クラス158「エクスプレス・スプリンター」 

British Rail Class 158 'Express Sprinter'


旧ファースト・グレート・ウェスタン(FGW)の2連のクラス158/0。現在はグレート・ウェスタン鉄道(GWR)に改名し深緑の塗装に更新中。
(撮影:ブリストル・パークウェイ駅、Bristol Parkway Station)

●基本データ

デビュー年 1989年
最高速度 145km/h
製造会社 イギリス国鉄鉄道工学部門ダービー工場
(British Rail Engineering Limited, BREL Derby)
運行会社 アベリオ・スコットレイル(Abellio ScotRail, ASR)
アリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(Arriva Trains Wales, ATW)
イースト・ミッドランズ・トレインズ(East Midlands Trains, EMT)
グレート・ウェスタン鉄道(Great Western Railway, GWR)
ノーザン・レイル(Northern Rail, NT
サウス・ウェスト・トレインズ(South West Trains, SWT)
運行区間 こちらを参照
編成詳細

クラス158/0 2連x127本、3連x9本
クラス158/9 2連x10本、3連x12本

・クラス158は元々182編成製造されたが、8編成がクラス159に改造
・3連x12本のクラス158/9は2連x18本の158/0を組み替えたもの


●イギリス国鉄が生み出した傑作の地方幹線用ディーゼル車

 イギリス国鉄が導入した「スプリンター・ファミリー」の末っ子で、一番最後に新造された。スプリンターは他にもクラス150、153、155と156が存在し、老朽化した第一世代気動車を置き換えた第二世代気動車である。スプリンターの中でも最高速度が高く、頻繁に長距離列車を担当するため「エクスプレス・スプリンター」と呼ばれている。一部の列車は改造工事を受け、クラス159に生まれ変わった。

導入背景と国鉄時代の運用
 他のスプリンター気動車とは違い、クラス158は旧型気動車だけでなく、機関車牽引の客車列車を置き換えた。登場時から内装の豪華さが宣伝され、車内はカーペット張りで従来の車両より大きいパノラマ窓を採用。他のスプリンターには無い空調を完備し、車内電話、デッキと車内を仕切る電動ドア、各車両にトイレや車内販売用の設備も整っている。最高速度が145km/hに引き上げられたにも関わらず騒音も減り、長距離を走行する客車列車の後継としては相応しい出来だった。

 BREL(イギリス国鉄の鉄道技術部門)が地方路線を管轄下に置いていたリージョナル・レイルウェイズ(Regional Railways)のために合計172編成のクラス158/0を製造。そのうちのほとんどが2連で、最初から3連として製造されたのは17編成のみ。この17編成もそのうち8編成が中間車両を引き抜かれ、更に8編成はクラス159に改造された。リージョナル・レイルウェイズの他にも2連x10編成をウェスト・ヨークシャー地区交通局(WYPTE, West Yorkshire Passenger Transport Executive)が発注し、これらはクラス158/9と呼称。クラス158/0は三回に分けて製造され、一次車は260kWのカミンス(Cummins)製のエンジンを、二次車は同じ260kWのパーキンス(Perkins)製のエンジンを搭載した。最後の三次車はパワーアップした300kWのカミンス製エンジンを採用し、急勾配があるウェールズのウェルシュ・マーチズ線(Welsh Marches Line)に投入される予定だった。

 デビュー時は大々的に宣伝されたクラス158だったが、初期不良が多発した。軽量アルミボディとディスクブレーキが原因で秋には車輪の淵に落ち葉が付着して軌道回路を切断し、信号システムに支障をきたした。空調設備もフロンガス用に設計されておりそれらが禁止されてからは信頼性が低く、民営化後では運行会社が丸々取り換えたりもした。しかし軽量な車体(一両約40トン、比較として近代的なクラス185は一両役55トン)のおかげで運行可能な路線がとても多く、英国鉄の民営化後は各地の運行会社に引き受けられ、未だに全国中で運用されている。

現在の運用(地方別)
スコットランド
現在アベリオ・スコットレイル(ASR)はクラス158/0を2連x48編成保有していて、スコットランド中の非電化路線をクラス156と共に担っている。短距離路線を担当するクラス158の運用も少なくなかったで、2003年頃にはイングランド中部のクラス156と車両交換する計画が持ち上がったものの決行はされずに今でも多くのクラス158がスコットランドに残っている。現在は前運行会社のファースト・スコットレイルのピンクと紺の塗装からスコットランド国旗塗装に順次リニューアル中である。

ウェールズ
元々ウェールズでは多くのクラス158が長距離列車に充てられていたが、クラス175の導入で余剰となった編成は転属し、現在はアリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(ATW)が24編成を保有している。クラス158の活躍の場であるカンブリアン線(Cambrian Line)はERTMS(ヨーロッパ共通信号保安システム)の試験路線となっており、ATW所属のクラス158はイギリスで初のERTMS対応車両となった。2010〜2012年にはリニューアル工事が行われ、LED表示の案内システムが備え付けられ、一部の座席でコンセントが使用できるようになった。

イングランド中部
英国鉄民営化直後には中部地方では第一線で活躍していたが、クラス170の大量導入によりクラス158は地方幹線で運用されるようになった。イースト・ミッドランズ・トレインズ(EMT)に2連x25編成が在籍していて、ノリッジ〜リバプールなどの長距離路線やノッティンガム〜スケグネス、マットロックなどを担当している。一時間毎に走るノリッジ〜リバプール間の列車は元々2連だけで運行していたが混雑がひどく、緩和するためにノッティンガムで分割・併合しノッティンガム〜リバプール間は2編成4連で運行されるよになった。

イングランド南西
現在はグレート・ウェスタン鉄道(GWR)がクラス158/0を2連x2編成、3連x1編成とクラス158/9を3連x12編成を保有。GWRのクラス158/9はウェスト・ヨークシャー地区交通局に発注された編成ではなく、2連x18編成のクラス158/0を組み替えたものである。中間車となった先頭車は運転席を使用不可にし、幌の大きさが異なるためアダプターが付け加えられた。GWRのクラス158は2007年からリニューアル工事が施され、内装が大幅に更新された。主にカーディフ中央〜ポーツマス・ハーバー、ブライトン間やウェイマス〜ウスター、グレート・マルヴァーン間で使用されている。
*注:GWRは2015年9月までファースト・グレート・ウェスタン(FGW)という名の元営業していて、塗装や名称は異なるものの同一会社である。

南西ではサウス・ウェスト・トレインズ(SWT)もクラス158/0を2連x11編成保有し、ほぼ同型であるクラス159と共に車両形式を統一させるためにより新しいクラス170を置き換えた。主にロンドン・ウォータールー〜ソールズベリーやソールズベリー〜ロムジー、リミングトン支線などで運用されている。

イングランド北部
ノーザン・レイル(NT)にはクラス158/0が2連x25編成と3連x8編成、そして旧ウェスト・ヨークシャー地区交通局用のクラス158/9が3連x10編成所属している。都市間快速列車を主に担当していて、ヨーク〜ブラックプール・ノース、ノッティンガム〜リーズ、リーズ〜マンチェスター・ヴィクトリアなどで運用されている。

(解説・撮影:秩父路号、2016年3月更新)

●ギャラリー


クラス158/0の中では少数派の3両編成。写真はノーザン・レイル(NT)の編成で同社には3連の158/0が8編成所属する。
(撮影:ブラムリー駅, Bramley Station)


NTの2連のクラス158/0。輸送力増強のため写真のようにクラス153と併結する事も。
(撮影:ソルテア駅、Saltaire Station)


NTのクラス158の車内。青をベースにしたNT標準モケットを採用している。


アベリオ・スコットレイル(ASR)の2連のクラス158/0。スコットランド国旗もモチーフとした塗装を採用。
(撮影:ノース・クイーンズフェリー駅、North Queensferry Station)

イースト・ミッドランズ・トレインズ(EMT)のクラス158/0。
(撮影:マーチ駅付近, March Station)

EMTのクラス158の普通車車内。


旧ファースト・グレート・ウェスタン(FGW)の3連のクラス158/0。写真の158798編成はNT所属編成以外で唯一の3連のクラス158/0。


FGWの3連のクラス158/9。これらは2両編成を組み替えているため全車が運転台付。スカートの形状も158/0とは異なる。
(撮影:カーディフ中央駅、Cardiff Central Station)


アリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(ATW)のクラス158/0。
(撮影:ニューポート駅、Newport Station)


NTのクラス158/0(2連)だがツール・ド・フランスがイングランドのヨークシャーで一部開催された時のPRラッピング車。
(撮影:リーズ駅, Leeds Station)

ASRの前運行会社、ファースト・スコットレイル塗装のクラス158/0。
(撮影:ノース・クイーンズフェリー駅〜インヴァーキーシング駅間、North Queensferry - Inverkeithing)

旧ノース・ウェスタン・トレインズ(North Western Trains)塗装のNT所属のクラス158。現在はNT標準塗装に更新。
(撮影:カーライル駅, Carlisle Station)


NTが運行する旧セントラル・トレインズ塗装のクラス158/0。セントラル・トレインズのフランチャイズ終了後一部編成はNTに転属したが当分塗装は更新されなかった。
(撮影:カーライル駅、Carlisle Station)


上記編成のクラス158/0の車内。現在は上記のNT標準モケットに更新。


旧ウェールズ・アンド・ボーダーズのアルファライン塗装のグレーが残ったATWのクラス158/0(2連)。 現在はATW標準塗装に更新。
(撮影:バーミンガム・ニュー・ストリート駅、Birmingham New Street Station)


旧ウェセックス・トレインズのアルファライン塗装のクラス158/0(2連)。現在はGWRに転属し標準塗装に更新。
(撮影:ブリストル・テンプル・ミーズ駅、Bristol Temple Meads Station)


上と同じく旧ファースト・スコットレイルのクラス158/0だが非改装の編成でライトの形状が異なる。
(撮影:エジンバラ・ウェイバリー駅, Edinburgh Waverley Station)

旧ファースト・トランスペナイン・エクスプレス塗装のクラス158/0。写真はGWRに転属後の編成。現在はGWR標準塗装に更新中。
(撮影:ウェイマス駅、Weymouth Station)

NTの旧ウェスト・ヨークシャー・メトロ塗装のクラス158/9(2連)。ウェスト・ヨークシャー地区交通局がスポンサーとなっていた列車にこの塗装が施されていたが現在はNT標準塗装に更新。
(撮影:セルビー駅, Selby Station)

左のクラス158/9の車内。現在は上記のNT標準モケットに更新。




●参考文献・ウェブページ

・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2
Wikipedia: British Rail Class 158
scot-rail.co.uk : Class 158
Honda Wanderer: Class 158

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