第十四話 ニードル・サウザント!!

 夏休み・・・原付でバイトにいくと向かい風が気持ちいい。
 しかし・・・。
 東海地方に台風が接近しているという報に接した。こういう時は自転車でいくべきか?

 いや、別に状況はかわらないし、かえって危ないかもしれない・・・。特に浜名湖にかかる橋でモロ暴風雨にさらされることになる。この時、親に車で送ってもらうという選択肢はなかった。バイトにいくのに親の手を煩わせるというのが非常に嫌だったのだ。


 ということで、原付でバイトにいく。バイトにいった時点では風雨は左程強くなかった。雨は降っていなかったように思う。でも、明らかに帰るときには暴風雨が吹き荒れるとみた・・・。


 二時か三時ごろだっただろうか・・・。ボトルコーヒーを並べていると突然、停電にみまわれた。レジが打てなくなって混乱していたが、私にはどうすることもできないので、ボトルコーヒーをのんきに並べていた。すると店長に、


「値段を調べてきてくれ。」
 といわれた。レジを電卓でやることになり、値段がわからないものをメモして売り場にいって値段をチェックしてくるのだ。バイト先の店はバーコードを読み取るタイプのレジを採用していたので、商品に値段シールが貼っていなかったのだ。


 広告にでている商品ならばレジの後方に貼ってあるチラシをみれば確認できる。よく売れる商品ならば値段を覚えている。だが、確実にこの値段といえない商品も多数あるので、それらの商品の値段を調べてくるのだ。


 正直・・・その商品がどこに置いてあるのかを探すのが大変だった(店の照明もきれて暗いし・・・)。しかし、探し始めてしばらくすると、電気が復旧した。良かったには良かったのだが、私のやったことは全て無駄だった。まあ、別にいいのだが・・・。


 一時間後、私がレジにはいった、停電しないでくれと祈っていたが、停電してましまった。さっきのレジの対応を思い出し、電卓で計算をはじめる・・・。しかし、しばらくすると復旧。電卓のデータを消してレジでうちなおす・・・。


 しばらくすると、またしても停電、同じくすぐに復旧した・・・。先輩と一緒に休憩時間にはいったので、話をする。
「いやー、冗談じゃないですよね。」
「冗談じゃないよ。私は久々に車洗ってワックス塗ったと思ったらこれだからね。珍しく洗車すると雨に降られるという話は本当だよね。ところでカリウス君は原付できたの・・・?。」
「ええ、自転車じゃ自殺行為ですから。」


 今思えば原付でも自殺行為だろう。このころは高速で走るが故におきるスリップの危険性というのを知らなかったのだ。もう、この時点で雨は降り出していたと思う。店の外においてある什器を全て店内に運んだ覚えがある。


 さて、帰宅時間だ。この日は本当は十時閉店なのだが、おそらく、台風でお客さんが来ない・・・結果として人件費ばかりが無駄にかかるという理由で八時か七時で閉店だったと思う。これ以後も台風が来たことがあったが、早く閉店させるという処置はこれっきりだったように思う。早く閉店させたことでクレームがきたのかもしれない・・・。


 ヘルメットを装着して嵐の中を帰る。帰ったらすぐに風呂にはいればいい。ということで走り出す。雨は風にあおられて横向きに降ってくる。
「いでででででででで!!」
雨が矢のように猛烈な勢いで顔に襲い掛かってくる。雨の日に自転車で走ったときには体験したこともないことだった。自転車と原付の違い・・・。それはスピード!!


 原付は高速で走るため風が吹いてなくても、向かい風が発生してしまう。速度を増せば増すほど向かい風は強くなる。それと同じで、雨の中を高速で走れば雨が猛烈な勢いでぶつかってくるのだ。


 マンガ「ダイの大冒険」の敵キャラクターにチェスのクイーンを模したキャラクター・・・そのまんまのネーミングでクイーンというのだが、クイーンの必殺技にニードル・サウザント(は、針千本・・・!?)という無数の針を飛ばす技があるのだが、まさにそんな感じである。

「くそーー。」
 早く帰るために速度をだせばぶつかってくる雨は激しくなる。速度をおとしても速度がでているときほど激しくはないが、雨はぶつかってくる。私は半分ヤケクソになって、速度をだして一気に帰ることにした。正面を向いていてでは猛烈な雨に襲われて痛くてたまらないので、横を向いて走っていった。前が見えなくて恐かったが、背に腹はかえられない・・・。浜名湖にかかる橋に進入したとき、湖から吹き抜けてくる猛烈な突風にあおられて、顔は痛いし、バランスをとるのは大変だしで、浜名湖におちやしないかと不安に駆られた。


 なんとか到着・・・。フルフェイスヘルメットならこんな苦労はしなかっただろうに・・・。眼鏡をしていたので、目に水が突き刺さって前をみれなくなるということがなかったので良かったのだが・・・。


 私はコレに懲りて翌年、台風がきた際には車で出社した。しかし、原付で出かけてしまったがために、深夜、台風の中を走り抜けることになるという過酷な運命が待っていたのであった。



棒