乾杯!の起源とは?

担当:裏辺金好


●はじめに

 今回は、「乾杯」の起源にスポットを当てます。もちろん、お酒を飲む時にやる恒例行事で、お酒飲む時には深く考えないと思いますが、当然起源があるのです。

1.日本の「乾杯」の起源

 実を言うと、日本で乾杯!とするようになったのは、比較的最近のことです。
 と、言っても起源は江戸の幕末のこと。1854(安政元)年、日米和親条約ならぬ、日英和親条約を協約した後で、イギリスはエルギン伯を日本に派遣し、通商約款の補足をさせることになりました。一方で幕府は井上信濃守清直らを派遣し、交渉にあたらせ、それが終了した後で晩餐をすることになりました。

 そこでエルギン伯、「我が国では国王の健康を祝して、杯を交わす習慣があるのだが、是非やろうではないか」と提案します。井上清直らは、当然そんな習慣は日本にないのでとまどいますが、ともあれ失礼の無いようにやることにしました。と、そこで会話が途切れ静まりかえった時、井上清直が突然立ち上がり、「乾杯!」と大きな声で叫び、静かに着席。エルギン伯をはじめ、皆大笑いで、それが故に記録されてしまったんでしょうね。

 ともあれ、これが杯を交わす時に「乾杯!」という起源になったと言われています。

2.余談:井上清直の名誉のために・・・

 ところで、これでは井上清直は単なるお馬鹿さんと言うことになってしまいますが、ハリスと日米修好通商条約を結ぶなど、幕府の主要な外国との条約交渉の責任者として激務をこなした官僚です。1810年生まれ。弟に有名な川路聖謨がいますが、この人物については歴史のコーナーではないので省略します。

 んで、この乾杯事件の翌年、安政2年に下田奉行に任命され、ハリスと日米修好通商条約の交渉を開始し、これを安政5年に締結されます。同年、外国奉行にも任命され兼務。同僚の岩瀬忠震と共に対外交渉の責任者になり、日露修好通商条約や日英修好通商条約を調印させます。そして、町奉行になった後、1863(文久2)年には、小笠原長行に従い兵と共に上洛し、更に戻るとまた外国奉行になったり、関東郡代兼帯や勘定奉行になったりと、大忙しで(実は政変で左遷なんかも繰り返しています)、1867(慶應3)年に死去しました。・・・・過労死じゃないんですか?

 ちなみに開国派の人物で、井伊直弼と直談判したり、勝海舟を太平洋横断させるなど人物眼もあります。ちなみに、先ほどでた岩瀬忠震というのは、やはりほとんどの外交交渉に係わった人物で、頭脳明晰かつ直球で物を言うタイプ。井上清直は、乾杯!と叫んでしまいましたが、本来は謹厳実直な人物で、この2人はまさに名コンビと言ったところでしょう。ただ、岩瀬はその性格ゆえに将軍継嗣問題時に徳川慶喜を強く推薦、結果、ご存じの通り後の徳川家茂が将軍になるので、井伊直弼ににらまれ安政の投獄で投獄され、亡くなってしまいました。

 そんなわけで、これは幕府滅亡から随分たった後の徳川慶喜の発言ですが、幕府には人材がいないわけではないんです。問題は良いポストに登用する手段がなかなかないんだって。

3.では、乾杯という儀式そのものの由来は?

 さて、話が随分ずれてしましましたが・・・。では、グラスをチーン!とさせる、日本語で言う乾杯という儀式の起源はどうなんでしょう? これは、古代に神や死者のために神酒を飲んだ宗教的儀式が起源らしく、転じてやがて人々の健康や成功を祝福する儀礼に変化したそうです。では、なんでチーンとグラスをあわせるのか。これは諸説ありますが・・・

・酒の中に宿っている悪魔を追い払うために、グラスを会わせて音を立てる。
・グラスを勢いよくぶつけ合うことで、互いの酒を混ぜ合わせ、毒が混入していないことを証明。
・家の主と客が乾杯し、同時に飲み干すことで、客にすすめる酒に毒が入っていないことを証明。
だ、そうです。

 さて、それが日本に入ってきたんですが、では類似の事は日本人はそれまでやらなかったのでしょうか。いやいや、酒をよく飲む日本です。当然あります。一番有名なのは、戦国時代。出陣する時に杯を手に持ち、みんなで高く掲げ、それを飲んで、杯をたたき割る! そしていざ出陣! 大河ドラマなんかではたまに出るシーンです。

4.外国語で言う乾杯

 では、日本語で言う乾杯を外国語に訳すとどうなるのでしょうか。
 意味は基本的に、どの国も健康を祝して!と言った感じです。

 イギリス・アメリカ・カナダでは、Cheers!(チアーズ)
 フランスでは、A votre sante!(アボートゥル サンテ)
 ドイツでは、Prosit!(プロージット) もしくは、Prost!(プロースト)
 スペイン・メキシコは、iSalud!(サルー)
 エジプトでは、Fi Sihhitak!( フィ シヒタック)

 と、ここで面白いのがイタリア。Cin Cin!(チン チン)だ、そうです。そういや、下ネタとして聞いたことあるなぁ。

 あと、これは私なぜだか知らないですけど、中国では乾杯!(カンペイ)というそうです。井上清直は、これを元に発言したんでしょうか・・?それとも、中国が井上の「乾杯!」と言う言葉を輸入したのでしょうか????

 また、タイではChai Yoo!(チャイ ユー) ・・・・万歳!と言う意味、だそうです。

 参考文献:つい誰かの話したくなる雑学の本  日本社 著 講談社+α文庫
 東京ガス・食の110番 http://www.home.tokyo-gas.co.jp/shoku110/
 歴史関係については色々・・・・・。
棒