ついに最終回。不定関係代名詞についてです。
不定関係代名詞は、疑問代名詞に由来し、疑問代名詞と全く同じ格変化をします。
先行詞が人物の時はwer、物の時はwasを使います。
1格 | 2格 | 3格 | 4格 | |
人 | wer ヴェーア | wessen ヴェッセン | wem ヴェム | wen ヴェン |
物 | was ヴァス | wessen ヴェッセン | ── | was ヴァス |
不定関係代名詞は先行詞を持たず、「〜する人は誰でも」「〜する物は何でも」という意味を持っています。
Was dem Herzen gefällt, das suchen die Augen.
ヴァス デム ヘルツェン ゲフェルト ダス ズッヒェン ディ アウゲン
[gefallen (3格)の気に入る suchen 求める Auge (中性)目]
心の気に入ることを目は求める。
先行詞はありませんが、この例のように、主文で指示代名詞(ここではdas)を置いて不定関係代名詞節を指示させるのが普通です。
なお、Alles「すべて」やNichts「すべて〜ない」などを先行詞とすることも出来ます。
Nichts, was er sagt, ist richtig. ニヒツ ヴァス エァ ザクト イスト リヒティヒ
彼の言うことはみんな間違っている。
Die Besten, was sie hatten, gaben sie sich. ディ ベステン ヴァス ズィー ハッテン ガーベン ズィー ズィッヒ
彼らは、自分たちの持つ最良のものを贈りあった。
先行詞を持たないwerやwasに制限用法も非制限用法もあったものじゃありませんが、wasは非制限用法に相当する用法を持っています。
具体的には主文の内容そのものを指示し、挿入句を作ります。
Die Tatsache, dass er das besten Spieler ist ── was heute Alle wissen ──,
bemerkte erst sie.
ディ タートザッヘ ダス エァ ダス ベステン シュピーラー イスト ヴァス ホィテ アッレ ヴィッセン ベメルクテ エァスト ズィー
[Tatsache (女)事実 bemerken 気付く]
彼が最高のプレーヤーだと──これは今では誰もが知っていることだが──最初に気付いたのが彼女だった。
このように、挿入句を作るときにはコンマではなく横棒で区切るのもよく見られます。
半年間に渡って投稿してきた「ドイツ語入門編」ですが、如何でしたでしょうか。いちおう私なりに工夫を凝らしてきたつもりなのですが、お役に立てたかどうか。
これでドイツ語に興味を持たれた方のため、別ページにて参考文献を挙げておきました。また、参考文献以外でも、NHKのドイツ語講座では恒常的にドイツ語を聞くことが出来ます。インターネットを使えばもっといろいろなドイツ語に出会えることでしょう。
それに、私自身、続編として「ドイツ語研究編」を投稿するという野心があります。
いつになるかはわかりませんが、そちらの方も読んでいただければ嬉しいです。
私にとってドイツ語とは道具であり、趣味です。つまり、専門ではありません。あくまで自分の専門である西洋史を研究するための道具でしかありません。そのため、私のドイツ語へのアプローチは非常に偏ったものになっていると思います。具体的には読解、文法中心です。読み、書き、話すという3つの分野において、「読む」ばかりやっているわけです。ですから、このシリーズも恐らく「読む」のに偏ったものになっていることと思います。書く、話す、という分野においては特に足りないところが多いことと思います。
ですが、逆に言えば、ドイツ語のみならず外国語の入門が「海外旅行のためにちょっと話せるようになろう」というコンセプトで書かれることが多いなかで、ちょっと変わった入門を提示できたのではないか、と思います。
第1回で「くれぐれも英語読みをしないように注意!」などと太書きで言っておきながら、要所要所で英語が顔を出すのに戸惑った方もおられるかも知れません。おおよそ半分弱の回で英語に言及しています(そして、今のところ「研究編」ではもっと頻繁に英語の話をする予定です)。
これは、恐らく読んでいる人は皆英語を知っているだろうと想定しているから、というのもありますが、なによりもドイツ語という第二外国語を知ることで、日本語と英語についての理解も深めて欲しいと願うからです。
時々、「英語は〜という特徴を持っている」「日本語は〜という特徴を持っている」と言いながら、実は英語と日本語しか知らずにそう言っている人を見かけます。実際に英語の特徴なのか日本語の特徴なのかは、英語と日本語だけではわかりません(英語の特徴だと思っていたけれども、実際には日本語以外の多くの言語がその特徴を共有していて、その要素を持たない日本語のほうが特徴的である、という可能性もあるわけです)。
そうすると、更に他の言語という視点を持ち込めば、「日本語のこの考え方って特徴的だと思ってたけど、ひょっとしてそういう考え方をしない英語の方が特徴的なのかも(あるいは、その逆)」と気付くきっかけになるでしょう。ドイツ語は──世界でも最も英語に近い言語の1つですが──それでも英語がなんだか特殊だぞということには気付かれたのではないでしょうか。シリーズで触れなかったこととしては、例えば、進行形は英語に独特の形です。私の知る限り、ヨーロッパで明確な文法事項として進行形を持つのは英語だけで、それ以外の言語では現在形で現在進行も表します。そのほうが普通なわけです。こういうことは英語しか知らなければ見えてきません。
また、ドイツ語の説明を利用して英語の文法事項も説明したという例もあります。
具体的には接続法のところでは、英語の仮定法の説明も念頭に置いていました。
このシリーズが、ドイツ語のみならず英語への理解の深化に繋がることを願います。
最後になりましたが、偉そうな指摘に始まって半年間ものシリーズの投稿を受け入れてくださった裏辺所長と、この長いシリーズを最後まで読んで下さったあなたに、この場を借りてお礼申し上げます。
では、また。
相良義陽