第三十八話 急・制・動

 今日も二輪免許取得のため教習へ行く。

 大学の授業の間をぬって教習所に通っているのだが、学校、バイト、教習の繰り返しで暇がなくなってしまい、結構忙しいなと感じるようになっていた。もっとも、教習所に通い始める前までがダラダラし過ぎていただけだったのかもしれないが・・・。


 今日の教習のメインは急制動である。制動というのはブレーキのことなので、わかりやすくいえば急ブレーキの練習である。


 以前の自動車教習のときは、急ブレーキの体験はあったが、練習はなかった。話によると急ブレーキの練習を教習所ですると、急ブレーキを多用するような危険な運転をするようになるので、一時期、急ブレーキの教習は行われなくなったのだが、今度は逆に急ブレーキを使った経験がないため、急ブレーキを使って停止すれば激突を回避できるようなシチェーションでも、急ブレーキが使用されず、そのまま激突してしまうという事態が発生。よって、急ブレーキの体験教習が復活したらしい。


 ちなみに、自動車学校の時の急ブレーキの体験教習はアクセルをベタ踏みして急加速をして、ブレーキを一気に一杯まで踏みつけるといったものである。一気にブレーキを踏むと、タイヤの動きは完全に停止するが、慣性の法則によって、車はすべる形になって前へと進んでしまう。すると、タイヤは地面にこすりつけられるため、キキー!! という摩擦音とともに地面にタイヤの後がくっきりと残り、車体は急ブレーキによって前のめりになっていたのが、停止と同時に元に戻ろうとする力が働き、車体は反動に襲われる。


 このような、車は完全に停止していないのにも関わらず、タイヤは完全に動きを止めてしまい、滑っている状態をタイヤがロックしたという。ちなみに私は自動車教習のとき、なぜか、ロックさせずに停止させることができた覚えがある(つまり、キキー!! という摩擦音がたたなかった。後述するがロックさせないで停止させるのは急ブレーキのときであっても、最もよい停止方法なのである)。


 話を二輪の教習に戻そう。
 二輪教習の急制動は自動車の急ブレーキの体験教習と異なり、タイヤをロックさせるような急ブレーキをしてはならない


 どういうことかというと、タイヤがロックしてしまうと、車輪の動きが完全に止まっているため、それ以上、いくらブレーキを踏んでもブレーキはきかない。つまり、車輪の摩擦によってでしかバイクの速度を落とすことができないのである。さらに、滑っている状態なので自分でバイクの操作をすることが困難になり、バランスを崩しやすく、さらに停止した後に反動が思いっきり体を襲うので非常に危険である。

 よって、二輪の教習においてはロックしないギリギリの強さの急ブレーキをかける必要があるのだ。このギリギリの急ブレーキはロックさせてしまう急ブレーキと違い、バランスを崩すことはないし、停止時の反動も少ない。ブレーキをかけはじめてから停止するまでの距離もロックさせてしまう急ブレーキよりも短いのである。


 急制動教習のやり方は、直線コースを40キロ(だったかな)で走行し、指定の場所にきたら急ブレーキをかけ、停止ラインより手前で停止すればオーケーとなる。ちなみに、晴れの日と雨の日の停止ラインがあり、雨の日は路面がぬれているため、ラインが遠くに設定されている。幸か不幸か、私が初めて急制動教習を行った日は、雨上がりの状態だったので、雨天時の停止ラインが採用された。もっとも、雨が降っているわけではなかったので、晴天時の停止ラインで停止することも十分容易だったのだが。


 ・・・・・・実は、私は急制動の教習を始めてから、卒業検定の間際になるまで、急制動のやり方をよく理解しておらず、思いっきりブレーキをかけ続けていた。前述したように思いっきりブレーキをかけてしまうとタイヤはロックしてしまう。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、ロックしないように急ブレーキをかけるには、最初は弱めにブレーキをかけて、じょじょにブレーキを強くかけていくという、普通のブレーキと同じような手順を踏まなければならないのだ(本当にこんなやり方で、急ブレーキになるの? という疑念もあった)・・・。だが、私はとりあえず停止線の手前で止まらねばと思うあまり、強くブレーキをかけて無理矢理とまるようにしていたのだ・・・。40キロの走行なら、ロックさせても左程バランスを崩さないし、停止時の反動も少ないので、左程危険だと思わず、これでいいやと、なあなあにしていたのである。


 そういえば、急制動の教習を初めてやったとき、教官が、停止線をこえてもいいから、取りあえず、正しい急制動を身につけるようにといって、猶予を与えてくれたのに、私は正しいやり方を身に付けることよりも、ラインより前に停止させることに執着してしまったのである・・・。やはり、ラインを超えてしまうと恥ずかしいと思っていたのだろう。今思えばつまらないプライドというか、周りの目を気にしていたのだなあと思う。


 後々になって急制動のやり方が悪いことを指摘され、卒業検定の間際になって、やっと急制動をマスターすることになるのだが、それは後に譲ることにしよう。


 最後に、先ほども述べたように自動車教習の際はロックさせることを前提とした急ブレーキの体験教習を行い、二輪の場合はロックさせずに急ブレーキをかける練習を行って、さらに試験の項目にもなっているわけだが、両者のこの急ブレーキに対する教習内容の差はどこから来るのだろうか。考えてみると、車の場合、ロックさせてしまってバランスを崩しても、転倒することはほとんどなく、シートベルトをつけている限り、停止時に強い反動に襲われても安全である。また、最近の車はABS(コンピューターがタイヤがロックしないようにブレーキの強さを制御する装置。ABSが搭載されていればブレーキをベタ踏みするだけで、ロックしない急ブレーキをかけることができる)が採用されている場合が多い。


 しかし、バイクの場合は転倒の危険や、場合によってはバイクから放り出されてしまう危険も考えられる。やはり、バイクの危険さ、負傷率の高さからこのような急制動教習が組まれているのだろう。



棒