第二話 原付初乗車と原付教習

○教習所にて

 大学生になった。免許を持っていない私は高校時代と同じく自転車が主な移動手段だったが、別に不便は感じていなかった、行動範囲がもとより狭かったためだろう。遊びに出かけるときは友人に車で迎えに来てもらっていた。

 夏休みになり、私は自動車免許をとりにいくこととなった。地方では運転免許は必携のものである。就職の際にも免許があることが前提である。


 教習中のある日、友人が原付にのって遊びにきた。そういえば、自動車学校の教習には原付教習なるものがあったことを思い出し、友人に話すと、ちょっとのってみないかといわれた。


 スクータータイプの原付だったが、正直私は乗り方がよくわからなかった。足をどのタイミングで機体に乗せればいいのか? 発進と同時に両足を機体にのせてみたが、なんかぎこちないスタートとなってしまった。通りにでるのが恐いので(そもそも無免許だし)、路地をちょっと走って友人にかえした。正直、乗りにくい乗り物という印象が残った。しかし、それでも自動車よりは遥かに乗りやすいと思ったのだが。



 自動車免許教習もすすみ、なんとか仮免許を取得。いよいよ原付教習(二時間)である。夏場の暑い盛りなのに長袖、長ズボン着用が義務付けられている教習である。もちろん、暑いので教習直前に長袖を着た。自動車の教習は普段は一人なのだが、原付教習は数人まとめて行なわれる。


 最初は原付(虎ガラのペイントをしたスクータータイプだった)の乗り方。スタンドからおろしてシートにこしかるのだが、スタンドからおろすのに少してこずった。てこずったのには私が非力というのもあるが、スタンドから降ろしたり、スタンドにのせる(載せるほうが降ろすより遥かに難しい)といった行為は、ちょっとしたコツがあるので、慣れが必要である。慣れてしまえば力のあるなしは問題ではない。


 シートにこしかけて鍵を差込み、起動のところまで鍵まわす。そしてブレーキを握りながらスターとボタンを押すとエンジンがかかる。いよいよ発進である。


 以前、友人の原付に乗ったときはどのタイミングで足を機体に乗せればよくわかっていなかったのだが、教官の説明によるとまず右足をあらかじめ機体にのせておき、発進したら左足を機体にのせればいいとのことだ。そう、自転車と同じなのだ。


 決してやってはいけないことは、シートに座る前にエンジンをかけることと、エンジンを切る前にシートからおりること。とくに、エンジンを切る前にシートからおりると怒られた。


 教習は教官のあとにつづいて二輪専用のコース(この自動車学校では二輪免許も取得できたので専用コースがあった)を走っていく。八の字やS字、クランクなども走っていく。途中、休憩がはいり、原付に乗ったことがあるやついるか? と聞かれたので私は正直に
「あります」
 と答えた。私だけだった。てっきり私は皆、乗ったことがあるものだと思っていたのだが、そういうわけでもないようだ。教官も興味本位で聞いただけで無免許運転を咎められることはなかった。


 だが、私は原付にのったことがあるのにもかかわらず、実は他の人よりも曲がるの下手で八の字やS字がスムーズにいけず(はっきりと差がでるほどではなかったが)、内心焦っていた。


 教習のラストは三十キロで走ってラインを通過したら急ブレーキをかけて三メートル以内で止まるという教習だった。三十キロというのは原付の法定最高速度。原付で三十キロを出す。というのは正直こわかった。教習コースが狭いのでスピードがでているように感じるというのもあるが、風を受けて走る原付は体感速度が自動車とは比べ物にならない。速度をだせばだすほど強くなる向かい風に恐怖さえおぼえていた。


 とはいっても恐いから辞めますとはいえばいので、三十キロで走行し、なんとか三メートル以内で停車することができ、原付教習は終了。教官は
「自転車のかわりという感覚でのれるでしょ。」
 と言っていたが私は原付をわざわざ購入し、ガソリン代を払うくらいなら、自転車でいいやと思っていた。


 今になって思うと、深層心理には、上手く乗れなかった、乗っても楽しくなかった、公道で乗るのが恐いといったものがあったように思う。この段階では原付は一生無縁の乗り物だと確信していた・・・。



棒