裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第28話:新しい銃

 家の中に入ると、全員リビングに集まり、誰からともなくこれからの行動について話し始めた。
「何とかして逃げられないんですか?どこか抜け道とかありそうなものなのに…。」
岩成としては一刻も早くこの町から逃げ出したいらしい。怪我から来る不安もあるだろうが…。
「…無理だな。主要な道路は破壊されてるし、道路状態が悪すぎる。ゾンビだらけだもんな。山道を抜けるにしても何がいるかわからないし、あのバズーカ砲野郎に出くわしたら、それこそ一巻の終わりだ。」
『逃げる』というたった一つに行動にもこれだけの障害がある。そして手塚は、こんなマイナス要素しか思い浮かばない自分を苦々しくも思った。
「じゃあ、どうする?ここで助けを待つか?」
「それもどうでしょうね…。この町がこんなになってどれだけ時間が経つんです?その間、まともな『助け』なんてほとんど無かった…。そのうち助けが来る、なんて希望的観測に過ぎないと思いますけど…。」
 手塚の父親は自分よりもはるかに年下の藤田に自分の意見を封じられたことが少し癇に障るらしい。
「じゃあ、やっぱり打って出るしかないか…。」
「…確かにな。今のところまともに動けるのは、俺と桜庭に藤田、岩成はちょっと…。それと、川田に親父さん、手塚は…。」
「ちょっと待った。」
 手塚が桜庭と狭間の会話の腰を折る。
「打って出るのはいいとして、そんな大人数でぞろぞろ動くのは反対だな。」
おそらく狭間の頭の中では手塚はすでに戦力外だっただろう。応急措置を終え包帯だらけになった彼の姿を見れば、それもうなずける話だ。
「だったら誰が行く?お前、もう動けないだろ?」
「動けるさ、少なくともここにいる全員より戦力になると思うがね。」
 全員の刺すような視線が手塚に向く。手塚は慌てて弁明する。正直、苛立っていたことも事実だが。
「い、いや、そういうわけじゃなくて…、その…、みんな、銃火器とか使えないでしょ?だから…。」
 一歩引いたことで、少し冷静になれた気がした。
「だから、外に出て動くのは僕だけでいい。」
 そう言って手塚が立ち上がる。
「じゃあ、僕らはどうすればいいんです?また、ゾンビの大群が襲ってきたら…。」
 確かに川田の言うとおりだ。さっきの群れも親父と川田の存在を感じ取って襲ってきたものだろう。その上、庭にはその肉片が転がっている。ここにいれば、新たな群れが腐臭に引き寄せられないとも言い切れない。
「うーん、じゃあどこかまた安全な場所探すしかないかなぁ…。」
 とは言っても実際に安全な場所などありえないし、仮にあったとしてもそこまで移動するのは危険すぎる。
「いや、別の場所を探す必要などない。ここにいれば安全だ。」
 また、この親父は何を言い出すやら…。
「しかしなぁ、親父…、またゾンビに襲われたら…。」
「これで撃退する。」
 そう言って手塚の父親はとなりの部屋のモノを見せた。
「…はぁ〜。こんなもんどこにあったよ?」
 そこには回転歯式の草刈機、斧、鉄パイプ、ノコギリ、日本刀など物騒なものが所狭しと並んでいた。
「案外、探せば武器になるものなんて結構あるモンだ。コイツなんか無銘だがよく切れるぞ、フフフ…。」
 …目がアブない。この親にしてこの俺あり、か…。
 まぁ、さっき親父と川田もチェンソーと火炎放射器を持っていたし、これだけあればゾンビ程度には引けは取るまい。
 十分とは言えないものの休息は取った。怪我の治療もした。そろそろ潮時だろう。
「じゃ、いってくるわ。」
 あくまでも自然に言った、つもりだった。だが、隠した不安は声の上擦りに現れる。
「先輩…。」
 藤田はそれを鋭く感じ取る。
「ん?」
「帰ってきて…、下さいね…。」
「ハッ!男に言われても嬉しくはないねぇ。」
 …約束は、出来なかった。

 これから俺がすべきことは三つ。
 一つ、町役場に残った3人を見つけ、助け出す。
 二つ、その役場の屋上にある妨害電波発生装置を潰す。
 三つ、同じく消防署の屋上にある妨害電波発生装置を潰す。
 これだけやれば、あとは親父が無線で外部に連絡を取ってくれるはずだ。なんだかんだいって親父はそこそこに顔が広い、外に連絡さえつけばどうにかしてくれるだろう。
だからといって、すぐさま役場に直行するほど猪突猛進なタイプではない。できる準備は万端にしよう。
 手塚は役場へ行く前に、少し寄り道をした。狭間銃砲点、本日二度目のご来店だ。
「お、あったあった、これこれ。」
 奥の部屋の作業台の上には、最初にここに来たときと同じように、組み立て途中の拳銃が置いてあった。院長室で見つけた書面に間違いがなければ、かなり強力な銃のはずだが…。
 組み立ては、既に8割がた済んでいたので大した技術も必要なく、もともと器用な方でない手塚でも10分ほどで作業は終了した。
 目の前には見たこともない型の銃が(とは言っても見たことがある銃の方が少ないのだが)転がっている。手にとってみると、30センチ近い大きさの割には意外と軽い。これなら自分にも使えそうだ。ちょっと試し撃ちをしてみたいが、どこかに的になるものはないかな…。その前に弾が無ければただの鉄の塊なのだが…。

 作業机の引き出しを片っぱしから開けてみる。その他の引き出しには何に使うのかよく分からない工具類しか出てこなかったが、一つだけ鍵のかかった引き出しがあった。鍵を探すのももどかしく、探しているような時間もないので、さっきまで拳銃の組み立てに使っていたドライバーでこじ開けることにした。引き出しの隙間にドライバーをねじ込み、てこの原理を利用して鍵の部分に力を加える。金属製の机が、文字通り金切り声を上げる。
 「バキッ!」
 っという破壊音とともに、引き出しがだらしなく口を開けた。中には書類などの他に、つたない筆記体で「bullets for GJCVHM」と書かれた箱が一つ。大文字の部分は、おそらく「GYRO JET CUSTOM Ver.H MAGNUM」の略だろう。適当に響きの良い母音をつけて強引に読めば「ガジェック・ヴァーム」くらいの発音になるだろうか?別にどうでもいいけど…。それよりも、箱に書かれた文字が手書きであることを考えると、弾丸自体も手製なのか?

 さっきまで使っていた、警察用ニューナンブのものより少し大きな弾丸を七連装のマガジンに込める。それを含めて、箱の中に入っていた弾は全部で30発くらいだろうか…。決して多い数ではない。大切に使わなければ…。しかし、試し撃ちは必要だ。いざ使う際になって見掛け倒しでした、では洒落にもならない。外に出て適当な的を探す。電話ボックスがある。アレでいいか…。
 予測される反動に備えて腕に力を込める。スタンスも広く取る。周囲の安全を確認し、慎重に引き金を引く。
「パバシュッ!!」
 驚くべきことはたくさんあった。覚悟していたよりはるかに小さい反動。奇妙な発射音。白煙の尾を引き、閃光の残像を残す弾道。そして、爆発音とともに完全に破壊された公衆電話。確かにジャイロジェットは、反動が極めて小さく、適切な射程距離で撃てばマグナムと同程度の威力を持つらしいが、まさかこれほどとは…。

 改めてこの銃に関する書類を見直す。それによるとオリジナルのジャイロジェットは、銃弾からのロケット噴射によってのみ推進していたため、初速が遅い、長距離射撃になると命中率が悪い、という二つの致命的な弱点があったが、このカスタムヴァージョンは、通常の拳銃と同じような火薬の爆発による推進作用を併用しているらしい。その結果が、あの奇妙は発射音だ。もちろん、初速に関する弱点は克服していると言っていいだろう。命中率に関しても、拳銃で長距離射撃をするような機会は滅多にあるものではない。むしろ自分の技能による命中率のほうが心配だ。
 
 よって結論、この銃は自分の命を預けるに値する。
 命を預けたその銃を、最初から持っていたニューナンブとは反対側の懐に入れて、役場へ向かう。

棒
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