裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第12話:最善策

 狭間がさらに説明を続ける。
「しかし、数が数だからな。でも、その頃には多少冷静になって、ただ逃げ回るだけじゃなく、他の3人を探し回ってた。最初に見つけたのは、桜庭だったな。」
狭間が桜庭に視線を送る。
「ああ、そう…。それまでの行動は狭間と似たようなものだよ。話を聞いてると、俺の方が少しだけ、目が覚めるのは遅かったみたいだけど…。狭間はいいさ、モップの柄でも何でも、武器があったんだから。俺なんか、ひたすら素手だぜ。素手でゾンビを殴ると気持ち悪くって、その上ほとんど効かないし…。結果的には逃げ回ってただけかな。それで、そのうち狭間と出会って、聞けば3階にある部屋は全部見たって言うから、2階に降りてきた。で、病室を巡ってるうちに、まだ寝ている岩成を見つけて叩き起こして、また走り回って…。やっとの思いで、この部屋で西園寺がいるこの部屋を見つけたんだ。そのときには俺はもう、体力の限界で…。何より、ゾンビとか、バケモノとかがウヨウヨいるような廊下には、もう出て行きたくなかった…。だから、かりそめでも安全が確保できるこの部屋に立てこもることにしたんだ。」
 なるほど、その判断は悪くない。しかし、今の台詞の中に、ただ一点、腑に落ちないところがある。
「『ゾンビとかバケモノとか…』ってどういうことだ?まさか、ゾンビ以外にも…。」
 いかにも意外そうに狭間が答える。
「あれ?お前、まだ見てないのか?トカゲ人間っていうか、イモリ人間ていうか…、とにかく全身真っ黒でヌメヌメした気持ち悪いヤツだけど…。とにかくゾンビなんかよりずっと危険だと思うね、俺は。」
 …まったく、やっとゾンビのあしらい方も分かってきたというのに、厄介なのが増えてしまった。
「それで、君達はそんなのから逃げてて、怪我はしなかったのか?」
「俺達はたいしたことないけど…、岩成が…。」
 それを聞いて岩成をもう一度よく見る。その左足には、シーツを千切ったのだろう、白い布が巻きつけられていた。そして、その一部は赤く染まっている。
「すいません…。」
「いや、別に責めてるわけじゃないんだけど…。」
 突然謝られると、むしろこちらが悪いような気がしてしまう。

「どうなんだ?痛むか?」
 一応、激しい出血はしていないようだが傷が深ければ危険だ。
「はぁ…、ちょっと…。」
 出来れば診てみたいのだが、いまさら包帯を解くのは逆効果だろう。そしておそらく、この足では走ることはおろか歩くことも困難かもしれない。
「さっき言ったイモリ人間にやられたんです…。逃げるときにツメでガリッ、て…。」
 イモリ人間にツメ?どうもイメージが湧かない…。

 さて、ずいぶん話し込んでしまった。もはやこれ以上話していても、大した意味は無いだろう。
「…分かった。君達はもう無理をするな。」
 そう言って手塚がベッドから立ち上がる。
「無理をするなって…。アンタはどうする気だ?」
 西園寺が手塚に問う。
「また少し、外を歩いてくる。まだ探さなきゃいけないヤツもいるからな。」
 体をひねって腰と肩の骨を鳴らす手塚。関節の擦れ合う音が心地良い。
「ちょっと待てよ、俺達は洗いざらい知ってること喋ったのに、アンタは何も無しか?」
 西園寺が不平をもらす。西園寺からは特に何も聞いていない気もするが…。
「ああ、そうだったな。すまない、忘れていたよ。」

 手塚は、自分のこれまでの経緯を話した。この町に帰ってきたときのこと、交番で拳銃を手に入れたこと、実家でトランシーバーを見つけたこと、亀村家で川田を見つけたこと、インターチェンジで見た黒衣の巨人のこと、岡崎と共に武器を手に入れたこと、病院に入って、死んだと思っていた皆川と再開したこと、牛田がこの病院に入院していること、そして、病院内を駆けずり回ったこと…。掻い摘んで(かいつまんで)話したつもりだが、かなり時間がかかってしまった。
「じゃあ、行ってくる。1時間、いや、45分経って帰ってこなかったら、そのときは狭間君、きみがみんなを頼む。」
 もう一度所持品を確認し、ドアに手を掛ける。
「ちょっと待った!」
 …また西園寺だ。さっきから随分と突っかかってくる。
「俺も行こう。」
 何を馬鹿なことを言い出すやら…。手塚は、半ば呆れ気味に振り返った。
「…お前には無理だ。お前は銃なんて扱えないし、第一、さっきからの話を聞く限り、ゾンビとまともに対峙してすらないだろう?」
「だから!俺はまだ、体力的にも余裕がある!それに、銃なんて邪道な武器を使うようなヤツは、漢じゃねぇ!漢だったら素手、もしくは格闘武器で戦えぃ!」
 手塚の呆れは徐々に憤慨へと姿を変えていった。
「お前…、いい加減にしろよ…。漢だとか漢じゃないとか、遊びでやってんじゃないんだよ!」
 ここにいる誰もが聞いたことのない手塚の怒声。それは一瞬の思考停止を導くのに十分だった。
「いいか、俺は俺を含めて、出来る限り人的被害を少なくしようと思ってる。そのために、常に最善策をとっているつもりだ。君たちには、それに協力してもらいたい。そして、今、君達にしてもらいたいことはただ一つ。『ここで自分達の身を守れ』、それだけだ。」
 それを捨て台詞に再度ドアの前に立つ。その背中に岩成が声を掛けた。
「先輩…、気をつけて…。」
「…おう。」
 手塚は振り返らずに答えた。


棒
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