クラス319 

British Rail Class 319


新しく電化されたイングランド北部の路線に導入されたノーザン・レイル(NT)所属のクラス319/3。
(撮影:パトリクロフト駅, Patricroft Station)

●基本データ

デビュー年 1988年
最高速度 160km/h
製造会社 イギリス国鉄鉄道工学部門ヨーク工場(British Rail Engineering Limited, BREL York)
運行会社 テムズリンク (Thameslink, TL)
ノーザン・レイル (Northern Rail, NT
ロンドン・ミッドランド (London Midland, LM
運行区間 テムズリンク本線(TL)
●ベドフォード(Bedford)〜ロンドン・ブラックフライアーズ(London Blackfriars)〜イースト・クロイドン(East Croydon)〜ブライトン(Brighton)
●ベドフォード〜ロンドン・ブラックフライアーズ〜セブンオークス(Sevenoaks)

サットン環状線(TL)
●ルートン(Luton)〜ロンドン・ブラックフライアーズ〜ウィンブルドン(Wimbledon)〜サットン(Sutton)(時計回り、または反時計周り)

イングランド北部(NT)
●リバプール・ライム・ストリート(Liverpool Lime Street)〜ニュートン・ル・ウィローズ(Newton-le-Willows)〜マンチェスター・ピカデリー(Manchester Piccadilly)〜マンチェスター空港(Manchester Airport)
●リバプール・ライム・ストリート〜ニュートン・ル・ウィローズ〜マンチェスター・ヴィクトリア(Manchester Victoria)
●リバプール・ライム・ストリート〜ハイトン(Huyton)〜ウィガン・ノース・ウェスタン(Wigan North Western)〜プレストン(Preston)
●リバプール・ライム・ストリート〜アールズタウン(Earlstown)〜ウォーリングトン・バンク・キー(Warrington Bank Quay)

西海岸本線ロンドン近郊(LM)
●ロンドン・ユーストン(London Euston)〜トリング(Tring)〜ブレッチリー(Bletchley)〜ミルトン・キーンズ・セントラル(Milton Keynes Central)
●ワトフォード・ジャンクション(Watford Junction)〜セント・オルバンズ・アビー(St Albans Abbey)
編成詳細

製造時
319/0 60本
319/1 26本

現在
319/0 13本
319/2 7本 (319/0から改造)
319/3 26本 (319/1から改造)
319/4 40本 (319/0から改造)

編成は全て4連


●ディーゼル王国だったイングランド北部に電化の風を吹く

 ロンドンを縦貫する「テムズリンク(Thameslink)」線用に開発された交直両電源対応の近郊・通勤型電車。イギリス国鉄が1980年代に製造したマーク3客車ファミリーの一員で、名前の通りマーク3客車の車体をベースにして設計された。

新線開業、短命だった国鉄運用
 時は1980年代、ロンドン・セント・パンクラスから北に延びるミッドランド本線とロンドン南部のターミナル駅から南に延びるブライトン本線を鉄道で結ぶ目的の「テムズリンク」計画が持ち上がる(ロンドンを東西に横切るテームズ川の両岸を結ぶ事からこう名づけられた)。1970年に列車運用が廃止されたスノー・ヒル・トンネル(Snow Hill Tunnel)に再び線路を引き、新たなるロンドン縦貫線(通称テムズリンク)が復活した。この路線に投入されるべく新造された車両がクラス319だ。

 1987年に第一編成が落成し、当時イギリス国鉄のロンドンとイングランド南東の路線を管轄していたネットワーク・サウスイースト(Network SouthEast)が順次納入。1988年5月にテムズリンク線での営業運転が始まり、最初に導入された4連x60本は全車普通車でクラス319/0と称された。1990年にはクラス319/1と呼ばれた4連x26本が増備され、これらは片側の先頭車に一等席が部分的に設けられた。

民営化後、1990年代の動向
 1994年のイギリス国鉄民営化後はクラス319はテムズリンク線を運行する「テムズリンク」とロンドン南部とイングランド南部の路線を担当するコネックス・サウス・セントラル(Connex South Central)の二社に受け継がれた。まだ登場してから10年も経っていなかったが、両社の運行形態に合わせるため間もなくクラス319のリニューアルが行われた。1997年にコネックス所属の319/0のうち7本は一等席とラウンジスペースの新設、普通席の2+2列配置への変更、車内販売用設備の追加などが行われ、319/2に改称。同年1月からロンドン〜ブライトン間の速達列車であるキャピタル・コースト・エクスプレス(Capital Coast Express)での運用が開始した。

 1998年にはテムズリンク社もリニューアルを手掛け、クラス319/1は全編成が近郊・各駅停車運用を想定して一等席を撤去。同時に319/3に改称した。同社所属の319/0x40本は319/1から外された一等席を利用して先頭車に新設し、普通席も2+2列配置の座席が増やされ、319/4に改称。これらはベドフォード〜ブライトン間の快速列車として運用され、「テムズリンク・シティフライヤー(Thameslink Cityflier)」というブランドの元走っていた。

2000年代に突入、一社への集結
 2001年にはコネックス所属編成が後継のサザンに転属し、緑と白のツートンカラーに順序更新された。2006年4月にはテムズリンク所属のクラス319はファースト・キャピタル・コネクト(First Capital Connect)に転属したが、運用は変わらず。2008年にはクラス377の増備で保有車両に余裕のできたサザンからクラス319がファースト・キャピタル・コネクトへ転属。国鉄時代以来クラス319が一つの運行会社の元に集まった。

 2014年9月からは全編成がファースト・キャピタル・コネクトの後継であるテムズリンク社(TL)に引き継がれた。こちらは初代テムズリンクと名前は同じなものの、同じブランドを使用しているだけで会社自体の繋がりはない。

置き換えの開始、地方で送る第二の人生
 2015年にはテムズリンク線に新しく発注されたクラス387が導入され、余剰となったクラス319の一部編成はイングランド北部へ移った。非電化路線が大部分を占めたマンチェスターとリヴァブール近郊の路線だったが、2013年から「ノーザン・ハブ(Northern Hub)」プロジェクトの一環として両都市間の電化が行われ、それに伴いクラス319が導入された。現在はクラス319/3x20本がTLからノーザン・レイル(NT)に転属し、同時に新塗装やモケットの交換などのリニューアルが施された。現在は年々増えるリヴァプールとマンチェスター近郊の新規電化路線を担当している。

 同年にはスコットランドの新規電化路線用にロンドン・ミッドランド(LM)のクラス321が北に転属することになり、その穴埋め用としてTLのクラス319の余剰編成を導入することが決定。現時点で319/0x1本、319/2x1本と319/4x5本の計7本がLMに転属し、2016年よりセント・オルバンズ支線とラッシュ時の西海岸本線ロンドン近郊の列車として運用されている。

クラス319の仕様
 4連の1M3T構成(Tc-M-T-Tc)で駆動系統は吊り掛けモーターとチョッパ・サイリスタ制御を採用。派生型によって一等席の有無が異なる。クラス319/0の片方の先頭車の運転台後方のスペースはロングシートで荷物や郵便を置けるスペースとなっていた。架線式交流25kVと第三軌条式直流750Vの両電源に対応。スノー・ヒル・トンネルの車両限界に合わせるため、車体の断面が他の電車とは若干狭く作ってあり、トンネル内でも緊急時に車両から避難できるように前面に貫通扉も備わっている(通常運用時には編成の行き来はできない)。このように導入される路線によって大きくデザインが左右された。

 ちなみにこのクラス319、実はユーロスター(クラス373)を差し置いて、始めて英仏海峡トンネルを使用した旅客列車なのである。トンネルの建設終了後、1993年12月に関係者を乗せてカレー(Calais)まで往復した後、1994年にトンネル開通記念イベントの一環として一般客をフランスまで乗せた。

(解説・撮影:秩父路号、2016年3月更新)

●ギャラリー


NT所属編成は内装が一新され、3+2列と2+2列配置の全車普通車。


クラス319の中間動力車。パンタグラフも備わっていて動力系統機器は全部この車両に搭載。吊り掛け駆動方式のモーターが採用されている。


クラス321の穴埋め用にテムズリンク(TL)からロンドン・ミッドランド(LM)に転属したクラス319/2。ラッシュ時の輸送力増強用に使用される。
(撮影:サウス・ケントン駅、South Kenton Station)


第三軌条区間を走行する新TL塗装のクラス319/4。
(撮影:スワンリー駅付近、Swanley Station)


架線電化区間を走行するTL編成。
(撮影:クリックルウッド駅、Cricklewood Station)


TL所属のクラス319/4の普通席。2005年にリニューアルされ、旧ファースト・キャピタル・コネクトのコーポレートカラーであるピンクと青で統一されている。座席は2+2と2+3列配置が混合した固定クロスシート。


クラス319/0から319/4の改造時に新設された一等席。リクライニング無しの2+1列配置。

●旧塗装


旧ファースト・キャピタル・コネクトのクラス319/4。現在でも一部のテムズリンクの列車はケント州方面へ分岐し、セブンオークスまで走る。
(撮影:ショートランズ駅付近、Shortlands Station)


TL所属のクラス319/0のリニューアルされたインテリア(普通席)。クラス319/4と違いピンクのアクセントがなく、落ち着いたものとなっている。


クラス319/0から改造された319/2。撮影当時は旧ファースト・キャピタル・コネクトが運用していたが、TLにフランチャイズが渡った後もサザン塗装のままでしばらく走っていた。
(撮影:ラドレット駅付近、 Radlett Station)


スイス・デスティネーション・キャンペーンをPRする旧ファースト・キャピタル・コネクトのラッピング列車(クラス319/2)。
(撮影:ラドレット駅付近, Radlett Station)


ライカ・モバイルのラッピングをまとった旧ファースト・キャピタル・コネクト編成(クラス319/2)。
(撮影:ショートランズ駅付近, Shortlands Station)


旧ファースト・キャピタル・コネクト時代にクラス319/3の2編成がピンクと虹色の塗り直され、テムズリンク路線を大幅に改良する「テムズリンク・プロジェクト」の広告列車となっていた。
(撮影:イースト・クロイドン駅付近、East Croydon Station)


クラス319/3。こちらは旧テムズリンクの初代塗装で国鉄民営化直後にこの姿になった。
(撮影:ムアゲート駅、Moorgate Station)


旧テムズリンクと旧ファースト・キャピタル・コネクトの中間塗装。旧テムズリンク塗装から黄色の帯が消され白帯になった。
(撮影:ラドレット駅付近、Radlett Station)


旧テムズリンクの末期に登場した新塗装。ほどなくしてクラス319は旧ファースト・キャピタル・コネクトへ転属したためこの塗装に変更された編成はごく少数だった。
(撮影:ラドレット駅付近、Radlett Station)


旧テムズリンクから旧ファースト・キャピタル・コネクトへの引き渡し期間に登場した特別塗装。クラス319/0の319010編成だけがこの塗装に変更された。
(撮影:ロンドン・ヴィクトリア駅、London Victoria Station)

●参考文献・ウェブページ

・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2
NetworkSouthEast.net: Thameslink Trains
Class 319 in TSGN interim livery
Southern E-Group: Class 319
Kent Rail: Class 319
・Today's Railways, Issue 170 (February 2016)

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