第四十九話 隠された本性

 二輪教習第二段階。


ウオーミングアップの慣らし運転を終え、いつものように卒業検定用コースの走行に入ろうとすると教官が、


「今日はカーブの体験教習があるから楽しみにしててね。」


と言ってきた。どうやら、以前、シュミレーション教習で行った、カーブを速度を落とさずに曲がる教習をおこなうようだ。



 え?




 シュミレーション教習の時に、確か言っておられましたよねえ・・・。カーブを速度を落とさず曲がるのは非常に危険だから実際にはやらないって・・・。



 まあ、でも折角やらせてくれるというのなら、やらせてもらいましょうか。


 卒研のコースを何回か走ると集合がかかったので所定の場所に集合。今日は日曜ということもあってか、教習の参加者は大勢いる。




 予告どおりの、カーブをブレーキをかけずに進入し曲がり切る教習。もし、カーブでふくらんでしまって対向車線に飛び出してしまうようだったら対向車を止めるとのこと。


嫌な予感がする・・・いつものように不安を胸に抱きながら発進。速度を落とさずにカーブに進入!! ああ!! やっぱり対向車線に思いっきりはみだしてしまったーッ・・・もっとも、思いっきりはみだしている人がほとんどのようではあったが・・・よって、今回はお咎めナシ。




 これで終わりと思いきや、今度はカーブで停止する教習にうつる。先程のカーブを速度を落とさずに曲がる教習よりも楽そうな気がするが・・・。この教習ではカーブの途中で教官がパイロンを投げるのでそこでバイクを停止させる。教官曰く


40キロなら救急車20キロなら傷薬、だから10キロでこようか。」


とのこと。私は教官にいわれたとおりに10キロでバイクを走らせた。10キロという速度はかなり遅い速度だ。そこまで慎重になる必要があるのかと思いながらカーブに進入。


 教官がタイミングを見計らいパイロンをコースに投げる! 



 停止!!



 「!?」


 
 私は我を失った!



 それもそのはず、ブレーキをかけて停車したとたんに、体がバイクから飛び上がりカーブの内側に投げ飛ばされ、芝の植え込みに這いつくばる形になってしまったのだ。急ブレーキをかけたわけではない。10キロという低速で走っていたのにこのザマとは・・・。



 教習前に教官の言っていたことはいつもの冗談かと思っていたが、本当だったのだ・・・。もし、20キロ、30キロで進入していたらどうなっていたことか・・・。以前、二輪は他の乗り物よりも命を張って走っていると教官が言っていたがまさにその通り。



 今度は緊急回避教習。コース上に立った教官が合図を出すので、合図を確認したら左に車線変更し教官をかわすという教習だ。実際にやってみると教官の合図がでたのは、かなり教官に接近してからだった。その後、一旦バイクを止め、教官の周りに集合し、教官が合図をどの地点で出したか教習生たちに聞いてきた。私は自分の感覚で位置を答え、他の教習生たちの意見も似たり寄ったりの地点を指していた。



 しかし、私たちの予想を裏切り、教官の合図がでたのは遥かに前の地点・・・。脳が情報を処理するのにこんなに時間がかかるとは・・・、しかも、今回は合図が出るとわかっていたわけだから、道を走っていて突然人が飛び出してきたらとしたら・・・。



 教官の話の後、再びバイクにまたがる。次は教官が赤と白の旗を出すので、赤なら左、白なら右、両方なら直進するという緊急回避教習の発展型の教習だ。赤は左・・・白は右・・・なんか革命の世紀二十世紀を思わせるような合図・・・敢えて口には出さないが・・・。



 これは楽勝だろうと思い、バイクを走らせる。教官が白の旗を私から見て左手側にだしてきた。私はつい旗の出された左手側にバイクをきったが、次の瞬間「白は右!」を思い出しとっさにきりかえす。



 突然の私の軌道変更に教官は驚き、その場から左へ大きく飛びのいた。


 全員の走行が終ると、教官はバツを悪そうにしている私のところへつかつかとやってきて、


「カリウス君は日頃の恨みをこめて轢き殺そうと!?」


 と冗談交じりで言ってきた・・・。どっと教習生たちの笑いがおこりさらにバツを悪くする私。



 笑うなら笑えいッ!! 笑われてこそカリウスなのだ。自虐的な理論を展開し自分を納得させる。


 その時、ふと、入校式の際に行った適正検査の


「自分勝手で冷血で素直」


 という私の性格の診断結果が脳裏をよぎった・・・私の潜在意識は教官を・・・まさかーッ!? 
 そんなつもりは断じて・・・。





棒