ドイツ語入門編(11) 形容詞の格変化

 これまで格変化としては、冠詞の変化だけを問題にしてきました。しかし、格変化するのは冠詞だけではありません。形容詞も格変化します。
 形容詞の格変化の話をここまでしてこなかったのは、ちょっと面倒だからです。ではその面倒な形容詞の格変化、見ることにしましょう。

○形容詞の格変化

 形容詞は、
(1)冠詞なしで名詞を修飾する場合──強変化
(2)定冠詞と一緒に名詞を修飾する場合──弱変化
(3)不定冠詞と一緒に名詞を修飾する場合──混合変化
(4)名詞を修飾するのではなく、補語となる場合──叙述用法
 この4つの場合で違った変化をします。うわー、なんじゃそりゃ。


 ですが、法則さえわかればそれほどややこしくありません。重要なポイントは2つ。
・形容詞以外の要素(名詞や冠詞)に語尾がないときは、形容詞が格変化をします。
 この時、形容詞の格変化語尾は、定冠詞と同様です。
・形容詞以外の要素(名詞や冠詞)に語尾があるときは、形容詞は-enという語尾になります。
 -enはどうやら形容詞にとってはサボリの語尾のようです。他の要素が格変化をしてくれるなら、形容詞はテキトーな語尾-enを取るのです。

形容詞の格変化(1)──強変化

 名詞が形容詞以外に何も伴っていない場合には、形容詞が単独で格変化全てを担わなければいけません。
 そのため、形容詞ははっきりした格変化を示します。これを強変化といいます。


形容詞gut「良い」1格2格3格4格
男性名詞
Motor「モーター」
guter Motor
グーター モトー
guten Motors
グーテン モトールス
gutem Motor
グーテム モトー
guten Motor
グーテン モトー
女性名詞
Kritik「評判」
gute Kritik
グーテ クリティー
guter Kritik
グーター クリティー
guter Kritik
グーター クリティー
gute Kritik
グーテ クリティー
中性名詞
Haus「家」
gutes Haus
グーテス ウス
guten Hauses
グーテン ウゼス
gutem Haus
グーテム ウス
gutes Haus
グーテス ウス
複数形
Häuse「家々」
gute Häuse
グーテ イゼ
guter Häuse
グーター イゼ
guten Häusen
グーテン イゼン
gute Häuse
グーテ イゼ


 定冠詞の変化とほぼ同じですが、男性と中性の2格でだけguten、という形を取っています(定冠詞derはどちらの場合もdesという形になるのですが、gutesとしては誤りです)。
 ドイツ語で、語尾-enはやる気のない投げやり語尾です。そして、形容詞はとても怠け者です。男性と中性の2格では、名詞自身が-sという語尾を取っているので、形容詞は自分で格を示す気にならず、-enという投げやり語尾を取るのです。

形容詞の格変化(2)──弱変化

 逆に、定冠詞derも一緒の時は、形容詞は自分で必死に格を示す必要がありません。なので出来る限りさぼります。さぼるということは、例の投げやり語尾-enを取るということです。

形容詞gut「良い」1格2格3格4格
男性名詞
Motor「モーター」
der gute Motor
デア グーテ モトー
des guten Motors
デス グーテン モトールス
dem guten Motor
デム グーテン モトー
den guten Motor
デン グーテン モトー
女性名詞
Kritik「評判」
die gute Kritik
ディ グーテ クリティー
der guten Kritik
デア グーテン クリティー
der guten Kritik
デア グーテン クリティー
die gute Kritik
ディ グーテ クリティー
中性名詞
Haus「家」
das gute Haus
ダス グーテ ウス
des guten Hauses
デス グーテン ウゼス
dem guten Haus
デム グーテン ウス
das gute Haus
ダス グーテ ウス
複数形
Häuse「家々」
die guten Häuse
ディ グーテン イゼ
der guten Häuse
デア グーテン イゼ
den guten Häusen
デン グーテン イゼン
die guten Häuse
ディ グーテン イゼ

 ごらんの通り、男性1格、中性の1格と4格、女性の1格と4格が-eである他は全て-enです。やる気のなさが見え見えですね。だったら1格や4格でも-enになってくれればいいのですが、さすがに主語や直接目的語でさぼるのは気が引けたようです。迷惑な話ですね。

形容詞の格変化(3)──混合変化

 最後に不定冠詞が付くときです。

形容詞gut「良い」1格2格3格4格
男性名詞
Motor「モーター」
ein guter Motor
アイン グーター モトー
eines guten Motors
アイネス グーテン モトールス
einem guten Motor
アイネム グーテン モトー
einen guten Motor
アイネン グーテン モトー
女性名詞
Kritik「評判」
eine gute Kritik
アイネ グーテ クリティー
einer guten Kritik
アイナー グーテン クリティー
einer guten Kritik
アイナー グーテン クリティー
eine gute Kritik
アイネ グーテ クリティー
中性名詞
Haus「家」
ein gutes Haus
アイン グーテス ウス
eines guten Hauses
アイネス グーテン ウゼス
einem guten Haus
アイネム グーテン ウス
ein gutes Haus
アイン グーテス ウス
複数形
Häuse「家々」
無冠詞なので強変化

 不定冠詞はほとんど定冠詞と同じ語尾を持っていますが、男性1格と中性1格・4格で語尾のないeinという形になります。それで、不定冠詞が変化語尾を持たないこの3つのところで、代わりに形容詞が格変化することになります。この時形容詞はあたかも定冠詞のような語尾(男性1格なら-er、中性1格・4格なら-es)を持ちます。

 ちなみに、上の表には複数形の項がありません。不定冠詞は複数形を持たないためです。「不定」の意味で複数形の名詞を使うときは冠詞なしの形になるので、強変化になります。ただし、いくつか不定冠詞と同じ変化をする冠詞もあり、そういう冠詞なら複数形もあり得ます。こういう、不定冠詞風の変化をする冠詞の複数形については、(13)で扱うことにします。

形容詞の格変化(4)──叙述用法の時

 形容詞は常に名詞にかかるわけではなく、sein動詞の補語になることがあります。

 Sie ist schön. ズィー スト シェー
 彼女は美しい。

 こういう形容詞の使い方を叙述用法といいます(これに対して名詞を修飾する使い方は「制限用法」です)。叙述用法の時、形容詞は語尾を持ちません。主語が何であろうと形は変わらないのです。

 Er ist schön. ァ スト シェー
 彼は美しい。
 Sie sind schön. ズィー ィント シェー
 あの人たちは美しい。

注:主語と同格なんだから同じ性と格にしてschöne, schöner, schöneにすべきだという論理の方が納得行きますし、そうする言語の方が多いように思います(有名どころでは、フランス語もロシア語もこういう言い回しでは形容詞を主語と同じ性と格の形にします)。ですがドイツ語ではそうしません。無語尾にしています。ドイツ語では語尾が弱く軽視されやすいことと関係があるのかも知れません。

○挨拶は4格で

 ところで、Guten Morgen「おはよう」やGuten Tag「こんにちは」で形容詞は-enという形を取っています。冠詞がついていないのですから強変化で、MorgenやTagは男性名詞なので、これは4格になっているということになります。
 なぜ4格になるのかというと、これは、
 Ich wünsche Ihnen/dir einen guten Morgen.
 イッヒ ヴュンシェ イーネン/ディア アイネン グーテン ルゲン
[wünschen 願う、望む]
 あなた/君に良い朝を望みます。
 Ich wünsche Ihnen/dir einen guten Tag.
 イッヒ ヴュンシェ イーネン/ディア アイネン グーテン ター
 あなた/君に良い一日を望みます。
 という文を省略したものだからです。つまり、Guten Morgenは「良い朝を」、Guten Tagは「良い一日を」というわけです。もちろんGuten Abendは「良い夕べを」、Gute Nachtは「良い夜を」です。
 ヨーロッパでは挨拶の言葉はこのように4格(ドイツ語以外では対格と呼びます)を取るのが基本です。英語のGood Morningも実は「良い朝ですね」ではなく「良い朝を」なのです。

○形容詞の副詞用法

 ドイツ語の形容詞は、すべてそのままの形で(つまり、語尾なしで)副詞として使うことが出来ます

 Sie swimmt schön. ズィー シュヴィムト シェー
 彼女の泳ぎは美しい(直訳:彼女は美しく泳ぐ)
 Neu erscheint ein Buch des Autors. イ エアシャイント アイン ブッフ デス ゥトルス
[neu 新しく erscheinen 現れる、出版される Autor (男)作家]
 新しくその作家の本が出版される。

 では次回。
 次回は序数、つまり順番に関する言葉のお話です。序数は形容詞なので、形容詞の変化をします。
 また、日付や時間の言い方も取り上げる予定です。

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