これまで格変化としては、冠詞の変化だけを問題にしてきました。しかし、格変化するのは冠詞だけではありません。形容詞も格変化します。
形容詞の格変化の話をここまでしてこなかったのは、ちょっと面倒だからです。ではその面倒な形容詞の格変化、見ることにしましょう。
形容詞は、
(1)冠詞なしで名詞を修飾する場合──強変化
(2)定冠詞と一緒に名詞を修飾する場合──弱変化
(3)不定冠詞と一緒に名詞を修飾する場合──混合変化
(4)名詞を修飾するのではなく、補語となる場合──叙述用法
この4つの場合で違った変化をします。うわー、なんじゃそりゃ。
ですが、法則さえわかればそれほどややこしくありません。重要なポイントは2つ。
・形容詞以外の要素(名詞や冠詞)に語尾がないときは、形容詞が格変化をします。
この時、形容詞の格変化語尾は、定冠詞と同様です。
・形容詞以外の要素(名詞や冠詞)に語尾があるときは、形容詞は-enという語尾になります。
-enはどうやら形容詞にとってはサボリの語尾のようです。他の要素が格変化をしてくれるなら、形容詞はテキトーな語尾-enを取るのです。
名詞が形容詞以外に何も伴っていない場合には、形容詞が単独で格変化全てを担わなければいけません。
そのため、形容詞ははっきりした格変化を示します。これを強変化といいます。
形容詞gut「良い」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
男性名詞 Motor「モーター」 | guter Motor グーター モトール | guten Motors グーテン モトールス |
gutem Motor グーテム モトール | guten Motor グーテン モトール |
女性名詞 Kritik「評判」 | gute Kritik グーテ クリティーク | guter Kritik グーター クリティーク | guter Kritik グーター クリティーク | gute Kritik グーテ クリティーク |
中性名詞 Haus「家」 | gutes Haus グーテス ハウス | guten Hauses グーテン ハウゼス |
gutem Haus グーテム ハウス | gutes Haus グーテス ハウス |
複数形 Häuse「家々」 | gute Häuse グーテ ホイゼ | guter Häuse グーター ホイゼ | guten Häusen グーテン ホイゼン | gute Häuse グーテ ホイゼ |
定冠詞の変化とほぼ同じですが、男性と中性の2格でだけguten、という形を取っています(定冠詞derはどちらの場合もdesという形になるのですが、gutesとしては誤りです)。
ドイツ語で、語尾-enはやる気のない投げやり語尾です。そして、形容詞はとても怠け者です。男性と中性の2格では、名詞自身が-sという語尾を取っているので、形容詞は自分で格を示す気にならず、-enという投げやり語尾を取るのです。
逆に、定冠詞derも一緒の時は、形容詞は自分で必死に格を示す必要がありません。なので出来る限りさぼります。さぼるということは、例の投げやり語尾-enを取るということです。
形容詞gut「良い」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
男性名詞 Motor「モーター」 | der gute Motor デア グーテ モトール | des guten Motors デス グーテン モトールス |
dem guten Motor デム グーテン モトール | den guten Motor デン グーテン モトール |
女性名詞 Kritik「評判」 | die gute Kritik ディ グーテ クリティーク | der guten Kritik デア グーテン クリティーク | der guten Kritik デア グーテン クリティーク | die gute Kritik ディ グーテ クリティーク |
中性名詞 Haus「家」 | das gute Haus ダス グーテ ハウス | des guten Hauses デス グーテン ハウゼス |
dem guten Haus デム グーテン ハウス | das gute Haus ダス グーテ ハウス |
複数形 Häuse「家々」 | die guten Häuse ディ グーテン ホイゼ | der guten Häuse デア グーテン ホイゼ | den guten Häusen デン グーテン ホイゼン | die guten Häuse ディ グーテン ホイゼ |
ごらんの通り、男性1格、中性の1格と4格、女性の1格と4格が-eである他は全て-enです。やる気のなさが見え見えですね。だったら1格や4格でも-enになってくれればいいのですが、さすがに主語や直接目的語でさぼるのは気が引けたようです。迷惑な話ですね。
最後に不定冠詞が付くときです。
形容詞gut「良い」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
男性名詞 Motor「モーター」 | ein guter Motor アイン グーター モトール | eines guten Motors アイネス グーテン モトールス |
einem guten Motor アイネム グーテン モトール | einen guten Motor アイネン グーテン モトール |
女性名詞 Kritik「評判」 | eine gute Kritik アイネ グーテ クリティーク | einer guten Kritik アイナー グーテン クリティーク | einer guten Kritik アイナー グーテン クリティーク | eine gute Kritik アイネ グーテ クリティーク |
中性名詞 Haus「家」 | ein gutes Haus アイン グーテス ハウス | eines guten Hauses アイネス グーテン ハウゼス |
einem guten Haus アイネム グーテン ハウス | ein gutes Haus アイン グーテス ハウス |
複数形 Häuse「家々」 | 無冠詞なので強変化 |
不定冠詞はほとんど定冠詞と同じ語尾を持っていますが、男性1格と中性1格・4格で語尾のないeinという形になります。それで、不定冠詞が変化語尾を持たないこの3つのところで、代わりに形容詞が格変化することになります。この時形容詞はあたかも定冠詞のような語尾(男性1格なら-er、中性1格・4格なら-es)を持ちます。
ちなみに、上の表には複数形の項がありません。不定冠詞は複数形を持たないためです。「不定」の意味で複数形の名詞を使うときは冠詞なしの形になるので、強変化になります。ただし、いくつか不定冠詞と同じ変化をする冠詞もあり、そういう冠詞なら複数形もあり得ます。こういう、不定冠詞風の変化をする冠詞の複数形については、(13)で扱うことにします。
形容詞は常に名詞にかかるわけではなく、sein動詞の補語になることがあります。
Sie ist schön. ズィー イスト シェーン
彼女は美しい。
こういう形容詞の使い方を叙述用法といいます(これに対して名詞を修飾する使い方は「制限用法」です)。叙述用法の時、形容詞は語尾を持ちません。主語が何であろうと形は変わらないのです。
Er ist schön. エァ イスト シェーン
彼は美しい。
Sie sind schön. ズィー ズィント シェーン
あの人たちは美しい。
注:主語と同格なんだから同じ性と格にしてschöne, schöner, schöneにすべきだという論理の方が納得行きますし、そうする言語の方が多いように思います(有名どころでは、フランス語もロシア語もこういう言い回しでは形容詞を主語と同じ性と格の形にします)。ですがドイツ語ではそうしません。無語尾にしています。ドイツ語では語尾が弱く軽視されやすいことと関係があるのかも知れません。
ところで、Guten Morgen「おはよう」やGuten Tag「こんにちは」で形容詞は-enという形を取っています。冠詞がついていないのですから強変化で、MorgenやTagは男性名詞なので、これは4格になっているということになります。
なぜ4格になるのかというと、これは、
Ich wünsche Ihnen/dir einen guten Morgen.
イッヒ ヴュンシェ イーネン/ディア アイネン グーテン モルゲン
[wünschen 願う、望む]
あなた/君に良い朝を望みます。
Ich wünsche Ihnen/dir einen guten Tag.
イッヒ ヴュンシェ イーネン/ディア アイネン グーテン ターク
あなた/君に良い一日を望みます。
という文を省略したものだからです。つまり、Guten Morgenは「良い朝を」、Guten Tagは「良い一日を」というわけです。もちろんGuten Abendは「良い夕べを」、Gute Nachtは「良い夜を」です。
ヨーロッパでは挨拶の言葉はこのように4格(ドイツ語以外では対格と呼びます)を取るのが基本です。英語のGood Morningも実は「良い朝ですね」ではなく「良い朝を」なのです。
ドイツ語の形容詞は、すべてそのままの形で(つまり、語尾なしで)副詞として使うことが出来ます。
Sie swimmt schön. ズィー シュヴィムト シェーン
彼女の泳ぎは美しい(直訳:彼女は美しく泳ぐ)
Neu erscheint ein Buch des Autors. ノイ エアシャイント アイン ブッフ デス アゥトルス
[neu 新しく erscheinen 現れる、出版される Autor (男)作家]
新しくその作家の本が出版される。
では次回。
次回は序数、つまり順番に関する言葉のお話です。序数は形容詞なので、形容詞の変化をします。
また、日付や時間の言い方も取り上げる予定です。