捕鯨問題とは

○はじめに

 今回のテーマは「」について。
 鯨を食べたことありますか? 昔はその安さで当たり前のように食べられたそうですが、今では調査捕鯨でとれた少数の量以外食べることができません。それでも鯨肉を提供している店や、近所のスーパーでも売っていることがありますが、なぜ、我々の食卓から消えてしまったのでしょうか。

○IWCの設立と対象

 さて、何で鯨が食べられなくなったのか。

 そもそも世界の様々な国や地域で捕鯨は行われ、19世紀から20世紀にかけて、アメリカやオーストラリアなどは、灯火燃料や機械油用の鯨油を求めてアメリカやオーストラリアなどは乱獲。こうした状況を踏まえ、1931年のジュネーブ捕鯨条約など、戦前から捕鯨の制限に向けた動きがありました。

 1946年に国際捕鯨取締条約といって、鯨を乱獲せず、合理的に使いましょうという条約が結ばれました。そしてそれに呼応して48年に国際捕鯨委員会(IWC)(International Whaling Commission)という組織が設立され、捕鯨の監視を行うようになりました。先に、IWCの現状について御紹介しましょう。

【設立目的】「鯨類資源の保存と捕鯨産業の秩序ある発展(国際捕鯨取締条約の目的)」実現のため、管理措置を決定する。
【加盟国】 88か国 (2015年1月時点) 
 うち捕鯨支持は39カ国(日中韓、カンボジア、ノルウェー、ロシア、アイスランド、デンマークなど)、反捕鯨国は49か国(アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、ブラジルなど)
【対象種】 大型鯨類13種
(シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ホッキョククジラ、セミクジラ、 イワシクジラ、マッコウクジラ、ザトウクジラ、コククジラ、 ニタリクジラ、ミンククジラ、クロミンククジラ、 キタトックリクジラ、ミナミトックリクジラ、コセミクジラ)
全世界で鯨類は約80種いますが、上記13種以外は国、地域ごとに管理しています。例えば、ハクジラ類のイルカ、ゴンドウクジラ、ツチクジラなどです。

○対立の激化

 さて、IWC発足からしばらくは、科学的なデータも少なく、南極海以外での捕獲枠も決められていませんでした。

 1960年代に入ると、国別捕獲枠や鯨種ごとの捕獲禁止措置を実施。既に安価な石油の普及によって、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアなどの主要捕鯨国は採算が合わなくなったことから捕鯨から撤退し、代わって自然保護や動物愛護の観点から、欧米各国で捕鯨禁止に向けた運動が広がっていきます。

 こうしたことから、1972年にスウェーデンの首都ストックホルムで開催された国連人間環境会議で、商業捕鯨の10年間のモラトリアム(一時停止)が採択。しかし、IWCでは科学的な正当性がないことを理由に否決しています。

 ところが、欧米各国の工作によって25カ国がIWCに新規加盟し、一時は反捕鯨国が75%以上の多数を占めるように。この結果、1982年、商業捕鯨モラトリアム(一時停止)がIWCで決議されました。日本・ノルウェー・ペルー・ソ連は「異議申し立て」を行いますが、後に日本とペルーは撤退。日本の場合、アメリカの排他的経済水域から日本漁船を締め出すと圧力がかかったからでした。

 現在、日本ではIWC対象の鯨類のうち、資源量が極めて豊富なミンククジラや、ニタリクジラ、イワシクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラについて調査捕鯨を行っています。これに対し、疑似商業捕鯨であるという批判がありますが、水産庁では
「1頭1頭のクジラから、それぞれ100項目以上の科学データが収集されています。その分析結果は、毎年国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会に報告されており、高い評価を得ています。」
 と反論しています。

 また、調査のために殺す必要はないという批判に対しては、水産庁では
 「資源管理のために必要な年齢についての正確なデータは、現在のところ、内耳に蓄積する耳あかの固まり(耳垢栓)や歯がなければ、得ることができません。また、クジラがいつ、どこで、何をどれくらい食べるかを知るためには、胃の内容物を見るしか方法がありません。これらはいずれもクジラを捕獲しなければ得られないデータです。」
 と反論しています。

 一方で、日本の調査捕鯨に対しては、過激な海洋環境保護団体であるシーシェパード(代表:ポール・ワトソン/本部:アメリカ合衆国ワシントン州フライデーハーバ)が2000年代に入って、日本の調査捕鯨船に対して体当たりを行ったり、酪酸瓶を投げつけるなど暴力的な実力行使を開始。

 さらに、2010年5月にオーストラリアが、南極海における日本の調査捕鯨の実態は商業捕鯨であり、停止を求めるとして国際司法裁判所に提訴。2014年3月31日付の判決で、南極海での調査捕鯨を「科学的でない」として、オーストラリア側の主張を認め、日本は事実上、全面的に敗訴しています。

 ただし日本は、2014年4月18日付の農林水産大臣談話で
「国際法及び科学的根拠に基づき、鯨類資源管理に不可欠な科学的情報を収集するための鯨類捕獲調査を実施し、商業捕鯨の再開を目指すという基本方針を堅持。」
 として、引き続き調査捕鯨を実施する意向を出しています。

○批判が集まるイルカ漁

 IWCの大型鯨類の捕鯨規制とは別に、近年ではイルカ漁についても海外から厳しい目が向けられています、

 特に、2009年に和歌山県太地町で古くから行われているイルカの追い込み漁を描いたアメリカ映画「ザ・コーヴ」(入り江)が公開。イルカ追い込み漁の残虐性をPRしたもので、2009年度第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。

 さらに、世界動物園水族館協会(WAZA)は、追い込み漁によるイルカの入手を会員施設にやめさせるよう日本動物園水族館協会(JAZA)に要求。JAZAは、2015(平成27)年5月にこれを受け入れました。イルカショーについても、今後はさらに厳しい目が向けられそうです。

 まあ、そもそも動物園や水族館に対する批判も、動物虐待だ!とあるわけですが・・・。(私も、野生の環境を再現した展示ならともかく、狭くて暗い檻の中に閉じ込められているのは、いいのかなあと思いますが)

【参考】水産庁、日本捕鯨協会ウェブサイト、日本経済新聞2014年3月31日、産経新聞2016年1月29日
(執筆担当:裏辺金好)

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