さて、今回から2回にわたって過去分詞を用いた表現を扱います。それも単に形容詞として名詞を修飾する表現ではなく、他の動詞の補語や目的語となって特殊な意味を表す表現についてです。過去分詞の意味は、第16回でも言ったように、完了かつ受動です。「過去」かつ受動ではないことに注意(これは英語の過去分詞にも当てはまります)。
意味から考えれば「完了分詞」と呼ぶべきもので、そう呼ぶ言語もあります(ラテン語など)が、ドイツ語では過去分詞という用語が普通ですので、過去分詞としています。
過去分詞の「完了」の意味が強く出ているのが次回に扱う現在完了の用法、そして「受動」の意味が強く出るのが今回扱う状態受動・動作受動です。さらに、ついでといってはなんですが、ドイツ語の助動詞についても扱います。助動詞は、時制や態を表すために用いられる助動詞(英語の未来を表すwillや受動態のbeのような)と、話法、つまりその文の内容について話者の気持ちを表す助動詞(英語の意思を表すwillや可能性を表すcanのような)にわかれます。
このシリーズでは、時制や態を表す助動詞は少しづつ取り上げているので、ここでは話法の助動詞を一括して紹介することにします。
主語が〜された、ということを表すのが受動態です。
ドイツ語には状態受動と動作受動というふたつの受動態があります。
状態受動は、「〜された状態にある」ということを、動作受動は、「〜される」ということを表します。例えば、「ドアを開ける」の受け身は、「ドアが開けっ放しだ」(状態受動)、「ドアが開けられる」(動作受動)となります。
状態受動は、seinと過去分詞によって作ります。
Die Tür ist geöffnet. ディ トューア イスト ゲエフネト [Tür (女)ドア öffnen 開ける]
ドアは開けっ放しになっている。
この過去分詞は未来形の不定詞のときと同様、文末に来ます。
普通「受動態」と聞いて思い浮かべると思われるのが、この動作受動です。動作受動はwerdenと過去分詞で作ります。この過去分詞も文末に来ます。
Die Tür wird geöffnet. ディ トューア ヴィルト ゲエフネト
ドアが開けられる。
受動態の動作主は、von+3格やdurch+4格で示します。
Maria Theresia wurde von Franz geliebt. マリーア テレーズィア ヴルデ フォン フランツ ゲリープト
[wurde werdenの過去形 lieben 愛す]
マリア・テレジアはフランツに愛された。
このように、受動態を過去形にするときは、助動詞のseinあるいはwerdenを過去形にします。
受動態を作ることができるのは、4格を目的語に持つ、いわゆる他動詞だけなのが普通ですが、ドイツ語では自動詞でも受動態を作ることができることがあります。例えばhelfen「助ける」は3格の目的語を取るので自動詞ですが、「助けられる」と受動態にすることが出来ます。
この時、3格目的語はあくまで3格目的語なので、主語になることはありません。主語のない文になるので、とりあえずesが主語になります。
Es wurde ihr von Ungarn geholfen. エス ヴルデ イーア フォン ウンガルン ゲホルフェン
[Ungar (男弱変化)ハンガリー人 helfen half geholfen (現) du hilfst, er hilft 助ける]
彼女はハンガリー人(たち)によって助けられた。
このesは、文頭以外に来たときには省略されます。
Ihr wurde von Ungarn geholfen.
sein+過去分詞の状態受動やwerden+過去分詞の動作受動の他にも、受動を表す表現があります。
受動の可能性や必然性を表します。zu不定詞とはzuという前置詞に不定詞が付いた形で、英語のto不定詞にあたるものです。分離動詞では前綴と動詞本体の間にzuを挟み、スペースを入れずに書きます。
Diese Briefe sind wegzuschicken. ディーゼ ブリーフェ ズィント ヴェクツーシッケン
[Brief (男)手紙 weg|schicken 発送する]
これらの手紙は発送されねばならない。
lassenは「(4格)に(不定詞)させる」という動詞ですが、4格目的語に再帰代名詞を取ると、「〜してもらう」「〜されることが出来る」という受け身の意味になります。lassenは2人称単数と3人称単数でaがウムラウト化します。
Diese Frage lässt sich leicht beantworten. ディーゼ フラーゲ レスト ズィヒ ライヒト ベアントヴォルテン
[Frage (女)問題 leicht 簡単に beantworten (非分離動詞)答える]
この問題には簡単に答えることができる(答えられ得る)
動詞の不定詞をとって、その動詞の内容に対する話者の態度や可能性などを伝えるのが助動詞です。
助動詞は定形として第2位に来、不定詞は文末に来ます。
ドイツ語の助動詞は全部で7つ(時制を表すのに用いられる物は除く)あります。
können できる
mögen してよい、かもしれない
müssen しなければならない、に違いない
dürfen することが許される
wollen したい
sollen すべきだ
möchte してほしい
助動詞は現在で特殊な人称変化をします。現在形であるにもかかわらず一人称と三人称で語尾がないという過去形のような人称変化をし、しかもsollenとmöchte以外は単数と複数で母音が違います。
数 | 人称 | können | mögen | müssen | dürfen | wollen | sollen | möchte |
単数 | 1 | kann | mag | muss | darf | will | soll | möchte |
2 | kannst | magst | musst | darfst | willst | sollst | möchtest | |
3 | kann | mag | muss | darf | will | soll | möchte | |
複数 | 1 | können | mögen | müssen | dürfen | wollen | sollen | möchten |
2 | könnt | mögt | müsst | dürft | wollt | sollt | möchtet | |
3 | können | mögen | müssen | dürfen | wollen | sollen | möchten |
möchteは不定詞がありません。それでこのように1人称単数形を挙げています。möchteは実はmögenの派生語(接続法II式という形)だからです。このためmöchteは過去形も過去分詞形もありません。それ以外の助動詞の過去基本形と過去分詞形は以下の通り。
können konnte gekonnt/können できる
mögen mochte gemocht/mögen してよい、かもしれない
müssen musste gemusst/müssen しなければならない、に違いない
dürfen durfte gedurft/dürfen することが許される
wollen wollte gewollt/wollen したい
sollen sollte gesollt/sollen すべきだ
助動詞の過去分詞形はge-という形と、不定詞と同じ形の2つがあります。
ge-という形は助動詞を普通の動詞として用いた場合の過去分詞形、不定詞と同じ形の方は助動詞として用いた場合の過去分詞形です。とはいえ、こういった助動詞はほとんど普通の動詞として用いることはないので、スラッシュの後ろの方が過去分詞だと考えても大丈夫でしょう。
könnenは、そのやり方を知っていることを表します。
Sie können swimmen. ズィー ケネン シュヴィメン
あなたは泳ぐことが出来る(<泳ぎ方を知っている)。
これに対して、mögenは、その行動を気にしないことを表します。
Sie mögen swimmen. ズィー メーゲン シュヴィメン
あなたは泳ぐことが出来る(<泳いでもかまわない)。
「勝手に泳げばいい」という冷淡な意味になることもあります。
一方、dürfenは積極的に許可することを表します。
Sie dürfen swimmen. ズィー デュルフェン シュヴィメン
あなたは泳ぐことが出来る(<泳ぐことを許可する)。
könnenが「能力として出来る」、mögenが「やっても気にしない」という違いは、英語のcanとmayの違いと同様です。
May I help you? 何かお困りですか?(<私があなたを手助けしてもあなたは気にしませんか?)
Can I help you? 何かお困りですか?(<私にあなたを手助けする能力はあるのでしょうか?)
──Yes, you may. 手伝いたまえ。(<あなたが手伝っても私は気にしないよ。)
──Yes, you can. お願いします。(<あなたにはそのお力があります。)
このようなとき、mayを平叙文で使うと話者が許可してやることになるので、失礼に当たります。
これに対してcanは話者の内発的な能力を表すので、失礼には当たりません。ドイツ語でもSie mögenはあまりいい意味ではないので、避けた方が無難です。
さて次回。次回は現在完了を扱います。これで過去分詞を使った表現は終わりになります。