発電用の巨大重機等を運ぶ場合や、トロッコが通れない冬季はインクライン経由で物資運搬が行われます。

 走者を分けるかどうか判断に迷うところですが、下では別のトロッコが待っているので、乗り換え扱いとします。

 降りる前に、欅平上部展望台より白馬鑓岳や天狗頭を見物します。さすがに午後になり雲が出てきて見えなくなりましたが。このあたり、建設工事中宿舎が「泡雪崩」によって600m先の崖まで吹っ飛び、80人もの死者・行方不明者を出す大惨事も発生・・・。

○黒部峡谷鉄道 欅平下部13:54 → 欅平13:59

 欅平下部からスイッチバックし、500mほど進むと黒部峡谷鉄道の終点、欅平駅につながっています。つまりあの駅は、一般の観光客からすればトロッコ列車の終点ですが、工事関係者から見れば通過点だったわけです。
 黒部峡谷鉄道のリラックス車に似ていますが、定員が少ない関係者専用車で移動します。

 黒部峡谷鉄道終点・欅平駅の先にはトンネルがあり、欅平下部への入口となっていたのです。右写真は欅平の風景。見学会は欅平駅で解散となり、ここからは一般客でも利用可能なルートとなります。