第五十五話 夢幻へのパスポート

 免許の写真撮りも終わり、あとは免許の完成を待つだけである。待っている間、交通安全に対する意識を高めるためということで、交通安全ビデオが流される。そういえば、三年前に自動車の免許を取りに来たときも、ここでビデオを見たなあ・・・。


 教室前方の卓の上からスクリーンが下りてくる。部屋に暗幕がひかれ上映開始。



 !!
 ・・・・・・!!。


 まさかと思ったが・・・。


二年前に見たやつと一緒だ・・・。


 そう、二年前に自動車免許を取りに来た時のビデオと同じものだったのだ。そういえば、友人の妹が免許を取りに行ったとき(友人とは年子だから、免許を取りに行ったのは一年前ということになる)も、全く同じビデオが流れていたというが、ここに到っても同じビデオとは・・・。

 確かにどうでもいいことではあるが、規制や基準は毎年変わるし、安全技術の進歩というものもある。毎年変えろとはいわないが、免許の更新のある年・・・三年、もしくは五年スパンくらいで変えて欲しいなと思った(実は変えてるかも?)。しかも、二輪の免許を取りに来ている連中のみなのに、シートベルトについてのビデオである(この件についてはビデオの上映前に所員の方より通達あり。バイクにだけ乗る人はいないだろうから車に乗るときの参考までにみてくれとのこと)。このビデオしかおいてないのだろうか・・・。


 しかし、二年前に見た覚えはあっても内容はほとんど覚えていないので、再確認の意味でしっかり見ることにした(他にやることもないし)。シートベルトはお腹のあたりに巻くと、事故が起きたときにベルトでお腹が押さえられ内臓破裂を招く恐れがあるので骨盤にあわせて巻くようになど、自動車免許を取ったものの実際に車に乗るようになるまでに期間のあいてしまった私にとっては新鮮な発見が多い。


 ビデオの第一部が終ると第二部が始まる。何も二部構成にしなくても・・・と思いつつビデオを見る。第二部が始まって暫く経つと部屋のカーテンが空けられビデオが止められる。免許が出来たようだ。さっきはちゃんと見るようにといっておきながら、途中で切るとは・・・でも、早く帰らせてくれるならそれに越したことはない。


 私は所員の方より免許を受け取る。今日は予告どおり抽出なしで終った。


 免許センターから教習所へと一旦戻る。借りていたヘルメットとブーツを返して、保証金を返してもらわねばならないからだ。


 しかしここで問題発覚。
 原付の燃料の残量が本格的にヤヴァイ
 幹線道路沿いだからガソリンスタンドはたくさんあるだろうとタカをくくっていたが、全然見当たらない。道は長い上り坂に突入。ここで止まったら一大事だ・・・。


 坂を恐る恐るのぼっていくと、ガソリンスタンド発見!! しかし、道の反対側!! ここは中央分離帯があるので、反対側にあるガソリンスタンドに入ることはできない。だが、中央分離帯で仕切られた反対側の道にガソリンスタンドがあったということは、こちら側にもあるはず・・・。かすかな望みをいだきつつ進むもガソリンスタンドは見えてこない・・・。

 くそお・・・、最後の最後でこれかよお・・・。


 不安を抱きつつ1キロほど進むとガソリンスタンド発見!! ほっとして給油するも、ガソリンは最大積載量ギリギリまで入るありさま。ガソリンスタンドがあと1キロ遠かったら、間違いなくとまっていただろう・・・。試験同様、ギリギリのクリアだった。


 ガソリンを補給して教習所に戻る途中、中古車屋の前で信号によって停止。何気に中古車屋に目をやると、どこかで見た車が造花のアーチをかけられておいてある。お買い得品といったところなのだろう。その車とは・・・、


「あ、インプレッサ!!」


 そう、私に免許を取る情熱を与えてくれたインプレッサだ(詳細は後日に譲る)。色や形から判断するにバイト先の店長が乗っていたものと同じだろう。価格は100万円ほどで思ったよりも高くない(もっとも、走行距離などはわからないが)。さすがはお買い得品。



 それはさておき、教習所に到着。他の人はどうやらとっくに帰ってしまったようだ。最高時速60キロ、法定速度30キロの原付ではかなうはずもないか。しかし、そのような屈辱の日々も終る。免許を手にいれ自動二輪を手にいれれば、30キロの足かせとは無縁のものになる(もっとも、法定速度を守って走行などしたためしはないが)。教習所に入ると受付の奥にいた所長が私に頭を下げてくれた。私もそれに反応して頭を下げる。

 所長は私が免許を取りに行った人間であることを覚えていてくれたのだろうか? まあ、この時間にメットとブーツを持ってくる人間
がいれば、免許を取りに行った奴と察しがつくのかもしれないが・・・。しかも背中のリュックには卒業記念でもらったカレンダーがつきささってるし・・・。


 受付でヘルメットとブーツを返却し預けてあった3000円を受け取る。


「おつかれさまでした。」


「ありがとうございました。」


 最後の挨拶をかわしたとたん、二輪の免許をとったんだという実感が初めて湧いてきた。長かったようで短かった教習期間・・・。思えばいろいろな事があった・・・。大学生は時間的に余裕があると思っていたが予想以上にキツキツだったし・・・。


 こうして、二輪免許を取得し、あとは普通二輪を買うばかりになったわけだが、普通二輪を買うのは随分先の話となる。また、これから一年の間、原付と今まで以上にハードな付き合いをしていく事になろうとは、この時の私に知る術はなかった。




棒