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艦船論第2回 海軍と艦船の成り立ちと種類 2


○海軍の組織化

 紀元前末から紀元に至る数世紀、欧州はローマ共和国、或いはローマ帝国の広大な支配を受け、激戦が繰り広げられた地中海も、それなりに平穏だったのだろう。その為に、ガレー船の機構的進化は散見する事が出来ても、大きな部分ではあまり代わり映えのない状況と言えた。

 その代わりに体制化に伴って、海軍の海軍的組織化がなされた。
 陸軍と海軍という区分けがより明確になり、提督、船長、副長、事務官、航海士、等、現在に至る船内役職が海軍組織機能の一つとして確立されたのである。現在に残る、各国のこれら役職の語源はこの当時の物を語源としている所が多い。


○提督

 提督と言う言葉は、船の管轄者という意味である。
 ギリシア語においてもラテン語においても【船の管轄者】という意味の語が用いられた。

 英語にいたって、アドミラル(admiral)が当てられているが、要するに【管理者】の意である。船長をキャプテンと呼ぶのは前述の通りだが、語源はラテン語のCAP、つまり頭-あたま-である。キャプテンのCAP、取りまとめのCAP、つまり船頭-ふながしら-という意味が転じていったのだ。

 基本的には航海術や航行術、或いは軍事全般は、ヨーロッパ全土に普及する際に、ラテン語で伝わっている事が殆どである為に、発音上の違いや表記上の違いはある物の、言語的な差違は少ない。言語的に差違がある場合の理由は、日常で使用されにくい言葉であったりした場合、便宜的に利用する側の言葉で近い単語に置き換え、作られた場合である。


 この作られた言葉がまた各地に伝播して、使用されるようになった例が、【提督】を指し示す単語群であるだろう。


○ヴァイキングの誕生

ヴァイキングのガレー船(模型 裏辺所長蔵)

 さて、版図が広がりつつあった欧州は2世紀頃にはアラビア海航路により、インドとの交易が行われるようになっている。この間に帆船の高度な技術がもたらされたと思われる。

 ローマ商船や軍船に、従来のガレー船により機能的な帆とマストが設置された船が生まれる様になる。帆やマストは地中海の様な比較的波が穏やかで風が弱々しい場所では暫し、無用の物となりがちであり、より実用的技術と技能の発展は停滞気味であったのだ。


 ローマ支配による地中海世界の絶頂期は450年代頃である。
 この時、自由都市ヴェネツィアが生まれた。海運と海上傭兵を主な商品とした都市国家である。しかし、絶頂期は同時に、他の外国勢力との衝突を呼び込む。この頃から既に、アラビア海航路を巡って、アラブ民族、のちにはイスラム教系勢力との小競り合いが発生するようになっていた。また、航海技術は欧州全土に普及した事によって、北欧に点在した海洋民族により強固な力を付与させた。

 ヴァイキングの誕生である。

 ヴァイキング、つまり北欧の少数民族勢力は、元々が海洋民族であった。独自の航海法を保有し、戦闘方法を培っていた。そこにローマ渡来の技術がもたらされ、彼らは一気に拍車をかけ、所謂、ヴァイキング船と呼ばれる、高度な船を造るようになる。

 ヴァイキング船はガレー船の亜種ではあるが、彼ら独自の航海法、風を読む力、その運用方法を計算して建造され、帆船の基礎となる技術も多く盛り込まれていた様である。

その為に、ヴァイキングの活動範囲は広く、この当時で大西洋を横断していた。


○ダウ船とジャンク船

 他方イスラムも中国との交易でもたらされた、操船技術、羅針盤、船体技術、等と独自開発の技術を集結させ、優れた船の開発を行っている。所謂、ダウ船ジャンク船である。これらは軍艦としても充分な基礎能力を保有する船であった。その証拠に、ダウ船、ジャンク船、共に現在でも使用され、作り続けられている船である。

 こうした進化を遂げるアラビア・イスラムや中国、北欧の船や技術に対して、欧州で古来から使用されるガレー船は立ち後れが目立った。

 この原因として、ローマ帝国の没落とゲルマン人の台頭による文明と文化の減退、そして結局の所、活動範囲の狭さであっただろう。ゲルマン人支配の欧州は結果的に、ゼロからのスタートと呼んで差し障りのない状況であった。この状況的差が、ついには地中海における欧州勢力の危機的状況をも生む。アラビアやイスラム海軍と商船の地中海台頭である。


 欧州は古くからアラビア海航路で、西アジアや中東諸国と海上交易を行ってきた。
 しかし、西アジアや中東諸国は、欧州との交易の他に、インド洋航路を用いて、インドや東南アジア、中国と交易をしてきた。インド洋だけでなく、東南アジア、東アジアの海はよく荒れ狂う。それは地中海の比ではない。必然的に風を読む力、波を読む力が古くから培われている。きめ細やかな操船の技術も航路の延長と共に発達する。そうして生まれた船がアラビアやイスラム圏で現在も活躍するダウ船である。或いは中国で今でも活躍するジャンク船である。


 ダウ船にしてもジャンク船にしても、櫂船ではない。
 櫂船の能力も有してはいるが、歴とした帆船である。帆船はガレー船に比して船自体の長所はすこぶる高い。
 何より、漕手が基本的に不要なのである。その分をすべて積載量に回せる。

 ガレーの漕手は三交代を原則とするから、一本に三人の奴隷が必要である(鎖につないで死ぬまで漕がせたという話もあるが、奴隷はまがりなりにも、資産であり、財産である。 簡単に死なれては困るし、そもそも、洋上の人手不足は、船員にとっての死活問題である。劣悪な環境で労働低下を招く真似は、流石に自殺行為である)。ゆえに、三人分の食料や詰め所、漕席、そもそも幾つかの船層が必要となる。同じ大きさのガレー船と帆船ならば、実に四倍以上の積載量差が生まれる。


 これはつまり、戦時において2倍以上の兵力を擁せるという事になる。

 つまりは、水夫兼戦闘要員だけでなく、戦闘の専門職を大量に乗り込ませる事が可能となった。

 所謂、本格的な水兵団が誕生した。



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