分離動詞とは、動詞の一部が合体したり分離したりする動詞のことです。分離する部分は本来は副詞で、英語の句動詞(動詞+副詞で特別な意味を表すもの)と起源としては同じであると言えますが、独立した動詞として扱われる上、合体と分離のルールを覚えなければならないのがちょっと厄介です。
前置詞は、英語にもあるので理解しやすいかと思います。ただし、ドイツ語の前置詞は──ドイツ語以外でもロシア語やチェコ語やセルビア語やラテン語や……、とにかく「格」というもののあるヨーロッパの言語の前置詞はみんな──後ろに来る名詞が何格であるかを決める力を持っています。例えば前回ちょっとだけ顔を出した前置詞von「〜の」は、後に3格が来ないといけません。これを、「vonは3格支配の前置詞である」と言います。
前置詞は、何格を支配するかによって分類されます。ドイツ語では、
・2格を支配する前置詞:おおよそ63種類、ただし使われることはまれ
・3格を支配する前置詞:おおよそ26種類。よく使われるものと全然使わないのとがある
・4格を支配する前置詞:13種類、うち2つは外来語。重要なものが多い
・3格と4格を支配する前置詞:9種類。3格を支配したときと4格を支配したときで意味が変わる。重要。
の4タイプに分かれます。詳しくは前置詞表をごらん下さい。
ドイツ語の動詞には、分離動詞というのがあります。
分離動詞というのは、その名の通り動詞の一部が分離したりくっついたりする動詞のこと。
不定詞ではくっついた形をしていますが、現在形では分離します。
例:分離動詞um|schreiben「書き改める」
Ich schreibe es um. イッヒ シュライベ エス ウム
私はそれを書き直します。
umschreibenのumとschreibenの間に書かれている縦棒は、ここで分離しますという印です。
分離した前の部分(前綴といいます)は文末に移動します。
分離動詞とは、動詞と副詞の結合によって生まれた動詞で、英語では句動詞にあたります。しかしドイツ語ではum|schreibenのように動詞の部分(schreiben「書く」)と副詞の部分(つまり前綴、um「周りを回って、引き返して」)が変化形によって合体したり分離したりするので、独立した1つの動詞と見なします。
分離動詞を疑問文にするときには、前綴以外の部分だけを前に出し、前綴は文末のままにします。否定文にするときは、前綴の前にnichtを置きます。
Schreiben Sie es um?
──Nein, ich schreibe es nicht um.
あなたはそれを書き直しますか?
──いいえ、(私はそれを)書き直しません。
不定詞の場合は分離しませんから、未来形では合体した形で文末に来ます。
Er wird es umschreiben. エア ヴィルト エス ウムシュライベン
彼はそれを書き直すだろう。
前綴+動詞という形になっているのに、どんな場合にも前綴が分離しない粘着質な動詞もあります。分離動詞に対して、前綴が分離しない動詞を非分離動詞といいます。
例:非分離動詞betreffen「(1格)は(4格)に関係がある」 ← be「〜へと」+treffen「当てる」
Es betrifft seine Krankenheit. エス ベトリフト ザイネ クランケンハイト
[Krankenheit (女)病気]
それは彼の病気と関係がある
betreffenがbetrifftになっていますが、これはtreffenが2人称・3人称単数で母音が変化する動詞だからです(詳しくは入門編(8)をご覧下さい)。このように、分離動詞も非分離動詞も、前綴を除いた部分の変化は元となった動詞と同じになります。
非分離動詞は、否定文や疑問文では普通の動詞と同様の振る舞いをします。
Es betrifft Sie nicht エス ベトリフト ズィー ニヒト
あなたには関係のないことだ。
Betreffen Sie die Schule? ベトレッフェン ズィー ディ シューレ
[Schule (女)学校]
あの学校の関係者ですか?
umschreibenでum-が分離したからといって、um-によって作られた動詞が全て分離動詞というわけではありません。前綴には、常に分離動詞を作る前綴と、分離動詞を作ることも非分離動詞を作ることもある前綴と、常に非分離動詞を作る前綴があります。
前綴um-は分離動詞を作ることも非分離動詞を作ることもある前綴です。このような前綴のついた動詞が分離動詞か非分離動詞かは、その前綴にアクセントがあるかどうかによります。前綴の側にアクセントがあるときには非分離動詞です。
これに対して、be-は、常に非分離動詞を作る前綴りです。be-から始まっていれば、確実に非分離動詞です。be-にアクセントが来ることはありませんが、もし来る動詞があったとしても分離しないのです。
um-が分離する動詞:um|schreiben、um|sehen ウムゼーエン 「見回す」、um|setzen ウムゼッツェン 「移動させる」など
um-が分離しない動詞:umringen ウムリンゲン 「取り囲む」、umfahren ウムファーレン 「迂回する」、umbinden ウムビンデン 「巻き付く」など
be-が分離する動詞:なし
be-が分離しない動詞:begreifen ベグラィフェン 「理解する」、begrenzen ベグレンツェン 「制限する」など
分離動詞を作ることも非分離動詞を作ることもできる前綴の場合、同じ動詞にくっついたときでも分離動詞を作ったときと非分離動詞を作ったときで意味が違うことがあります。
例:um|gehen ウムゲーエン 「(mit+3格)を扱う」/ umgehen ウムゲーエン 「(4格)を迂回する」
このumgehenの場合、分離動詞の時は「扱う」、非分離動詞の時は「迂回する」=「避けて通る」と、全く逆の意味になっています。
Er geht mit dem Geld um. エァ ゲート ミット デム ゲルト ウム
彼はお金を扱っている。
Er umgeht das Geld. エァ ウムゲート ダス ゲルト
彼はお金を避けて通る。
ドイツ語にはたくさんの前置詞があります。前置詞は何格の名詞を取るのかによって分けることが出来ます。
ab「〜から」、aus「〜の中から外へ」、außer「〜以外」、bei「〜のそばで」、mit「〜と一緒に」、nach「〜のあとで」「〜へむかって」、seit「〜以来」、von「〜から」「〜の」「〜によって」、zu「〜へと」 など
この中でもとりわけ重要なのはvonです。これは動きの出発点や受動態の動作主語を表す他、2格の代わりとして用いられます。英語のofとよく似ています。
bis「〜まで」、durch「〜を通って」「〜によって」、für「〜のために」、ohne「〜なしに」、um「〜の周りを」「〜頃に」 など
3格を支配するときと4格を支配するときで意味が変わる前置詞です。
an「(3格)に接して」「(4格)に接するように」、auf「(3格)の上で」「(4格)の上へ」、hinter「(3格)の後ろで」「(4格)の後ろへ」、in「(3格)の中で」「(4格)の中へ」、über「(3格)の上方で」「(4格)の上方へ」、unter「(3格)の下方で」「(4格)の下方へ」、vor「(3格)の前で」「(4格)の前へ」、zwischen「(3格und3格)の間で」「(4格und4格)の間へ」
このように、3格の場合は地点を、4格の場合はその地点を目指した動きを表します。
2格を支配する前置詞はたくさんあります。あまり重要な前置詞はありませんが。
statt「〜の代わりに」、trotz「〜にもかかわらず」、während「〜の間」、wegen「〜のために」 など
2格支配の前置詞の中には、前置詞のくせに後置されるものもあります。例えばwegenは、雅語では後置されることがあります。
前置詞の中には、その直後に来る定冠詞と合体するものがあります。
dem | der | das | |
an | am | an der | ans |
auf | auf dem | auf der | aufs |
bei | beim | bei der | - |
durch | - | - | durchs |
für | - | - | fürs |
hinter | hinter dem | hinter der | hinters |
in | im | in der | ins |
über | über dem | über der | übers |
um | - | - | ums |
von | vom | von der | - |
vor | vor dem | vor der | vors |
zu | zum | zur | - |
合体は義務ではありませんが、決まった言い回しになっているときには特によく合体します。逆に、定冠詞の指示の意味「ほら、あの」が強いときには合体しません。
Frankfurt am Main(=an dem Main) フランクフルト アム マイン マイン川沿岸のフランクフルト
an dem Tag アン デム ターク 例のあの日に
さて次回。次回は疑問詞と指示代名詞、それに動詞の命令形を扱います。次回で現在の動詞の話は終わり。そこからは過去と完了という禁断のゾーンへ。