第六十七話 二次元人の証明(原付ライダー外伝 二種免許伝4)

「赤点をとって留年すれば、もう一年野球を続けられると思っているかもしれないが、甲子園は出場できる年齢 制限があるからな。留年しても何にもいいことない。」


 高校一年生の時に赤点補習を受けるクラスメイトの野球部員に対して担任の先生(野球部の顧問)が言った言葉 だ。私は野球部員ではなかったが、この言葉を妙に覚えている。高校四年生は、高校生でありながら、甲子園にでる資格がそもそもないという言葉に、何か思うところがあったのだろう。


 さて、二種免許を取りに行くことになり、教習所に上司と一緒に申し込みに行った。


 上司は申し込みの手続きによく来るようで、教習所の人とはすっかり顔なじみだ。私の情報は既に教習所側にいっており、免許証を提示するだけで受付終了。まずは視力の測定をしてきてくれとのことだ。上司は、私に車を運転させて近所のメガネ屋へ。教習所で視力の測定ができないのか・・・。


 メガネ屋に到着。上司はここのメガネ屋さんとも親しいようで、メガネ屋さんは何の目的で我々が来たか分かっ ているらしく、私を奥の視力測定機のところまで案内してくれた。


 視力検査は免許の更新の時にいつもやっている事なので、何のことはない。それよりも、二種の教習が不安 だ・・・。教習所の教官、なんだか大雑把そうな人だったから、人の気もしらないで私の運転について、あーだこーだいってきそうだな あ・・・。気が重い。


 そんなことを考えているうちに、Cの字の切れ目の向きを答えるのと、文字を答える視力検査が終了。これで終 わったかと思うとメガネ屋さんが、

「それでは深視力をはかりますね。すこし待っててください。」

 深視力? そういえば、大型免許をもっている先輩が免許更新の時に深視力の検査を受けるって言っていたけど・・・。二種でも測定するん だ・・・。


 メガネ屋さんは私の二メートル程前に、鉄製の四本足の上に長方形の箱が載っている機材をもってきた。パッと見は手で取手を回して使うタイプ の映写機のようだ。長方形の箱の中央にはガラス張りの横長の長方形の穴があいていて、ガラスの奥には縦長の黒い線が三本、等間隔にならん でいるのが見える。ガンダムのジオン系モビルスーツの頭部のモノアイ部分を彷彿とさせるデザインだ。


 設置が終わるとメガネ屋さんが、

「今 から中央の線が前後に動きますので、三本の線が横一直線に揃ったら、揃ったと言ってください。」

と言い、装置の取手を回しだした。

 カタカタという音とともに、真ん中の黒い線が動き出す・・・はずなのだが・・・、本当に動いているのか・・・? 正直言って動いているようには見えない。


 しばらくすると、カタカタという音が止まった。

 分かる、今ならハッキリわかる。中心の線は箱の一番奥へ移動している。


 再びカタカタという音が鳴り出す。線が前に進んできているというのはなんとなくわかるが、横の線と一直線に並ぶところって・・・分かるのか?

 カタカタという音が止まった。中央の線が一番手前に来たのだ。左右の線に比べて中央の線が明らかに太くなっている。動いている時はハッキリ わからないのに、静止するとハッキリとわかる。再びカタカタと線が動き出す。

「三本の線が揃ったら声をかけてくださいね。」

カタカタカタ・・・。

「揃いました!」

「うーーん。揃ってないですねえ・・・。もう一度。」

カタカタカタ

「揃いました。」

「違いますねえ・・・。では、いったん、揃ったところにあわせてみますね。」


 分からん・・・。正直、分からない。一番手前と奥側に線が来て、線の動き止まると急に線が太く見えたり、細く 見えたりして、本来あるべき線の位置がハッキリわかるのだ。


 その後も何回か検査してみるも、結果はかわらず・・・。そうこうしていると、店内で時間を潰していた上司が私の様子を見にやってきた。まさか私が視力検査に苦戦しているとは思いもよらなかったの だろう、

「うん? まだやってるのか?」

すると店の人が、

「ええ、普通の視力は問題ないんですが、深視力がちょっと・・・。」

「深視力? ああ、あの線が動く検査か。」

上司の、こんな検査あったなあ発言・・・。上司は全く苦戦せずにクリアしたのだろうな・・・。しかも、焦って いる私に、

「物が立体的にみえない・・・。昆虫みたいな目ってことか。」

という暴言を浴びせてくる始末・・・。やっぱり私は平面世界・・・二次元の住人だったということのなかのか・・・。


 その時、冒頭の高校時代の担任の先生の言葉が頭がよぎった・・・。

 教習うんぬんではなく、そもそも教習を受ける資格がないのだと・・・。


 ※二種免許伝・完・・・最後までお読みいただきありがとうございました。

 
 という冗談はさて置き次回に続きます・・・。





棒