第三十四話 一度限りのフルアーマー

 さて、二回に渡りミッションバイクの操作について触れたので、そろそろ本編に戻るとしよう。

 教習所の初乗り教習は以前にも触れたと思うが、二時間続けての教習となっている。一時間目は基本的なバイクの操作の説明と、軽くバイクに乗ってみるというもので、二時間目はいよいよバイクに乗って周回コースを走るという段階にはいる。


一時間目の教習がおわり、教習終了の印鑑をもらい、十分間の休憩にはいる。教習に来たときは、まだ夕焼けだったのに、十一月の午後五時すぎともなると、あたりは知らない間に真っ暗である。ちなみに私の乗っている原付はライトのオン・オフスイッチがあるのだが、教習所のバイク・・・いや、今走っているほとんどのバイクにはライトのスイッチはついていない。なぜならば、バイクのライトは常時点灯が今や基本となっているのである。


「カリウス君寒そうだね。」
 と教官が言ってきた。私はワイシャツの上に薄手のジャケットを一枚着ているだけだったので寒そうだと思われたのだろう。しかし、このジャケット、薄地のわりに防寒性に優れているので、そこまで寒いということはなかった。しかし、やはり十一月ともなると寒い。もっとも、薄そうな服を着ているから寒そうだねといわれたのではなく、寒そうなそぶりをしていたから聞かれたようにも思える。


 さらに教官は私にプロテクターをつけるかいと聞いてきた。本当は付ける気など毛頭なかったのだが、教官の声が良く聞き取れず、取りあえず、ええ、ええと返事をしていたら突然教官がプロテクターをもってきて装備するハメになってしまった。


 このプロテクター、ローラスケート(今となっては過去の遺物となっているが、私が小学校低学年のときは非常に流行っていた)のプロテクターが肘や膝といった間接部分のみの保護を目的とした小型のものであるのに対し、私の記憶が確かなら肘から手の付け根、膝から脛までの広範囲をカバーする大型のものであった。いうなれば聖闘士星矢のブロンズクロスみたいなものである。


 このプロテクター、装着するのは非常に恥ずかしい。もちろん怪我をするよりはマシなのだが、いかにも下手糞であるということを宣伝しているようなものである。ちなみに、一緒に講習を受けた残りの二名はプロクターの装備を遠慮するという結論に達し、私は一人、フルアーマー化するはめになってしまった。


 さて、二時間目の講習であるが、早速周回コースを走ることになった。すっかり辺りは暗くなっており、スポットライトを照らしての夜間教習である。


 走行中、バイクのチェンジペダルを上げたり下げたりして速度を調整する。バイクにはギアが今何速にはいっているか表示してくれるものはついていないので、自分で何速かをおぼえていないといけない。バイクのギアは最大何速まであるんだろうと思って走行したが、狭い教習所の中でギアをどんどんあげるわけにもいかず、結局、わからずじまいで卒業しまった。


 私はカーブを曲がるさいに十分に速度を落としてから曲がっていた。原付は小回りが利くので別にカーブを曲がることは大変ではない。しかし、400ccのバイクになると、バイクを倒して曲がらないといけなくなってくる。もっとも、速度を落とせばバイクを倒さずとも問題なくカーブを曲がれるのだが、エンジンのパワーが大きいので思った以上に速度がでていることがしばしばあった。私はこのバイクを倒すという動作が怖かったので、十分に(十分すぎるほどに)速度を落としていたである。


 また、速度を落とす際、まずは、ゆっくりと効いていくフットブレーキを使うべきなのだが、つい、原付スクーターのクセで効きの強いハンドブレーキを使ってしまっていた。ハンドブレーキは効きが強いということは解っていたのだが、加減をしてブレーキをかけても、効き具合が今一よくわからないので、急ブレーキがかかってしまうことがしばしばあった。今、思い出せば、フットブレーキを使わずハンドブレーキを使ってしまっていた原因にはフットブレーキはその位置を走行中に目で確認するわけにもいかないので、感覚で踏まなければならない。しかし、まだ扱い慣れていない(今日乗り始めたわけだし)ので足を伸ばしてブレーキを踏もうと思っても踏みそこなったりしたため、つい、扱いなれているハンドブレーキに頼ってしまっていたというわけである。


もちろん、その都度、教官に注意されたのだが・・・。


 さて、数々の課題を残しながらも、二時間目の教習も終了した。ちなみに、初乗り教習一時間目でクリアした項目は


1、車の取扱い(エンジンをかけていないときの取り回し)
2、自動車の運転機構(これは実技なのか?)
3、運転姿勢


の三つの項目である。第一項目、車の取り扱い・・・果たして倒れているバイクを持ち上げられなくてもよかったのであろうか・・・しかし、持ち上げるまで先に進めないというのでは酷な話である。そして、二時間目の教習でクリアした項目は


4、ブレーキ操作の仕方
5、発進及び停止の仕方
6、変速操作の仕方
7、安全走行
8、円滑な発進・加速
9、速度の調整


 の6項目である。第一段階は全部で16項目だから初日で半分クリアしたことになる。もっとも、後半には難しい教習が多いので、果たして半分かどうかは疑問であるが。


 項目クリアの○をもらうさい、
「一時間に一個ずつ○をしていってもいいよ」
と、冗談で教官にいわれ
(そうしてくれたほうが楽だなあ)


 と思ってしまった。しかしすぐに、教習をいつまでもやっている時間はないことと、教習は定額制でないことを思い出し、考えを改めた。ゆっくりとやっていったほうが楽という発想は、いかにも受身的な発想であることを悟り、自分の甘さも同時に悟った。


 また、逆に最短教習時間である17時間という時間の中で卒業検定に合格するだけの技術を身につけねばならないというプレッシャーにも襲われた。


 帰り道・・・。原付で夜の浜松をかけ、そのままバイトへいったのだが、気分はすがすがしかった。なんだかんだいってもバイクの教習は楽しかったのである。これは、自動車教習のときには感じられなかった充実感であった。



棒