ドイツ語入門編(15) 疑問詞、指示代名詞、命令文

 今回は疑問詞、指示代名詞、命令文のお話です。

 疑問詞と指示代名詞には格変化があります。また格変化ですね。
 疑問詞と指示代名詞を一緒にやるのは、この2つが同様の格変化を持っているからです。冠詞の変化と違うのかって? いや、ほとんど同じです。

 一方、命令文は大してややこしくありません。最も重要な、Sie「あなた」への命令形は現在形と同じですし。

○疑問代名詞

 疑問代名詞も名詞ですから、格変化があります。そろそろ格変化が嫌になってきたでしょうか? 
 でも基本は定冠詞derの変化です。丸覚えするのではなくderの変化を応用して使いましょう。


1格2格3格4格
人に対してwer ヴェーwessen ヴェッセンwem ヴェーwen ヴェー
物に対してwas ヴァwessen ヴェッセン(wem ヴェーム)was ヴァ


 人に対しては男性形、物に対しては中性形の変化を用います。女性形と複数形はありません。2格がwessen、という形であることに注意しましょう。これが、定冠詞derの変化との違いです。
 なお、物に対する3格の疑問としてのwemは滅多に見られません。

○疑問詞を使った疑問文の作り方

 Ja./Nein.で答えられる疑問文の場合は、動詞を一番前に持ってきました。
 Gibt er Ihnen ein Geschenk? プト ア イーネン アイン ゲシェンク?
 [gibt geben「(3格)に(4格)を与える」の三人称単数形 Geschenk (中)贈り物]
 彼はあなたにプレゼントをくれますか?


 疑問詞を使う疑問文の場合、動詞の前に更に疑問詞を持ってきます。結果として定形第二位になります。
 Was gibt er Ihnen? ヴァス プト ア イーネン?
 彼はあなたに何をくれますか?

○指示代名詞der

 derは「それ」という意味の指示代名詞です。英語のthatにあたります。
 形は定冠詞と同じに見えますが、定冠詞derにアクセントがないのに対し、指示代名詞derにはアクセントがあります。
 指示代名詞derは、「その○○」といった風に名詞にかかる場合には、定冠詞derと全く同じ変化をします。
 しかし「それ」と単独で名詞として用いる場合には、ちょっと違った変化をします。


1格2格3格4格
男性der デーdessen デッセンdem デーden デー
女性die ディーderen デーレンder デーdie ディー
中性das dessen デッセンdem デーdas 
複数die ディーderen デーレンdenen デーネンdie ディー

 
 werの時と同様、2格が(それに複数の3格も)妙に長ったらしい語尾になっています。この点だけが定冠詞derの変化と違います。

注:derは指示代名詞の時にはアクセントが置かれ、しかもdessenとdas以外は母音を長く発音します。定冠詞のderと見た目は同じですが、発音は違うのです。

 Der Mann isst in dem Restaurant. デーア ン スト イン デム レスト
[Restaurant (中)レストラン ドイツでもフランス語読みでレストンと発音する]
 その男ならレストランで食事してるよ。

 Der Mann isst in dem Restaurant. ァ ン スト イン デム レスト
 男がレストランで食事している。

 Was ist das? ヴァス イスト ス それはなに?

 発音だけの違いなので、表記すると区別できません。それで、指示代名詞であることを明示するため、わざと隔字体、つまり間にスペースを入れた字体で表記することがあります。
 D e r Mann isst in dem Restaurant. デーア ン スト イン デム レスト

○指示代名詞dieser他

 dieserは「これ」、つまり英語のthisにあたる語です。
 この語も名詞にかかる場合と単独で名詞的に使われる場合とがありますが、derと違い、どちらの場合も同様の変化をします。またその変化は定冠詞のderと全く同じです。一応変化形を挙げておきましょう。

1格2格3格4格
男性dieser ディーザーdieses ディーゼスdiesem ディーゼムdiesen ディーゼン
女性diese ディーdieser ディーザーdieser ディーザーdiese ディー
中性dieses ディーゼスdieses ザィーゼスdiesem ディーゼムdieses ディーゼス
複数diese ディーdieser ディーザーdiesen ディーゼンdiese ディー

 ちなみに中性1・4格のdiesesは単に語尾のないdiesでもかまいません。


 dieser以外にも定冠詞と全く同じ変化をする指示代名詞があります。jener「あれ」、solch「そのような」、welch「どの」「どのような」、jeder「各々の」、all「全ての」、manch「多数の」がそうです。
 ちなみに、dieserとjener、jederは男性1格の形を掲げますが、それ以外は語尾のない形を挙げる規則になっています(つまり、allの男性1格はallerですが、dieserの男性1格はdiesererではなくdieser)。歴史的な理由からです。

○疑問副詞と指示副詞

 疑問代名詞と違って、疑問副詞は格変化がありませんから、そんなに大変ではありません。よく出てくるものを挙げておきましょう。ついでに対応する指示副詞も挙げておきます。

 Wenn いつ?──denn そのときに
 Wo どこで?──da そこで
 Woher どこから?──daher そこから
 Wohin どこへ?──darin そこへ
 Warum なぜ?──darum それゆえに
 Was für (4格) どんな種類の?

 など。基本的にはw-が疑問、d-が指示という対応があります(英語のwh-とth-の対応と同じ)。


 疑問副詞の場合も、文は疑問代名詞と同じ語順、つまり最初に疑問副詞、次に動詞、という語順になります。

 Wenn wird Sie Josef sehen? ヴェン ヴィルト ズィー ヨーゼフ ゼーエン
[英語のseeは偶然会うという意味ですが、ドイツ語のsehenは意図的に会うという意味も含みます]
 いつヨーゼフに会われるのですか?

 Woher kommen Sie? ヴォーァ メン ズィー
 どちらからいらしたのですか(どこ出身ですか)?
 Ich komme aus Japan. イッヒ メ アゥス ヤーパン
 日本から来ました。

 Woher kommenは、こう言うこともできます:
 Wo kommen Sie her? ヴォー メン ズィー ヘー
 この場合、疑問副詞woと分離動詞her|kommen「こちらに来る」を使っていると見なされますが、意味は同じです。

 これはwohinの場合も同様です。
 Wohin gehen Sie? ヴォーン ゲーエン ズィー
=Wo gehen Sie hin? ヴォー ゲーエン ズィー 
 どこに行くのですか?

 Warum hilft mir er nicht? ヴァム ルフト ミーァ ァ ヒト
[helfen (3格)を助ける]
 どうして彼は私を助けてくれないんだろう?
 Weil er mit seinem Kind sehr beschäftigt ist.
 ヴァィル ァ ミット ィネム ント ゼーァ ベシェフティクト イスト
[weil なぜなら sehr とても beschäftigt (mit+3格)に取り組む、〜で忙しい]
 彼は自分の子供のことで忙しいのさ。

○前置詞と疑問代名詞の結合

 疑問代名詞が前置詞の支配を受けるとき、前置詞と疑問代名詞が合体した形になります。
 疑問代名詞と合体できる前置詞は限られていますが、重要な物が多いので注意。

 mit wem → womit 何とともに?
 nach wem → wonach 何の後で?

 このように、疑問代名詞はwo-という形になって前置詞の前にくっつきます。

 前置詞の頭が母音の時は、母音が続くのを避けるため、wor-という形になります。

 in wem → worin 何の中で? (in was「何の中へ?」はwohinになる)

 特に話し言葉では合体した形にしないことが多く、その時は3格でもwasで済ませて、in wasとすることが多いです。

○前置詞と指示代名詞の結合

 指示代名詞も、前置詞の支配を受けるときに前置詞と合体した形になります。

 mit dem → damit それとともに
 nach dem → danach その後で

 このように、疑問代名詞はda-という形になって前置詞の前にくっつきます。
 前置詞の頭が母音の時は、母音が続くのを避けるため、dar-という形になります。

 in dem → darin その中で

 ちなみに、in den「その中へ」はdareinです。

 指示代名詞が単独で見られることは実はあまり無いのですが、前置詞と結合した形は非常に頻繁に出てきます。特に、副詞、あるいは接続詞のように用いて、文と文を繋ぐ役割を果たすことが多いです。

 Friedlich II. stirbt 1250. Damit Hohenstaufen sterben wesentlich aus. Danach das Interregnum beginnt.
 フリードリヒ デァ ツヴァィテ シュティルプト ツヴェルフンダートフュンフツィヒ。 ダーット ホーエンシュゥフェン シュテルベン ヴェーゼントリヒ ゥス。 ダーッハ ダス インテルグヌム ベント
[Friedlich II. フリードリヒ2世 神聖ローマ皇帝兼シチリア王
stirbt sterben「死ぬ」の三人称単数形
Hohenstaufen ホーエンシュタウフェン朝 中世ドイツの王朝
aus|sterben 断絶する
wesentlich 実質的に
Interregnum 国王不在期、定冠詞をつけて「大空位時代」]
 1250年にフリードリヒ2世が亡くなる。それと共にホーエンシュタウフェン朝は実質的に断絶する。その後、大空位時代が始まる。

○命令文

 ドイツ語の命令文は、3つあります。du「きみ」に対する命令、ihr「きみたち」に対する命令、Sie「あなた、あなたがた」に対する命令の3つです。最も頻度が高いのはSieに対する命令なので、これをまず覚えましょう。

duに対する命令

 du「きみ」への命令文は、動詞の不定詞から語尾-enを取って、語尾-eをつけて作ります。

 sagen ザーゲン 言う → Sage! ザーゲ 言え!

 語尾-eは省略することも出来ます。特に口語では省略されることの方が多いようです。

 Sag! ザーク 言え!

 2人称単数と3人称単数で母音がe→i、e→ieと変化した動詞は、duに対する命令でも母音を変化させます。

 sprechen シュプレッヒェン 話す(Er spricht) → Sprich(e)! シュプリッヒ/シュプリッヒェ 話せ!

 母音が変化する動詞のうちでも、a→äと変化するタイプの場合は、duに対する命令では母音を変化させません。

 fahren ファーレン (車で)行く(Er Fährt) → Fahr(e)! ファール/ファーレ 行け!

 分離動詞の命令文は、平叙文の時と同様、前綴を語尾に置いて作ります。
 Steh(e) auf! シュテー(エ) アウフ!
[auf|stehen 立ち上がる、起きあがる]
 起きろ!

ihrに対する命令

 ihr「きみたち」に対しては、動詞の不定詞から語尾-enを取って、語尾-tをつけて命令形を作ります。これは平叙文の動詞変化と完全に同じです。

 Sagt! 言え! Fahrt! 行け!

 分離動詞も、平叙文と同様の形になります。
 Steht auf! 起きろ!

Sieに対する命令

 Sieは本来三人称複数形ですから、命令形などありません。そこで、接続法I式という形を借りてきて命令形にします。接続法I式については後で説明します。まあここでは平叙文と同じ形、つまり不定詞の語尾-enを取ってつける語尾が-enなのであまり気にする必要もありません。

 但し、Sieに対する命令の場合には、これを明示するため、文頭に動詞が来、直後にSieが来るという順番になります。

 Sprechen Sie! 話してください!


 分離動詞の場合も同様です。前綴を除いた部分の命令形が文頭に来、その直後にSieが来て、その後に文成分が続いた後で、最後に前綴が来ます。

 Geben Sie mein Buch wieder!
[wieder|geben 返却する、再現する]
 私の本を返してください!


 さて次回。次回はついに過去形のお話です。
 これから過去形、過去分詞形と、英語でも馴染みの概念をお話ししていきますが、この話を後回しにしていたのにはわけがあります。
 ……不規則変化がとても多いのです。ドイツ語の過去形、過去分詞形は。
 ついでに、再帰代名詞のお話もします。これも動詞と絡んでくる話なので。

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