第四十七話 愛しのライラ
私が大学生の頃、三菱自動車のCMで長期間に渡って「愛しのライラ」という曲がBGMとして使われていた。三菱自動車が同じCMを長期間やっていたわけではなく、「愛しのライラ」がCMがかわっても使われ続けていたのだ。CMが変わると宣伝する車も変わるのだが、車はあくまでオマケといった感じのCMで、例えば、失恋して女友達と一緒に車で海にいくもの、幼稚園(小学校?)の頃、雨の日は親が車で迎えに来てもらったことを懐かしむもの、同窓会で初恋の人と再会するものなど、車の宣伝というよりは三菱自動車というメーカーのCMという感じであった(特に初恋の人と再会するものに関しては車は背景にポツンとでてくるのみ)。
「今走り出さなければ、一生走りだせない気がした。」
というメッセージが挿入されたCMである。このCMを初めて見たとき、素直に 「かっこいい・・・」 と思ったことをはっきり覚えている。丁度このCMを見た時期が二輪免許を取りに行こうと思っていた時期で、メッセージが自分の思いと丁度重なったのと、ランサーレボリューションがバイト先の店長に乗せてもらった、スバルのWRXインプレッサと似ており(どちらもラリーカーでライバル関係にある)、インプレッサに乗ったときの興奮が思い出されたからだ。
私は弟には二輪免許を取りに行くことを伝えていたが、親には反対されるとわかっているので黙っていた。しかし、いつかは言わなければならないだろうと思い、機を窺っていた。そして、教習を始めて数週間後の土曜日の昼食後、母の機嫌がいいのを確認して、二輪の免許を取りに行っていることを耳打ちした。ちなみに父は先に昼食を終え、外で草むしりをしていた。母はどうやら私が免許を取りに行っているのを薄々気付いていたらしく、別段驚きもしなかった。
母の機嫌はいいし、弟も傍にいる。私一人で父に二輪の免許を取りに行っていることを言えば何を言われるかわからないが、二輪の免許を自分もとりたいと思っている弟と、別段免許を取ることを気にしていない母が一緒にいるところで言えば、父も大人しく容認せざるを得ないし、父が何か言ってきても弟や母の援護射撃が期待できる・・・もっとも、既に教習中であり、尚且つ自分のお金で通っているわけだから、どうこういわれる筋合いはないのだけども・・・。
すると、父がトイレのために家の中へ入ってきた。そして、父がトイレから出ると私は口火を切った。
「父さん実は・・・私、二輪の免許を取りに行っているんですよ・・・。」
私は静かに告げた。父は私の顔を見た後、傍にいた母と弟の顔を交互に見た。二人とも父が私の免許を取りにいっている発言に対してどういうリアクションを取るのか楽しみでニヤついていた。それを見て父は口うるさい母親が二輪の免許を取りに行っていることを容認したことを悟ったのだろう、今更何を言っても仕方ないかと思ったのか
「・・・免許をとっても無駄になるだけだぞ。なんで免許が欲しいんだ。」
と言い返された。口調は穏やかではあるが不機嫌さが漂っていた。私はそこですかさず、いつか言いたいと思っていたアノ言葉を口にした。
「今走り出さなければ、一生は走りだせない気がしたから。」
「何を言ってるんだ・・・。」
私の返事に対して明らかに不機嫌そうな口調で答えた。マンガやドラマなら決め台詞になるフレーズだが、現実ではやはり通用しないようだ。そこですかさず私は、
「でも、二輪の免許は車の免許とセットだから持っていても負担にはならないし、免許取ったからってすぐに二輪買うつもりはないよ。」
と切り出し、父を安心させる方向に持っていくことにした。実際、年が明ければ就職活動や卒業論文の作成をしなくてはならないし、二輪を買って維持していくほどのお金もなかった。とりあえず、時間のある今のうちに免許だけは取っておこうと思っていたのだ。
「そうだけどな・・・。でも、二輪で事故したら車の免許も失うことになっちゃうからな。」
と、私の二輪と車の免許はセットになっているという発言に対して一言そう告げると、外へ出て行き草むしりの続きをはじめた。母は私と父のやりとりを終始楽しそうにみていたが、父が去ると、
「よかったねえ、免許のこと許してもらえて。」
と嬉しそうに言ってきた。
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