第75段 日本で進まない、路面電車(LRT)(LRT)建設問題(7月11日’08)

●ヤフーが08年6月に実施したアンケートでは8割が建設賛成ですが。

 気がつけば弊サイトも世界各国の写真が旅行風景、鉄道風景ともに充実してまいりました。
 その中でも、次々とヨーロッパやアメリカ、また中国でも復活する新型の路面電車「LRT」の写真が「私の希望通り」(?)次々と投稿されてきておりまして、結果的に弊サイトでは特に力を入れて掲載しておりますが、皆様はいかが御覧になっているでしょうか。
 *LRT・・・軽量軌道交通(Light Rail Transit)のこと。バスと鉄道の中間的な存在としての位置づけです。
  本文中では路面電車=LRTのように書いていますが、実際には非常に広い概念で、車両が新しい、超低床車両(LRV)
  を導入しただけでは本来 はLRTとは呼べず、バスとの連携やパークアンドライドの実施など、様々なシステムを組み合
  わせたもの、とお考えください。

 日本では路面電車の復活!と10年来叫ばれながらも、新規に開業したのはJR富山港線を転用した富山ライトレール(一部新設軌道)ぐらい。建設工事が進行中なのは、大阪府堺市と、それから富山市が更に路線を延長を進めているぐらいなもので、他は構想段階からなかなか先に進みません。

 それどころか、弊サイトでも何度も書きましたが、最近の例では名古屋鉄道が岐阜市とその周辺で運営していた路面電車と、その直通路線を含む全路線の廃止の意向を示したところ、存続へ7万人以上の署名が集まったにもかかわらず、岐阜市は財政的な支援を嫌がり、殆ど何ら手を打たないまま、2005(平成17)年4月に廃止を迎えさせました。

 そして現在、熊本市とその周辺では、熊本電鉄が自身の路線をLRT化し、線路を延長して市電に直通したい(出来なければ鉄道を廃止したい)、との構想を出しているのですが、熊本市側の検討委員会では今年3月に、熊本電鉄をバス専用路線変えてしまえと、驚きの提言を行い、現在はその方向に進みつつあります。ガソリン代が高騰し、各地のバスが廃止に追い込まれている中で、何を考えているのやら。線路の撤去や施設の整備にだって、物凄いお金がかかるはず。あげくに地図や時刻表からは完全に消え去り、その辺のバス路線の1つになります。住民以外は存在に気がつかず、滅多に利用しなくなるでしょう。鉄路が消えることについて、軽く考えてないでしょうか。

熊本電鉄
 現状では純然たる鉄道。これをバス専用道路にしようという考えらしいですが・・・。(撮影:リン)
熊本市電
 かつての路面電車廃止の波を乗り切り、現状の路線は日々多くの乗客が利用しています。(撮影:裏辺金好)


●宇都宮で起こる路面電車(LRT)建設反対運動

 さて、堺市以外で最も路面電車(LRT)建設構想が進んでいる自治体としては、栃木県宇都宮市があり、「雷都レールとちぎ」などによる建設推進の市民運動も盛んです。ところが、逆に建設反対の市民運動として「LRTに反対する会」が登場。ここまでは市民どうしで論議を深めることで大変結構なことなのですが、これに「何でも反対」民主党、やはり「何でも反対」連合栃木が乗っかり、政治的な思惑が絡んできたのは非常に残念です。

 双方の主張については毎日新聞
 http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20080607ddlk09040064000c.html
 を参照のこと。
 また、宇都宮市のLRTに関する紹介は
 http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kotsu/shinkotsu/index.html
 を参照のこと。


(上写真:バス路線が終結する宇都宮駅。中心部からは少し離れている。/撮影:裏辺金好)


 宇都宮市の場合、私も実際に現地に行ってみましたし、ネットで色々と見ておりますと、宇都宮市側の路面電車(LRT)建設によるメリットなどについて、説明不足の面があるようですが、一方で反対派の主張は先ほど紹介した毎日新聞を見る限り、「建設にはお金がかかる」「バスがドル箱路線を失う」ぐらいなもので、車社会からの脱却と、新しい公共交通政策のあり方について、まるで見えてきません。そもそも検索していただければわかりますが、ネット上では反対派が自身のホームページなどを持っておらず、路面電車(LRT)に反対する主張すら見えづらいのが現状です。

 たしかに、単純にヨーロッパに右にならえで、詳細な検討を行うことなく、とりあえず造ってから考えよう、ということでは困りますし、造るにしてもルート選定をどうするか、街づくりといかにリンクさせるか、もしくはバスの活用でも工夫できることは無いか、考えるべき問題や代替案は色々とあると思います。


(上写真:郊外のドイツ鉄道線から、市内へ直通する、ドイツのカールスルーエの路面電車(LRT)/撮影:kenura様)

 しかし、高齢化社会の進行や、それ以前にガソリン価格の高騰によって、これまでのように車の所有自体が難しい状態になり、出来る限り多様な公共交通機関を使えた方が便利です。インターネットに掲載されている、宇都宮の反LRTの主張を見ていると、こうした視点が完全に抜け落ちています。

 また、LRTに反対する会が掲げる路面電車(LRT)建設反対の根拠の1つである、「(富山ライトレールは)昔からあった路線を使い、事業費も安く抑えた。生活、歴史の中に息づいているもので、比較にならない。」というのありますが、JR富山港線時代、乗客減→列車本数削減→乗客減→列車本数削減・・・で、悪循環に陥り、その不便さから住民に見放された路線でした。

 それを車両の一新、電停のデザインの一新し、見るからに「オシャレな乗り物」にする、そして忘れてはいけないのが、古い街並みの魅力再生などによる沿線価値創造など、様々な手法を組み合わせて成功した、極めて「参考にすべき」事例です(写真撮影:デューク)。この結果、市民の足としても、観光の足としても活用できるようになりました。

 さらに、行政側も住民への理解を求めるため、様々な広報努力をしており、この結果、今度は更に既存の富山地方鉄道の路面電車(LRT)の延伸が始まりました。また、路面電車(LRT)以外にもローカル線のJR高山本線の大幅増発と、新駅を設置による利用率アップ実現など、公共交通の再生について様々な手を駆使しています。


(上写真:ドイツのドレスデンの路面電車(LRT)/撮影:kenura様)

 そして、LRTに反対する会は、フランスのオルレアンの事例のみを引き合いにし、あたかもヨーロッパの路面電車(LRT)は観光用だ、のごとく誘導するような主張をされていますが、ヨーロッパでも大半の路面電車(LRT)は通勤や通学、中心市街地への買い物にも使われているのはもちろんこと、日本でも広島電鉄を見れば、市民の足としても、観光の足としても、根付いているのは一目瞭然。さらに、上写真のドレスデンの場合、カーゴトラムとして貨物列車としても活用しており、路面電車(LRT)の活用策をどうするか、こそ考えるべき問題ではないでしょうか。

 活用策という意味では、もちろん路面電車(LRT)の電停でバスに乗り換えられるシステムの構築は必要ですが、「路面」電車なのですからバスを路面電車(LRT)の線路上に走らせたって構わないわけです。そうすれば、郊外へ直通するバスは中心市街地ではスピードアップに繋がり、結果的にバスにも「定時制」の確保が出来ます。車のユーザーとしても、車道からバスが無くなりますので、路面電車(LRT)建設で車線は減少しますが、多少はその分をカバーできます。

 一方、路面電車(LRT)は車両の編成に自由度がありますので、朝ラッシュ時などは長編成で運転を行うことが出来ますし、他の鉄道に直通したって構わないわけです。などなど、まずは建設されたとして、どう上手に使っていくか、宇都宮市の構想には何が不足しているのか、こういう点から議論を進めてみるべきではないでしょうか。

 その検討の結果、それでも宇都宮市には路面電車(LRT)(LRT)は過剰な乗り物であり、我々としてはバスを活用した、こういうシステムを提案したい、という形での反対になれば、非常に深みのある公共交通論議になろうかと思います。例えば、今のところ名古屋でしか採用されていませんが、ガイドウェイバスシステム(左写真/裏辺金好撮影)なんかも、選択肢の1つとしては考えても面白いと思います。

 繰り返しになりますが、たしかに何でも路面電車(LRT)を造ればいいわけではありません。輸送力が大きい、線路があることで視覚的にわかりやすい、地図にも載るなど、路面電車(LRT)が得意とする領域があれば、一方で小回りが効かない、場所によっては輸送力が過剰など、不得意とする領域があり、現在計画されているルートに本当にふさわしいか? もしくは、どう計画を改善すべきか?という点は議論すべきでしょう。

 また、我田引鉄再び!のごとく、「地下鉄建設だと批判されるから、建設費の安い路面電車(LRT)を・・・」と、新たな公共事業の隠れ蓑として路面電車(LRT)が使われ、そのツケを将来に回されてしまわないよう、しっかりと注視する必要はあると思います。

 ただ、道路の拡幅などには多額の税金が使われ、拡幅の整備要望なんかはバンバン出ていると思うのですが、路面電車(LRT)建設となると反対なのか?

 そして、反対するにしても世界の流れや、路面電車(LRT)の建設と運営に成功した都市は、どのように成功させたのかなどの研究を行わず、あろうことか事実を誤認したまま、民主党の政治戦略に乗っかり宇都宮市民に対して反対運動を展開することは感心できません。

 それでも、宇都宮にとって幸いなのはLRTに反対する会の代表である、浅野薫子氏が宇都宮市長選に出馬すること(最初からこれが狙いだった?とは、勘ぐり過ぎでしょうか・・・??)。現職の佐藤栄一市長も出馬しますから、これで市民を本格的に巻き込む形で路面電車(LRT)建設論議が深まると思います。どうなるにせよ、最終的に選択するのは住民ですから、両陣営とも「造らせて下さい」「反対」という、単純化した論議で消化不良にすることなく、深みのある論戦を展開して欲しいと思います。

 宇都宮について長々と書きましたが、これから路面電車(LRT)導入を計画している都市にとっては、非常に参考になる事例だと思われまし、ひとつの試金石になるのは間違いないでしょう。 宇都宮以外でも京都や豊島区などで路面電車(LRT)建設の声が出ていますが、賛成、反対、いずれの場合も、良く考えて主張をぶつけ合い、より良い未来の公共交通と、これにリンクした街づくりについて「建設的な」議論を行ってもらいたいと思います。


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