裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第6話:火事場泥棒

 ―10分後。
 岡崎は車に乗っていた。手塚の立てた作戦は、車ごと店に突っ込む、というものだった。ハリウッド映画でギャングなどが強盗をするシーンでよく見るアレである。
「あのヤロウ、こんな役ばかり押し付けやがって…。」
 岡崎は舌打ちとため息の後、覚悟を決めた。浜田銃砲店までは約20m。衝突時のスピードは約20km/hといったところだろうか。さすがの防弾ガラスも1t以上の弾丸には耐え切れず、粉々に砕け散る。
「さすが、閣下。お見事です。」
 少し離れた場所で見ていた手塚が駆け寄って来た。
「貴様、後で覚えてろよ…。」
 憎まれ口を叩きながら、車をバックさせる。そんなやり取りをしていると、店の奥からフラフラとした足取りで中年の男が現れた。この店の主人だ。案の定ゾンビ化している。
このゾンビの息子であり、彼らの友人でもある浜田には悪いが、それはラッキーだった。彼が健在ならば、武器を持ち出すことは出来なかっただろう。
「閣下…、一応教えとくよ。ゾンビの弱点は頭部だ。他の部位に攻撃しても大して効果はない…。」
 そう言って手塚は素早くゾンビの後ろに回りこみ、その首を締め上げた。
「いいかい?撃つなら頭だ。まぁ、今回は弾丸の節約のためにッ!」
 手塚は一層、腕に力を込める。周囲にゴキッという嫌な音が響いた。
「こうするけどね…。」
そう言って腕を緩めると、呪縛から解放された操り人形は静かに崩れ落ちた。岡崎はそんな手塚が「怖い」と思った。彼を「怖い」と思ったことなど初めてかもしれない。

「さて、使えるものを探そう。」
「あ、ああ…」
 彼らはとりあえず陳列されている銃を調べることにした。しかし、陳列されているものは全て模型で使えるものなどなかった。となれば、あとは1箇所しかない。「作業室兼倉庫」というプレートが掛かった奥の部屋。そこに武器があるはずだ。期待してノブを回すが扉は開かない。どうやらカギが掛かっているようだ。
「カギ、か…。ま、半分予想してたけどな。」
 そう言いつつ手塚は扉を蹴り上げる。実際かなり悔しいようだ。
「物に当たっても仕方ないだろう?俺はそこの死体を調べるから、君は2階の自宅の方を探ってくれ。」
 岡崎は冷静に指示を出す。手塚はそれに従うことにした。この家に上がるのは小学校以来だろうか。そういえば確か一度だけ、浜田に隠し扉のようなものの奥にカギが置いてあるのを見せられたような気がする…。手塚は微かな記憶の糸を手繰った。

 浜田銃砲店は1階が店舗、2階3階が自宅、という造りになっている。子供の頃はよく遊びに来たものだ。だが、主を失った今、この家に当時の印象はなく、ただ不気味に静まり返るだけだった。確か、階段を昇ると右手にリビングがあって、いつもそこで遊んでいたような気がする…。

 ある意味、火事場泥棒に入っているようなものだが、他人の家を探るのは気分の良いものではない。出来れば早々にカギを見つけてしまいたいものだが…。

 リビングに入ってまず目に付くのは柱時計だ。長針にヘラクレス、短針にメデューサの頭、文字盤には黄道十二星座をあしらった柱時計。かなり高級そうなものだ。確か…、ここだったような気がする。というよりも、あからさまに怪しい。RPGなどではこのような時、大抵は「配置を神話通りにする」といった行為で、仕掛けが作動する。試しにやってみるか…。この場合、神話といえばギリシア神話のことだろう。

 手塚はその方面に詳しいというわけではないが、蟹座の蟹はヘラクレスに踏み潰されて星座になったことと、メデューサはヘラクレスの持つ鏡の盾を見て石化したことくらいは知っている。と、なれば…。

 長針のヘラクレスの足を、6時の位置にある蟹座のシンボルに重ねる。要はここに短針のメデューサを重ねればいい。そう思って長針を何度か回転させているうちに、手塚はあることに気がついた。そう、短針と長針は6時の位置では重ならない。考えてみれば当然のことだ。さて、どうする…。

 手塚はしばらく考えたあと、短針を直接動かすことにした。大抵の時計では短針は長針に連動するが、その逆は成立しない。短針をわずかに動かせば、柱時計に実際には存在しないはずの針の並び、言わば虚空の時刻が示される。と、同時に、カチッという音がして隠しケースになっていた振り子の中からカギが出てきた。これが例の部屋のカギならいいが…。

 手塚が階段を下りて、もとの部屋に戻ると、岡崎はまだ死体を探っていた。
「何か見つかったか?」
 手塚が聞くと岡崎は黙って首を横に振る。収穫なし、ということらしい。
「だろうな。こっちにあった。多分、これがそうだろう。」
 そう言って手塚がカギを投げ渡す。岡崎はそれをやや乱暴に受け取った。
「だったら聞くなよ。…ま、カギが合えばいいけどな。」
 カギは予想どおりというべきか、意外にもというべきか、すんなりと開いた。

 部屋の中は保管されている銃火器の少なさを除けば、まさにその名前から想像するものそのものだった。奥の棚には拳銃と散弾銃が各1丁とかなりの量の弾薬、作業台と思われる机の上にはコンバットナイフと組み立て途中らしい拳銃が置いてある。手塚にはそれらのうち3つには見覚えがあった。

 奥の棚にある拳銃は「H&KVP70」。ドイツ製のもので十分な対人殺傷能力を持つ。散弾銃はレミントン「M1100-P」。12ゲージショットシェルを撃ち出すショートサイズ
のショットガン。コンバットナイフはワイルドウエスト社の「ランドールM12」。剃刀の切れ味をもちつつ多少乱暴な扱いをしても刃こぼれしないスグレモノだ。

 これらは全て、昨年彼が行ったアメリカで見て、そして一通りの扱ったことのあるものだ。もう1丁の拳銃については見たこともなかったが、どうせ組み立て方も分からなかったので、あえて無視することにした。
「…しかし、何でこんなものがあるんだ?所持してるだけで銃刀法でしょっぴかれるハズだが…。」
 手塚の当然の疑問に岡崎が答える。
「ここの親父さん、けっこうアコギな商売もしてたらしいぜ。」
「アコギな商売?」
 手塚がオウム返しに尋ねる。
「ああ、この辺りの田舎ヤクザどもの火薬庫だったらしい。」
「その噂なら聞いたことがあるな。まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。使えるものは使わせてもらうとしよう。」
 手塚は持てるだけの武器と弾薬をバイクに乗せた。これだけあればしばらくは問題ないだろう。相手がゾンビならば…。
「さぁ、行こうか。後ろに乗ってくれ。」
 手塚は促したが、岡崎はそうしなかった。
「悪いけど…一緒には行けない。」
 手塚にとっては岡崎から聞いた本日二度目の予想外のセリフだった。
「…今度は何ですか、閣下?」
 手塚は明らかに苛立っている。
「少し、調べたいことがある。…他の生存者も捜したい。」
「調べるって…この状況で一体、何を?」
「…悪いが、今は言えない。」
 会話はそこで止まった。一瞬の沈黙が二人を包んだ。


棒

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