裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第18話:オバケか、ゾンビか

「いやいや、先輩。落ち込んでないでここ見て下さいよ、ここ。」
藤田が指差した先には「ERROR!!」の画面が切り替わり、その理由を知らせた内容が表示されていた。
「総出力予想量が、発電量を上回っています。最初からやり直してください。」
「ったく、そういうことか。フザけた機械を使いやがって。こんなことで人命が守れるのか?この病院は…。」
自分のミスの責任を病院の設備に転嫁して、愚痴をこぼしながら設定をやり直す。今度は慎重だ。
「ここは必要…、ここはもう行かないだろうから必要ない…、ここは一応つけとく…。」
画面端に表示される電力ゲージと相談しながら、電力を配分する。何故、さっきはこれに気付かなかったのだろう…。
 考えうる限り、最善の組み合わせで電力を配分し、今度こそ「決定」する。しばらく間があって、「電力配分を完了しました」という表示。実感はないが、外に出れば状況が変わっているのだろう。
「よし、OK!次行くぞ、次!」
激しい音と臭いから逃げるようにして、廊下に出る。

「先輩!暗いっすよ!」
「うーん、ここはつけておくべきだったか…。」
証明設備の無い夜の地下室。全くと言っていいほど、光の要素が無い。この状態ではいくら慣らされたとしても、目は役に立たないだろう。
「仕方ないな。携帯電話を持っているか?待機画面をライト代わりにする。」
明るい場所ではあまり気付かないが、携帯電話の画面は、かなりの光を発している。暗闇に慣れた視細胞ならば、物体の輪郭をとらえるくらいはできるだろう。
ポケットから携帯電話を取り出し、前方を照らす。ぼんやりと薄暗く、壁が浮き上がる。
「それでも暗いっすよ、先輩。」
「ええい、文句を言うな。別にオバケが出るわけじゃないんだから。」
「オバケは出なくてもゾンビが出るじゃないですか!」
全くもってその通りである。今の手塚に説得力はない。
「分かったから、そんなにしがみつくな。男にしがみつかれて喜ぶ趣味はないぞ、俺は。」
「そうですよね、先輩はロリ…」
手塚の裏拳が飛んだため、その台詞が最後まで綴られることは無かった。手塚は何事もなかったように、壁をつたい、次の部屋へのドアを探す。

「お、あったあった。ここだ、ここ。」
半ば手さぐりでカギを開け、中に入る。
「ここは…、ポンプ室?何故こんなところに来る必要が?」
「一つには、まだ入っていない部屋で気になったから。もう一つには、もしかしたら冷却装置がここにあるんじゃないかと思ってね。とりあえず探してみようぜ。」
機械室の時と同じように、手分けをして部屋を探る。多少、ポンプの音はあるものの、臭いが無いだけ機械室よりはマシか、とも思ったが、複雑怪奇に入り組んだ配水管を見ていると、これもまた嫌気がする。何故、このように複雑にする必要があったのだろう?業者の陰謀か?
「先ぱーい!こっちに配管経路図なるものがありますけどー!」
「おう!ご苦労!すぐ行く!」

 だからそんなものを作る必要があるなら、もっと単純にすればいいのに…。経路図によると数多ある配水管の一つが、例のハードディスクに直結していることが分かった。
「つまり、あそこに水を送るには、こことここのコックを回して、あのバルブを開けばいいわけだな。」
経路図と実際の配管を照らし合わせながら手塚が確認する。
「ええ、本当はこのコンピューターで自動制御しているらしいんですが…。」
よく見るとそれぞれのコックやバルブには導線がついていて、それらは一つのコンピューターに収束している。しかしそれは、根元のところで完全に切断されていた。
「ネズミ…、ってわけでもなさそうだな。」
「ええ…。完全に人の力、それも鋭利、かつ破壊力のある刃物による切り口に見えます。例えば、斧のような…。」
理知的、かつ正確な考察には感心するが…。
「その検証はあとだ。ただし、それをしたヤツが、まだどこかにいるかもしれないから、それだけは気をつけろよ。」

どこかの教会にある大掛かりなパイプオルガンのような配水管を伝って、コックのところまで昇っていく。昔、小学校にあったジャングルジムがちょっと複雑になったようなものだ。わけはない。
「藤田、このコックでいいんだよな?」
「はい、それとそっちの左側のヤツです。」
任務を遂行した後、身をひるがえして床に着地する。後はバルブを開くだけだ。
「ん?フッ!フヌアァァァ〜!!」
…固い。とても一人の力では…。
「先輩、手伝います。」
「お、おう。頼む。」
二人の力をあわせると、ようやくバルブは錆びた金属の擦れ合う音と共に回転し始める。さらに水道管からはわずかに水の流れる音が聞こえ始めた。
「ふう…。よし、もういいだろう。」
バルブを全開にしたころ、二人の額には汗がにじんでいた。精根尽き果てた二人はバ
ルブを挟んで両側に座り込む。
「なんか、ファイト一発な気分ですね。」
未だ整わない呼吸で藤田が言った。
「確かにな…。でも、別にどっちかがピンチだったってわけじゃ…。」
手塚の台詞はそこで中断された。足音が聞こえたから。それも、ゾンビ特有の今にも倒れそうで、引きずるような足音。
「先輩…。」
「分かってる…。物音を立てるなよ。どこだ…。どこにいる…。」
手塚は神経を集中させ、足音の発生源を探り始めた。


棒
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