第三十六話 パワーダウンだと!!

  二輪の教習所に通い始めて三週間ほど過ぎた頃である。

 教習をはじめる前は、原付での移動はバイトに行くときか、ちょっとした買い物のときだけだったので、原付にガソリンを補給することはほとんどなかった。よって、バイト先から支給される交通費(以前にもお話したが、バイト先の交通費は原付だろうと車だろうと距離数が同じなら同じ金額が支給される。そして車の燃費をもとに金額は算出されている。

 よって、車よりも燃費のいい原付にのっていると、燃料代に対する出費が車より少ないので、トクをする形になる。ちなみに車で通勤すると駐車場代ということで1000円が給料から天引きされてしまうが、原付に関しては駐車場代の請求はない)のうち、約3割が私用で使う分も含めて原付の燃料代にあてられ、残りの7割は丸々懐におさめるかたちとなった


 しかし、教習を始めると状況はかわった。教習所まで往復で20キロほどあるため、燃料の消費が激しくなってしまったのだ。私の原付「ジョグ」は最大で約3.6リッターのガソリンがはいり、ガソリン1リッターあたりで約20キロの走行が可能である。よって、3〜4回教習所にいけば燃料はなくなってしまう。教習所通いを始めるまでは、いつも決まったガソリンスタンドでいれていたが、ガソリン切れが怖いので減ってきたなと思ったら近くのスタンドでいれるようになった・・・。


 しかし・・・・・・私は思慮が浅い人間であった・・・いや、今もそうか・・・。


 12月の昼下がり・・・、教習が終わって自分の家へと原付に乗って帰っていた。ガソリンのメーターはエンプティにさしかかっており、もう燃料はほとんどない。本来ならば燃料を補給しなくてはいけないのだが、すっかり入れ忘れていたのだろう。この時点で私は燃料がなくなり欠けていることに気づいてはいたが、家までの帰路の途中にある、すべてのガソリンスタンドを通り過ぎてきてしまい、わざわざガソリンをいれにいくのも面倒なので、バイトにいくときにでもいれればいいやと思っていたのである。


 それが大きな大間違い・・・。
 家の近くまできたとき、原付の出力がおちていくではないか・・・。アクセルを捻っているはずなのに、だんだんとエンジン音が小さくなっていき、じきに動かなくなってしまった・・・。


「!!」


 こ、この感覚は!! 忘れもしない!!


 そう、かつてエンプティでも結構走れるからと思っていたら、国道一号線で燃料切れを起こしてしまい、原付を手で引いて家まで帰ったあの悲劇・・・(詳しくは第二十二話・ジョグなぜ動かん!!参照)。まさに、あの惨劇が再び襲い掛かってきたのである。
 今回、燃料切れを経験するのは2回目であるが、原付のエンジン音が、だんだんと弱くなり停止してしまったとき、即座に脳裏によぎったのは、
「燃料が切れた!?」
ではなく
「原付が壊れた!?」
 であった。これは、初めて燃料切れを経験したときと同様の感想である。燃料が切れそうだなと思っていても、心のどこかでは大丈夫だろうと思っている証拠だろう。故に停車してしまったときに一瞬「故障したのでは?」と焦ってしまうのである。そして、次の瞬間に「燃料が切れたのだ」ということを認識し、自分のいい加減さに怒れたり、呆れたりしてしまうのである。



 話を戻そう・・・。


 バイクの燃料はきれてしまったが、幸運にも自宅まであと100メートルくらいのところであった。私はバイクをひきずり家へと戻る。しかし、燃料切れのバイクを引きずるというのは、なんとも惨めな思いである。以前、燃料切れを起こしたのは夜だったが、今回は昼・・・。近所の人にみつかって声をかけられたら、まさに一門の恥になってしまう・・・。周囲を警戒しつつ・・・もっとも、警戒したところで、見られてしまった時点でおわりなのだが・・・家へと戻った。


 確かこの日はバイトが休みの日でバイクを使う用もなかったので、バイクの燃料補給は、明日、バイトにいく前にやることにした。前回、燃料を切らしたときは、親父の船用のガソリンを譲ってもらったが、今回は2回目ということもあって、親父に罵詈雑言を浴びせられること必至なので黙っていることにした。


翌日・・・。私はバイトまでのんびりゴロゴロとしていた、あと一時間もすればバイトの時間である・・・、と、その時、
「あーーー!!」
 私はおもむろに叫び立ち上がった。そう、原付の燃料がきれていることをすっかり忘れていたのである。もう、今からでていかないと燃料をいれてバイトに行くのはムリ・・・。私は急いで準備をして原付を引きずりガソリンスタンドに向かった。家の近くにガソリンスタンドはなく、1キロほど先にあるガソリンスタンドまで原付をひきずっていった。

 この日は午後から小雨が降っており、私が原付を引いている時も小雨が降っていた。12月ということもあり、周囲は暗い・・・。しかも、ガソリンスタンドのある道は二車線の割と広めの道路なのだが周囲に道がないため、歩道がなく、白線の中の狭い路肩を歩くほかになかった。五時以降ということもあり、車道を次々と車が走り抜けていく・・・。彼らは私をどのように見ているのだろう・・・。まさに落ち武者の気分だった。


 また、バイトまでの時間も刻一刻と迫っており、天候、時間とも最悪の状況だった。こんなことなら昨日、家に戻らずにガソリンを入れにいっていればよかった・・・。


 さらに・・・、ガソリンスタンドの明かりが近づくにつれ、嫌な感じが・・・。ガソリンスタンドの店員の前に、原付をひっぱっていかねばならない・・・まさに敗者・・・。


 しかし、幸運にも外にでていた店員は他のお客さんのガソリンを給油中だったので、ガソリンスタンドに原付をひっぱってくる私の姿を注視するようなことはなかった。私が給油装置の前までくると店員はこちらにきて黙々と給油してくれた。


 給油がおわり料金を払いエンジンをかける。そして、今来た道を原付に乗って戻り、バイト先へと向かう。歩いてくると長かった道のりも、原付で進むとあっという間だ。やはり、燃料の残量には気をつけないといけない。エンプティにさしかかったらすぐにいれないとな・・・。


 私は決意を新たにし、走り出した・・・。
 もう二度とこの「あやまち」は繰り替えさない・・・と思う・・・。



棒