第六十六話 「教習所」と「一発試験」(原付ライダー外伝 二種免許伝3)

 「教習所」

 よく「自動車学校」と同じように使われる言葉だが、「教習所」と「自動車学校」は似て非なるものである。

 免許を取得するために学科教習や実技教習を行うところは共通しているが、両者が大きく異なるのは実技試験を 校内で実施できるかできないかである。自動車学校は校内で実技試験を行うことができるが、教習所は実技試験を行うことができないので免許 センターで実技試験をうけなければならない。


 しかし、この免許センターでの実技試験が厄介なのである。現在、教習所がほとんどなく自動車学校が主流に なっているのは、自動車学校に通えば免許センターで実技試験を受けなくていいからである。


 免許センターでの実技試験は「一発試験」「一発」と呼ばれる。自動車学校等に通わずとも、試験に合格すれば 即免許が発行されるからだ(正確にはそうではないのだが)。


 だが、この一発試験で合格することは容易なことではない。

 自動車学校の教官から聞いた話だが、運転経験のある人が、免許が失効してしまった為、一発試験に挑んだ。今 までずっと運転してきていて、運転に自信がある故の判断だ。


 しかし、受からない。

 何度受けてもうからない。


 何度目かの試験の後、試験官が言った、

「あなたの確認の仕方じゃ、何度受けてもうからないよ。免許が欲しいなら自動車学校に行ったほうが早いよ。」


 そう、実技試験はスムーズに運転ができればいいというわけでなく、発進、右左折時等の安全「確認」をしっかり行わないと合格できない(勿論 これだけではないが)。運転経験のある人はスムーズな運転はできても、「慣れ」のために「確認」は疎かになりがちである。路上を走れる走 りと試験に合格するための走りは違うのだ。自動車学校や教習所では基本的な運転技術から始まり、試験に合格するための走りまで教えてくれ るのだ。


 自動車学校の校内実施の実技試験も免許センターの実技試験も、内容、採点基準は同じである。

 しかし、語弊があるかもしれないが、点数のつけかたは免許センターのほうがはるかに厳しい。自動車学校なら見逃してもらえるところも、厳しく採点されてしまう。また、試験官も自動車学校であれば、校内の顔見知りの教官が試験官であるが、免許センターの試験官は免許センターの 職員であり、緊張をしいられる。


 そのような理由で、教習所ではなく自動車学校で免許を取る人が圧倒的に多いのだ。


 特に一種免許の場合は本免許の前に「仮免許」(路上・・・つまり、一般道で練習ができるようになる免許。この免許がないと自動車学校、もし くは教習所内のコースでしか練習ができない)を取らなければならないのだが、教習所の場合は仮免許試験の段階から免許センターで実技試験 をうけなくてはならない。


 仮免許試験には路上試験がないので、自動車学校では慣れ親しんだ自動車学校のコースで試験を受けることができるが(仮免許試験直前の実技教 習は仮免許試験そのものなので、万全の態勢で試験に臨める)、免許センターのコースは車を乗り入れて練習することができないので(見学は できる)、自動車学校での試験の方が圧倒的に有利である。


 もう、お分かりだろう。私が教習所にいくこと以上に気を病んでいた理由が・・・。

 そう、「教習所」に行くということは「一発試験」に挑まなくてはならないのだ・・・。自動車学校に通ってい た頃、「一発試験」に合格する人なんているのか? とまことしやかに言われていた「一発試験」に・・・。


 ちなみに、自動車学校ではなく教習所に通わせるのは、料金が安いからではなく、免許センターでの試験に合格 するだけの資質をもったドライバーを養成したいという会社の方針のようである。正直、どこまで運転に携わるかわからない私にとっては迷惑 な話である。


 先輩から聞くところによると、教習所経由で免許センターに試験を受けに行った人で、一回目の試験で合格した 人はほとんどいないそうである。大概は四、五回受けにいって合格するそうだ。


 平均して四、五回かー・・・。多分、私のスペックで平均はムリだろう・・・そもそも合格なんてできるのか・・・。私の前には絶望が広がっていた。それほどまでに、「一発試験」に挑むという行為は無謀な行為にしか思えなかった。





棒