ドイツ語入門編(20) 比較級、最上級

○はじめに

 今回は比較級と最上級についてです。
 比較級とは、あるものとあるものを比べて、前者の方がより○○である、ということを表現するための形容詞、副詞の形です。
 最上級とは、3つ以上のものを比べて、そのうちで最も○○なのはどれか、ということを表現するための形容詞、副詞の形です。

 形容詞、副詞の形、とは言ったものの、実際には比較級も最上級も元の形容詞、副詞から派生した新しい形容詞あるいは副詞、つまり派生語です。
 従って、形容詞の比較級も最上級もそれ自身独立した形容詞ですから、元々の形容詞と同様、格変化を持っています。

○比較級

 ドイツ語の比較級は、形容詞や副詞に-erをつけて作ります。

 Joseph ist reicher als Johan. ヨーゼフ スト イヒャー ルス ヨン [reich 金持ち]
 ヨーゼフはヨハンよりも金持ちだ。

 Stephan schreibt Deutsch richtiger als wir. シュファン シュイプト イチュ ヒティガー ルス ヴィーア [richtig 正しく]
 シュテファンは僕らよりも正しくドイツ語を書く。

発音規則16-2.[ph]

 [f]と同じ発音をします。

 比較の対象、「〜よりも」はalsを(ごく稀にdannを)使います。alsもdannも接続詞で、前置詞ではありません。つまり格支配をしません。ではalsやdannの後の名詞の格はどうやって決めればいいのでしょう。

 これは、alsやdannの後には必要な語以外が全部省略された複文が隠れていると考えれば理解できます。つまり、さっきの例では、

 Stephan schreibt Deutsch richtiger, als wir Deutsch schreiben.
 シュテファンは、僕らがドイツ語を書くよりも正しくドイツ語を書く。

 という文の"Deutsch schreiben"を、主文で出てきてもう分かり切っているのだから省略した。だからwirという主格になっているのです。

 また、本来はalsに始まる従属文なので、文末に来る前綴や助動詞構文の不定詞・過去分詞などよりもals〜が後に来る方が普通です。

 Staphan konnte Deutsch richtiger schreiben als wir.
 シュテファンは僕らよりも正しくドイツ語を書くことが出来た。

○比較級を名詞にかける

 形容詞の比較級が名詞にかかるとき、比較級に更に格変化語尾が付きます。

 Diamant ist harterer Edelstein als Rubin. ディアント イスト ルタラー エーデルシュタイン ルス ルビー
[hart 硬い Edelstein (男)宝石]
 ダイアモンドはルビーよりも硬い宝石だ。

 hartererはhart(「硬い」という形容詞)-er(比較級を作る語尾)-er(男性1格であることを示す格語尾。
 冠詞がないので強変化)という構造です。うへぇ。

○最上級

 最上級は-stをつけて作ります。比較の対象「〜のあいだで」はvon+3格かunter+3格、あるいは2格で表します。

 Er ist der weiseste unter unsern Söhne. ア イスト デア ヴァイゼステ ンター ウンザーン ゼー
[weise 賢い Sohn (男)息子]
 あいつはうちの息子の中で一番賢い。


 この例のように、形容詞の最上級は名詞にかからずに補語となる場合も、定冠詞を伴い、しかも格変化語尾を持ちます。これは、
 Er ist der weiseste Sohn unter unsern Söhne.
 が省略されていると考えるためです。ですから主語が女性なら女性形die -ste、中性なら中性形das -steとなります。

 名詞にかかっているときは、比較級と同様の格変化をします。なお、最上級の付いた名詞は、唯一のものと考えられるため、必ず定冠詞を伴います。

 副詞の最上級は、am -stenという形を取ります。

 Sie hat die Frage am weisesten geklärt. ズィー ハット ディ フラーゲ アム ヴァイゼステン ゲクレールト
[Frage (女)問題 klären 明らかにする、解き明かす]
 彼女は最も賢明に問題を解決した。

○不規則な比較級、最上級

 一部、-er、-stだけでは比較級や最上級を作れない形容詞があります。

変音を伴うタイプ

 一音節で、母音がa,o,uである形容詞は、比較級と最上級を作るときに母音が変音します。

 alt 年長の →älter より年上の →ältest 最も年上の
 klug 賢い →klüger より賢い →klügst 最も賢明な

 変音しなくてもよい形容詞もあります。また一音節でも、母音がauの場合は変音しません。

 schmal 健康な →schmaler/schmäler →schmalst/schmälst
 laut 大声の →lauter →lautest

 また、altやlautのように、語尾がt,d,s,zで終わる形容詞の場合、最上級は-stをつけにくいのでeを挟んで-estとします。

原級と比較級、最上級で形の違うタイプ

 元の形容詞(原級といいます)と比較級、最上級で形が違うものもあります。

原級比較級最上級
gut「良い」besserbest
hoch「高い」höherhöchst
nah「近い」nähernächst
viel「多い」mehrmeist
wenig「少ない」wenigerwenigst
mindermindest

 ちなみに、nahの比較級näherは英語のnear、最上級nächstは英語のnextと同語源です。英語ではnahは滅んでしまいました。


 また、英語のような、mehr+形容詞、meist+形容詞という形での比較級、最上級の作り方は出来ません。


 さて次回。次回は接続法についてです。接続法とは要するに英語の仮定法のことですが、そもそも仮定法というもの自体がきちんと理解されているか疑問です(大嘘を教えていた高校教師の話を何度か耳にしました)。そこで、英語における仮定法も含めて、この日本語にはない概念についてまとめてお話しすることにします。

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