クラス483 

British Rail Class 483


ロンドン地下鉄車両特有のかまぼこ型の断面を有するクラス483。地下鉄運用からの引退以来細々とワイト島の路線で第二の人生を送っている。
(撮影:サンダウン駅, Sandown Station)

●基本データ

デビュー年 ロンドン地下鉄:1938年
イギリス国鉄本線:1989年
最高速度 70km/h
製造会社 メトロ・キャメル(Metro Cammel)
運行会社 アイランド・ライン・トレインズ(Island Line Trains)
運行区間 ワイト島、アイランド・ライン(Island Line)
ライド・ピア・ヘッド(Ryde Pier Head)〜シャンクリン(Shanklin)
編成詳細

クラス483 2連x10本(1989年に1938年ストックから改造)

・483001、003、005、010編成は廃車
・483002編成はライド・セント・ジョンズ・ロード基地にて保管


●ロンドン地下鉄から転用した定期運用最古の車両

  クラス483は本来ロンドン地下鉄の1938年ストック(以下38TS)として製造。引退後にワイト島のアイランド・ラインの新型車両として転用される事が決定し、改修工事が行われた後1989年より運行を開始。本系列より更に古いクラス485と486を置き換え、現在では保存鉄道を除く定期列車に運用されるイギリス最古の現役車両だ。

ロンドン地下鉄時代、転用の背景
 本系列はロンドン地下鉄の38TSを改造したもので、ロンドン旅客運輸公社(London Public Transport Board, LPBT)が1938年に導入。現在の地下鉄車両にも受け継がれる車両限界が非常に小さい地下路線に合わせたデザインになっており、メトロ・キャメル社(Metro-Cammel)が製造。車両としては優秀な出来栄えで当初はノーザン線とベーカールー線で使用されたが、追加発注で更に編成数が増えた事もあり最盛期にはピカデリー線、イースト・ロンドン線やセントラル線も担当していた。1973年には老朽化を理由に引退車両が出始め1988年には完全に置き換えれたが、本系列の活躍はまだ終わってはいなかった。

 一方イングランド南海岸沖に位置するワイト島では1980年代初頭に唯一現存する定期運用路線の新車導入について考察していた。ライド・ピア・ヘッド〜シャンクリン間の14キロ弱の路線、通称アイランド・ラインでは1967年よりクラス485と486が使用されていた。これらは1923年製のロンドン地下鉄車両、スタンダード・ストック(Standard Stock)を改造したもの。これはアイランド・ラインの車両限界がイギリス本土の路線と比較してかなり小さいことが原因で、高価な専用規格の新車を発注するよりもロンドン地下鉄から車両を譲渡してもらうという政策に起因する。

 1987年に当時アイランド・ラインを運営していた英国鉄支部、ネットワーク・サウスイースト(Network SouthEast、NSE)はクラス485の廃車を決意。ロンドン地下鉄は1988年4月に28両、更に1989年5月には追加で3両、計31両をNSEに提供。当初改造された38TSは3連での運行が想定されいたが、3両編成のメンテナンスを可能にするには車両基地の変更が必要だと判明。工事費が高すぎたため2連での運行に変更された。NSEは20両引き取り、1989年から1992年の間イーストリー工場(Eastleigh Works)で2連x10本のクラス483へ改造。内装の更新や車体の補強のほか、寂れていた電気系統を一新。ロンドン地下鉄用の第四軌条集電方式からアイランド・ラインの第三軌条方式への改造も行われた。

 当初2連x8編成の改造工事が完了し、438001から438008まで編成番号が振られ青・赤・白のNSE標準三色塗装で出場した。サウス・ウェスト本線のベイジングストーク〜イーストリー間でしばしの試験走行を行った後ワイト島へ輸送された。

ワイト島で第二の人生が始まる
 クラス483の第一編成が1989年7月にワイト島に到着。試験走行を数ヶ月した後同年10月に定期列車でデビュー。1990年7月には当時改造が終了していた全8編成が運用に入る。1992年には残りの2編成も渡島した。1996年の英国鉄民営化によりワイト島の鉄道路線はステージコーチ社(Stagecoach)が運営することとなり、「アイランド・ライン」のブランドとクラス483を継承。1990年代後半には10編成は輸送力過多とみなされ、4編成が運用から外された。ワイト島はヨーロッパでも随一の恐竜化石発掘の名所が数多くあり、2000年からクラス483はそれにちなんだ恐竜モチーフのラッピングに変更された。2007年からはロンドン地下鉄時代にまとっていたマルーン色の塗装に変更され、現在に至る。

 2007年2月には同路線がステージコーチの別子会社であるサウス・ウェスト・トレインズ(South West Trains)と統合されることになり、運行会社名がアイランド・ライン・トレインズ(Island Line Trains)に変更。同年3月にはサウス・ウェスト・トレインズが残存する6編成のクラス483をリース会社のHSBCレール(HSBC Rail)から1ポンド(約150円)で買収(という名目の実質的な譲渡)がされた。

現在の運用とこれからの動向
 元々クラス483として改造された10編成のうち現役なのは5編成のみで4編成は廃車、残りの1編成は車両基地で保管されている。しかし一日のダイヤには2編成しか必要ないので残存編成数は足りている。路線は毎時二本の列車が運行され、ライド・ピア・ヘッド〜シャンクリン間を片道24分で結ぶ。路線はライド・ピア・ヘッド〜ライド・セント・ジョンズ・ロード(Ryde St John's Road)間のみ伏線で中間駅のサンダウン駅(Sandown)で列車交換を行う。

 製造されてから75年以上経過しているのもあり、現在クラス483の置き換え車両が検討されている。再び地下鉄車両を後継として導入するのであればベーカールー線の1972年ストックやピカデリー線の1973年ストックが候補に挙がるが、アイランド・ラインをLRTやガイドウェイバス方式に改造する案も挙がっている。

クラス483の仕様
 各編成は旧1938年ストックの電動制御車2両で構成されており、編成出力は500kW。前述のようにロンドン地下鉄時代は第四軌条集電方式だったが、アイランド・ラインでは車体下部の集電シューが取り外され電気系統も調節され第三軌条方式に改造された。ライド・ピア・ヘッド〜ライド・エスプラナード(Ryde Esplanade)間は海上桟橋を走行し、荒波が立つ時などモーターや電気系統へ塩水被害のリスクがあるため車体下部に水除用パネルが改造時に設置された。しかし実際にはモーター機器よりも第三軌条レールの回路ほうに先に不具合が発生したという。車体の金属部分にも塩害防止策が施されている。車内はセミクロスシートでロンドン地下鉄時代の座席をそのまま流用している。

(解説・撮影:秩父路号、2016年1月更新)

●ギャラリー


車内はクロスシートとロングシートの混合で座席配置はロンドン地下鉄時代のまま。モケットはAストックに使用されていたものと同じデザインを流用している。


車内のロングシート部分。窓枠や車端部など木造部分が残っている。


ロンドン地下鉄時代の旧塗装に戻されたが本線上を走行するので警戒色を塗らなければならなかった。
(撮影:サンダウン駅, Sandown Station)

2000年から施された恐竜ラッピング。
(撮影:サンダウン駅, Sandown Station)


恐竜ラッピングその2
(撮影:ライド・ピア・ヘッド駅、Ryde Pier Head Station)

車両側面の図
(撮影:サンダウン駅, Sandown Station)


繁忙期には2編成で4両編成の列車を運行することも。
(撮影:ライド・ピア・ヘッド駅、Ryde Pier Head Station)

運転室の様子。機材はデビュー時からほとんど変更されていない。



動態保存されているロンドン地下鉄が保有する38TS。年に数回特別列車として運行される。
(撮影:チジック・パーク駅、Chiswick Park Station)

●参考文献・ウェブページ

・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2
・「Tube Trains on the Isle of Wight」 (Capital Transport) ISBN 978-1-85414-276-4
Network South East Chronology
Square wheels: 1938 tube stock
Southern E-Group: Class 483

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