第四十一話 地獄のスラローム

 十二月のバイクの教習は寒い。私は朝一の教習にいくことが多かったので寒いのはなおさらであった。
 ある時、教官が教習開始後のならし運転の後に教習生を集めて、

「寒いときはエンジンカバーが暖かくなっているから、エンジンカバーをさわるといいよ。」


 と言って、バイクのエンジンカバーを触って見せた。しかし、教習生達の反応が今一だったのか


「嘘じゃないよ、本当だよ。」


 と付け加えていた。確かにバイクを走らせればエンジンは熱くなっているからカバーも暖かいというのはわかる。だが、いつも冗談を言っている教官だけに、実は火傷しそうなくらい熱いんじゃないかと勘ぐってしまった。他の教習生も恐らく同じように思い、また冗談を言っているなと流したのだろう。


 さて、私が二輪免許の教習で一番苦手だったのはスラロームである。スラロームは直線上に等間隔に配置されたパイロン(コーンといったほうがわかりやすいか)を交互にかわしながら進んでいくものである。


 まず一個目のパイロンを右にかわすのだが、曲がるときにアクセルをふかして、カーブを曲がって不安定になっている機体のバランスをとるようにする。ただアクセルを吹かしすぎると、今度は左に曲がらないといけないのに左に曲がれなくなってしまうので、アクセルはふかしすぎないようにし、機体のバランスがとれたら一旦アクセルをはなす。そして、次に左に曲がる時に機体のバランスをとるためにアクセルをふかす・・・。この一連の操作をゴールまで繰り返すわけである。


 スラロームは、エス字やクランクのようにただクリアすればいいというものではない。一本橋の課題が普通二輪の場合、七秒以上の時間をかけてクリアしなければならないのと同様に、スラロームは八秒以内にクリアしなくてはならない。だが、八秒以上かかっても即失格ということはなく、オーバーした秒数に応じて減点となる。ただ、記憶が定かではないのだが、パイロンを曲がり損ねてしまうと即失格になったような気がする(接触に関してはパイロンに限らず即失格)。そのため私はスラロームに対して慎重にのぞむことになり、時間内にスラロームを突破することができなかった。


 正直、機体を倒してカーブを曲がるというのが怖かった。しかも、クランクやエス字と異なり、規定の時間があるため、ある程度の速度で曲がっていかなければならない。本当ならば機体を立て直すためにパイロンを曲がる際にアクセルをふかさなくてはならないのだが、なかなか思い切ってアクセルをふかすことができず、バイクが停止しない速度を保ちつつパイロンをくぐっていくような形になってしまった。


 ただ、ある日の教習でスラロームをやった時はバカに上手くいった。教官に教えられたとおりパイロンを曲がるときに適度にアクセルを吹かすことができたのだ。この上手くいった回はスラロームを始めてしばらくしての教習の時で、これでスラロームも楽勝だなと思っていたがそれ以降は、てんでできなくなってしまった。


 結局、スラロームに関しては卒業検定の際も規定タイムをクリアすることができず(タイムなどは教えてもらえないが恐らくクリアできていない)減点対象にされてしまった。スラロームだけは今やれといわれてもやはりできないだろうと思う(今でもカーブは苦手)。今も昔もチキン野郎なのだ。



棒