第三十二話 クラッチとギアチェンジ

  さて、二輪免許獲得のために教習所に通い始めた私であったが、当然ながら教習用のオートバイというのはオートマチックのスクーターでなく、ミッションのバイクである。話によるとビッグスクーターの普及によって、「普通二輪(オートマチック限定)免許」も登場するとのことだが・・・。

 教習所に入所したときに学科教本(といっても学科はないので形式的に貰うだけになるのだが)と実技教本が配られ、実技教本に目を通したのだが、ミッションバイクの操作は複雑ですなという印象をうけた。


 もっともこれはバイクに限らず自動車でも同様である。オートマ車の場合、足元のペダルがアクセルペダルとブレーキペダルしかないのに対し、ミッション車は別にクラッチペダルがついている。今回はミッション車のツボであるクラッチとギアチェンジについて話をしていきたい。ということで、クラッチとギアチェンジのことを知っている人は全く読む必要がない内容となっている。いや、むしろ読んでいただいて浅学な私の文章に誤りがあったら指摘をしていただきたいと思う。


 ギアチェンジとは何か? ギアとは歯車のことである。エンジンと車輪の間にはこの歯車が何枚かあり、エンジンの動力はこの歯車を通して車輪へと伝動される。車の中には歯の数が異なる何種類かのギアが用意されており、そのギアを交換するのである。


 では、ギアを交換するとどのようなメリットがあるのだろうか?
 実際はもっと複雑な機構であるのだが、簡略化したモデルケースを提示して話しをしていきたい。


 モデルケースを提示しよう。エンジンの産み出した回転をそのまま伝える「エンジンの動力を伝えるギア」と、「エンジンの動力を伝えるギア」に接する形で、車輪に動力を伝える「車輪側のギア」があるとする。「車輪側のギア」が一回転すると、車輪も一回転する。


 まず一ついえることは「エンジンの動力を伝えるギア」が、1回転する際に、「車輪側のギア(このギアを交換する)」の歯が少ないほど、車輪の回転数は増す。たとえば、「エンジンの動力を伝えるギア」の歯の数が30で、「車輪側のギア」の歯の数が30ならば、「エンジンの動力を伝えるギア」が1回転すると(つまりエンジンが1回転すると)「車輪側のギア」も1回転し、車輪も1回転する(これを仮にタイプ1と呼ぼう)。


 これに対し「車輪側のギア」の歯の数が6だとすると、「エンジンの動力を伝えるギア」が1回転すると、車輪側のギアは5回転することになり、車輪も5回転することになる(これを仮にタイプ2と呼ぼう)。すると車輪を一度に多く回せるぶん、タイプ2のほうがタイプ1より効率がいいのでは? という話になるのだが、タイプ2がタイプ1より効率がよくなる場合には一定の条件が存在している。


 自動車が発進する際・・・つまり動いていない物体を動かす際・・・には大きな力が必要となる。この発進のときにタイプ1のギアとタイプ2のギア、どちらが適しているかといえばタイプ1のギアなのである。タイプ1の場合にしろタイプ2の場合にしろ、エンジンの回転数自体は一定である。どちらの場合でもアクセルを踏み込めば、同じだけの回転をえることできる。タイプ2の場合、確かに車輪の回転数ということではタイプ1の5倍の効率だが1回の車輪の回転に費やされるパワーはタイプ1の5分の1になってしまう。


 発進の際にタイプ2にしておくと、発進時に必要なパワーが十分に得られずうまく発進できないばかりか、場合によっては発進することもできず、エンジンに余計な負荷がかかり、エンスト(エンジンが停止する)をおこす場合もある。


 これに対しタイプ1ならばタイプ2の5倍のパワーが得られるので発進時に必要なパワーを十分に得ることが出来る。ただし、タイプ1はパワーがでるが、効率よく車輪を回転させることができないので、速度はいつまでたってもあがらない。そこで、ある程度速度がでてきたらタイプ2にギアをきりかえるのである。速度がでればでるほど、物体を動かすのに費やされるパワーは少なくてすむようになる。今度はエンジンの回転をいかに効率よく車輪の回転に結びつけるかが課題になってくるわけだ。そしてタイプ2のギアでもある程度までもっていくと速度が頭うちになってしまうので、今度はもっと車輪の回転を効率よくまわせるギアに交換するというわけである。


 「車輪が1回転するときに費やされるパワー(パワー)」と「車輪の回転数(速度)」は反比例している。状況に応じてギアチェンジすることにより、エンジンの産み出した回転を効率よく使えるというわけである。そしてパワーが最も出て、車輪の回転効率が最も低いギアを一速と呼び、車輪の回転効率の高さに応じて二速、三速、四速となっていく。四速は三速に比べて回転効率がよいギアということである。


 自転車にもギアチェンジ可能なものがあるが、あのギアチェンジも自動車と同様である。一速のときは、発進の際に容易にペダルをこぐことができるが、一生懸命こいでも速度は一向にあがらない。対して六速のときは発進の際、ペダルが重くて容易にペダルをこぐことができない。


 だから、一速で発進して速度がのってきたらジョジョにギアを高いものにかえていく。速度がでてから六速にすればペダルは重くないし、一生懸命こがなくても速度がでる(こっちのほうがわかりやすかったか・・・)。


 ギアチェンジの話がおわったところでクラッチの話をしよう。自動車の場合クラッチレバーを踏むと、「エンジンの動力を伝えるギア」と、「車輪側のギア」が切り離される(これをクラッチを切るという)。切り離したところでチェンジレバーを操作して、「車輪側のギア」を交換するというわけだ。クラッチレバーを踏まないとギアはかみあったままなので、ギアを交換することはできない。また、クラッチを踏むと、エンジンの回転が車輪に伝わらなくなってしまうが、車は惰性によって動いているので、すぐに停止してしまうということはない。自転車でもある程度速度をだせばペダルをこがなくても、止まらずに進んでいくが、それと同じである。


 そして、ギアをチェンジしたらクラッチレバーをジョジョに戻していく。ギアチェンジしてすぐにクラッチレバーを離すと、いきなり歯車がかみ合うため、エンジンに急に大きな負荷がかかりエンストしてしまう危険があるのだ。そのため、ジョジョにギアをかみ合わせていき、「エンジンの動力を伝えるギア」と「車輪側のギア」を馴染ませて両方のギアの回転を調整していくのである。


 ミッションバイクの場合もこのクラッチがついている。ただし、車の場合とは違い、足元でなく左手側についている。自転車でいうところの左手ブレーキがクラッチになっており、これを握るとクラッチが切れた状態になるのである。


 そして、チェンジレバーは、左足の足元のあたりにある車体から突き出た棒である。このレバーを左足でけりあげるとギアが一速あがるようになっている。逆に左足でふみつけると一速下がるようになっているわけである。


 クラッチとギアチェンジの仕組みと操作は簡単にいえば以上のようなことである。
 今回は回顧録でないせいか、書くのに苦労しました・・・。



棒