恐竜・翼竜大図鑑 (9)恐竜はなぜ巨大化したのか?


(上写真:恐竜の中でも大きな部類に入る、ディプロドクス)

●巨大化の原因とは?

 恐竜といえば、もちろん1mクラスのような小型の恐竜もいますけれども、体長が10m、20m・・・いやいや30mや40mにもなるような恐竜がいることはご存知だと思います。もちろん生まれた時は数十cm程度なのですが、そこから爆発的に巨大化するわけですね。それでは、どうして恐竜はこれほどまで体を巨大化させたのか、今回は理由やメリットなどについて、ご紹介していきます。

 まず、恐竜巨大化の原因は様々な説があります。
(1)純粋な恒温動物(体温が一定の動物)ではないため。
(2)哺乳類などと異なり、生きている限り成長するため。
(3)当時は食料が豊富であったため。
(4)巨大化に適した呼吸器系や骨格であったため。

 もちろん、どれか1つが正解というわけではなく、様々な要因がからみ合って恐竜の巨大化に影響したことでしょう。それでは、1つずつ解説していきましょう。

(1)純粋な恒温動物(体温が一定の動物)ではないため。

 哺乳類などに比べて体温を維持するためのエネルギーをそれほど消費しません。そのため、少ない食事で大きな体を維持することが出来るため、余分なエネルギーを成長に回すことが出来ました。

(2)哺乳類などと異なり、生きている限り成長するため。

 これは化石から判断されます。ちなみに、恐竜と近縁である爬虫類にも見られる傾向です。

(3)当時は食料が豊富であったため。

 当時は温暖な気候で、さらに被子植物が出現するなど植物が大いに進化した時代でした。大量の植物が地球上に存在し、恐竜も多量の食事を取ることが出来ました。

(4)巨大化に適した呼吸器系や骨格であったため。

 近年の研究で、多くの恐竜に気嚢システムがあることが分かりました。気嚢(きのう)とは肺を補助する器官で、より効率的に酸素を取り入れることが出来ます。つまり、巨大な体は十分な酸素が行き渡ることで形成された、という考えです。さらに骨格について考えると、直立歩行は重い体を支えるのに適しています。爬虫類のようにガニ股なような骨格だと、体重の負荷が足の付け根に来ることは、何となく想像できると思います。この他にも内臓系が強固だったと想定されていることなど、色々な説があります。

●巨大化のメリットは?


 では、巨大化したことによって、どのようなメリットがあったのでしょうか。まず、大きくなれば捕食者にとっては、その恐竜によって下敷きになったり、仕留めにくい傾向があることから、敵が少なくなる、というメリットが有ります。逆に、肉食の恐竜にとっては、より大きいになることで、多くの恐竜をハンティングする力を得ることになります。

 もちろん、今まで動かなくても届かなかった餌や、動いても届かなかった高いところの餌に手が届くほか、ゆっくり行動してもそれなりに動くことも出来るというメリットが有ります。細かな草木に邪魔はされないし、いざとなれば木々を体重で倒すことも出来ます。ちなみに、象の場合は木々を倒すことがあります。

 ・・・しかし、折角大きくなったものの、必ずしもメリットだけではありません。続きまして、巨大化に伴う課題や解決策を以下に書いていきましょう。

●あの大きい体を支えられるのですか?


 人間をイメージしてみてください。
 我々が歩く時、まず自分の体重を支えてかつ動かさなくてはいけません。つまり、あらゆる運動には体重に比例した力がかかります。体の骨は、その力に耐えて折れない必要があります。実はこのために、大きい動物ほど骨を太くする必要があります。何故ならば、体重は体の体積に比例するのに対し、骨の強度は骨の断面積に比例するするからです。

 仮に人間が2倍の大きさになったときを想定してみましょう。この時、体の重さは8倍(縦×横×高さ)になります。しかし、骨の強度(=断面積)は4倍(縦×横)にしかなりません。そのため、大きくなればなるほど、体に対して太くて強い骨が必要になってしまうのです。しかし、動けないほどに太い骨は意味がありません。ということで生物が大きくなるということは大変なことなのです。冒頭の写真で登場したディプロドクスの体長は26m。人間の20倍近い体長であるため、いかに強い骨が必要か、お分かりいただけるでしょうか。

●では、巨大化の達成に必要な骨とは?


 そこで、次のような方法で巨大化を可能にします。

(1)骨を太くして、骨の強度を高めること
 これは、多くの恐竜、並びに他の大型陸生動物がとっているもので、最もストレートで単純な方法です。ただ、動けないほどに太くしてしまっては、何の意味もありませんので、限界があります。

(2)構造的に強くすること
 例えば、ティラノサウルスの首などは、太く頑丈にできているほか、マメンチサウルスの首は、頸肋骨という長い骨が下に生えており、支えになったとされています。ただ、これらの構造でさらに重くなっては逆効果で、これだけでは巨大化を達成できません。

(3)軽くすること
 そこで、竜脚類の頭を見てください。体に比べてやたらに小さいことに、お気づきでしょうか。彼らの体は、長い細い首と小さな顔が大部分を占めている上に、首の骨は華奢で穴があいています。そうです、彼らは大きくなるために、軽くなったのです。でも、骨の強度が減りすぎては本末転倒・・・。

(4)骨にかける負担を減らす:腕をつっ立ててゆっくりと動くこと
 こうすれば、腕を折るような力を掛けることもなく、進むことができます。そもそも大きな恐竜たちは、遅く動いたところで一歩一歩が長いという利点があります。

 というわけで、恐竜はこれらの方法を複合して大きくなっていきました。
 ちなみに、獣脚類などの肉食恐竜は頑丈そのものにできていますが(※ただし、頭に穴を開けて軽量化を図っています)、竜脚類は上の方法全てを使うことで、少しでも巨大になるよう進化してきました。ですから、竜脚類に比べて、小さめのトリケラトプスなどは、計量化などみじんも感じられない頑丈な骨である。巨大化、この言葉一つに対しても様々なアプローチが存在します。

●頭に血は周るのですか?

 巨大化にはまだ課題があります。それは、
 「頭にまで血がまわりにくい」
 ということです。このような問題は現世の生物でもキリンが抱えており、十分な血液を頭に送るには強く(そして大きい)心臓を用意するしかないのですが、さらに困った問題が生じます。

 それは、キリンを含めて、ほとんどの生き物は頭を「絶対に」下げなくてはならないことです。なぜなら、水を大量に摂取するには地面を川や湖を利用するしかないからです。すると、頭を下げた時、重力によって下がるはずの心臓の容赦ない圧力がむしろ増幅されて、頭にかかってしまうのです。

 それでは、キリンはどうやって克服したのでしょうか?
 答えは、前毛細血管の収縮により、毛細血管に流れ込む血液を減らすことに成功したのです。このため、特に体の大きく首の長い竜脚類も同じような方法をとっていたと考えられています。さらに、心臓が複数あった説がありますが、これには疑問が提出されています。

 この他、「頭を上げなかったのでは?」という説もあります。仮にそうであれば、大きく強い心臓は、それほど必要ありませんね。



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