第十二話 決断とJR東海

 自動車免許を取得して二年目の夏。

 大学の授業・試験は終了して長い夏休みがはじまる。バイトは普段、午後六時からだが、夏休み、どうせやることもないので(というより時間がフンダンにあるので)、午後一時、もしくは午後三時からバイトにいれてもらうことにした。純粋に金を稼ぎたいという気持ちがあった。


 この夏。実は友人と二輪免許をとりにいくという話が浮上していた。二輪の教習の金を稼ぐためにも頑張る必要があった。また、一つ決心したことだが、これからバイトにいくときは原付でいくことにした。


 今までは出勤時間が遅いこともあり原付でいっては渋滞に巻き込まれる・・・。時間がかかるというよりも、ハードな道路環境での運転に全く自信がなかったので自転車でいっていたのだが、一時や三時なら明るいし渋滞もしていないだろうと思い、原付でいくことにしたのだ。これは二輪教習にいくことと密接にリンクしていて、原付もロクにのれないのに教習にいくのは自爆行為だと思ったからだ。また、いずれ車に乗るという状況も発生してくるだろうから、公道を走るということに慣れておきたいという気持ちもあった。


 さて。一時から出勤ということで、昼食(昼間で寝てるから朝食?)をとる。自転車よりも原付は速度がでるので、いつもよりゆっくりいってもいいだろうと思い。いつもよりも遅い出発にした。


 バイト先は国道1号線沿いにある。国一なら朝の出勤時間・夕方の退社時間でなければ道が広いのでスムーズに流れているだろうと思い、国一を通るルートを選択した。自転車でいくとき利用している裏道は歩行者が突然、横断してきそうなので避けた。国一なら信号のある横断歩道から歩行者は横断するから飛び出しの危険性は少ない。


 しかし、私は甘かった・・・。国1にでるまでの道のり・・・。普段、自転車を利用するときは、自動車道路とはっきりわかれた歩道を走っていた。歩道は渋滞することはまずない。非常にスムーズにすすむ。しかし、自動車道路は混んでいた。渋滞というほどではないが、なかなか進まない。


「・・・国1まででれば・・・。」


 そう思い、運転していった。今なら追い越し(すり抜け)のポイントや、追い越しの技術もある。しかし、当時の私には到底そんな技術はなかった。前の車が停車すれば路肩から追い越していくようなことはせず、律儀に停車していた。


 そしてなんとか国1にでたのだが、計算違いだった・・・。
「結構混んでる・・・。」
 そう、国1は道路が二車線なのだが、トラックの往来が激しく混んでいるのだ。これも歩道を走っていると全く気にもしないことである。


 時間がない・・・。焦ってきた私はすりぬけを敢行する。さすがに道路の幅自体も広いので余裕ですりぬけることができた。


 すりぬけによって、なんとかバイト先に到着。本当は社員駐車場にとめないといけないのだが、そんな悠長なことをしていると遅刻してしまうので、店のお客様用駐輪場におくことにした。そして、ダッシュで事務所にはいり、タイムカードをきる。タイムカードの数値は1時丁度・・・。本当にぎりぎりセーフだ。社員駐車場に止めようと思っていたら・・・、すりぬけを敢行しなかったら遅刻しているところだった・・・。


店長に
「もっと余裕をもってきてくれよ。」
といわれた。私は
「国1が混んでいたもので。」
 と言い訳した。まさかあんなに混んでいるとは思わなかった。今思えば、読みの甘さ以外の何物でもない。純粋に原付と自転車の速度の違いだけを考えて出社時間を調整したのがまずかったのだ。


さらに先輩に
「ギリギリじゃん」
と言われた。私は
「JR東海並の正確さで定刻どおりの到着。」
と見苦しい言い訳をした。定刻どおりにタイムカードをうつのなら、仕事の準備を完全に整えてからでないとマズイだろう・・・。この場合は、タイムカードをうってから着替えをするので、実際仕事にはいるのは二分、三分送れなのだ。


 この後も、私は何度か定刻どおりの出社をし、その都度、同じ言い訳をする。しまいには、
「今日も定刻どおりだね。」
と皮肉までいわれる有様である。


 自己弁護にしか聞こえないが、家が職場に近いとギリギリに出社するようになるのではと思う。距離があればなんらかのトラブルに備えて「余裕」をもって出社するように心がけるが、近いとトラブルが多少あっても大丈夫という困った「余裕」がでてしまう気がする。


 さて、原付出社初日には遅刻寸前というトラブルがあったものの、この日から原付で出社するようになった。あくまで、家と職場の往復でしかないのだが、ほぼ毎日原付にのるようになった。国1を通るのは帰りだけにして(帰りの時間はすいているのだ)、行きは自転車でいっていたころ利用していた裏道でいくことにした。


 そして、原付出社というささいなことが、原付ライダーとしての出発点となるのであった。


棒