裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第7話:白藍病院潜入

 沈黙を破ったのは手塚の方だった。
「…全く話にならないな。一緒に行けない、単独行動の目的も明かさない、それは勝手過ぎないか?」
「…すまん。無理を言っているのは分かってる。それでも、一緒には行けない。」

 これ以上話していても平行線を辿るだろう。そう思って折れたのは手塚だった。
「分かったよ。こうやって議論している暇も無いし、貴方がそこまで言うのなら、相当な理由なんだろう。どっちにしろ、お互い納得の行かないままじゃ、行動に支障をきたすだろうしな。」

 ―かくして、二人は別行動をとることになった。
「それじゃあ、俺、行くわ。」
 踵を返す岡崎を手塚が呼び止める。
「待てよ。丸腰じゃあ危険すぎる。行くんならコイツを持って行きな。」
そう言って手塚は先ほど見つけた武器のうちハンドガンとコンバットナイフを手渡した。
「この銃はH&KVP70。使い方は…」
「大丈夫だ、大体分かる。」
 自分のセリフをまたも予想外のセリフで遮られた手塚だったが、ここは岡崎の言葉を信じることにした。
「それと、これも持って行ってくれ。」
手塚は更に彼の家から持ってきたトランシーバーを渡した。
「これは…。」
「こんなこともあろうかと、ってヤツさ。何かあったら連絡してくれ。一応、親父の方にもつながってる。」
「分かった。…死ぬなよ。」
 岡崎の噛み締めるようなセリフにあえて手塚は軽口で応えた。

「…全て終わったら、極上のワインを開けよう。貴方とはまだ、酒を酌み交わしたことも無いからな。」
 …それを最後に二つの影は暗闇に消えた。
 岡崎と別れた手塚は次の目的地を決めかねていた。現在のところ候補は二つ。樋口、杉田、一之瀬が向かったここからすぐ近くの町役場か、桜庭、狭間、西園寺、岩成、そしておそらくゾンビ化した亀村がいるはずの少し離れたところにある白藍病院のどちらかなのだが、彼にはどちらの緊急性もあまり変わらないように思えたからだ。
このようなとき手塚は第一に自分の第六感に従う。


 しかし、彼が第六感と呼んでいるそれも、おそらくは無意識の優先判断なのだろう。今回、彼の第六感は何も言わなかった。
 第六感が働かなければ、次に彼が従うのは運命だ。彼はその運命を時計の秒針に決めさせる。即ち、この場合ならば、時計を見た瞬間に秒針が奇数を指していたなら町役場、偶数ならば白藍病院といった具合だ。


 彼は自分に短期の判断力が不足していることを十分承知している。これはそれを補うため、考え付いた方法だ。彼の時計が指し示していた時刻は8時41分52秒。運命が選んだのは、白藍病院だった。


 申し訳ばかりの市街地から少し離れた場所にその病院はあった。この町ではほぼ唯一といっていい本格的な医療施設だ。いくつかの窓からは、その存在を指し示すかのように光がもれている。しかし、原因不明の昏睡状態に入った人間が大量に運び込まれた今、その大半はゾンビ化し、おそらくはゾンビの巣窟となっているだろう。そして、駐車場に原田の車があるということは、どのような状態であれこの中に彼らがいることは間違いない。手塚は覚悟を決めて、ゆっくりとその正面玄関に向かった。

 玄関の自動ドアは今時珍しい圧力センサー式だ。幸いにも動作は未だ正常らしく、手塚が指定の場所に体重を乗せると、忠実にその義務を果たした。
 
 玄関ホールに足を進めると、今まで目的もなく、さまよっていたゾンビの目玉が一斉にこちらを向いた。その数は一瞬で確認できただけでも…7体!
 これではさすがに分が悪いと判断した手塚は、ゾンビをひきつけながら玄関の自動ドアまであとずさった。
 うまくいけば自動ドアから出て来るゾンビを一体ずつ始末できる予定だった。

 しかし、希望的観測の入った予定は得てしてその通りには行かないものである。
 後退を続ける手塚の背中に硬質な感触があった。全く予想外の出来事に瞬時に振り向いた彼の目に入ったのは、ぴったりと閉じたままの自動ドアだった。手塚は慌ててセンサー部を踏みつけた。全体重をかけ、あたかも地団駄のごとく、二度…。しかし、無常にも自動ドアには何の反応もなかった。そして彼は悟った。センサーが死んでいることを。そして彼は思った。ヤラレタ、と…。


 十分にひきつけたゾンビはもはや回避不可能な距離まで迫っていた。そのうちの一体が、彼に向かって手を伸ばす。こう近寄られては頼みのショットガンもその銃身の長さがアダとなり使用できない。それ以前に、予想外の出来事に対する驚嘆と、追い詰められたことに対する恐怖で、言わばパニック状態になっている彼にはこの状況をどうすることも出来なかった。動かなければならないのに体が言うことを聞かない。景色がやけにゆっくりと流れ、そして、彼の精神のうちで既にあきらめてしまった部分がいままでの人生を回想する。思えばあまりに短い人生だった、と…。


 その瞬間、一発の銃声がホールに響いた。同時に彼の目の前のゾンビの動きが止まる。
 そして二発目。今度はゾンビが後ろに倒れる。不意に開けた視界の中心には、ライフルらしい銃を構えた人間の影があった。
我に返った手塚は反射的に残ったゾンビの位置を確認し、ショットガンの銃口をやや上に向けて発砲した。なるべく多くのゾンビの頭がその有効範囲に入るように、そして、間違っても命の恩人にその被害が及ばないように。…3度の銃声の後、7つの死体がそこにあった。

 全てのゾンビの動きが停止したことを確認した後、彼は初めてその命の恩人の方に向き直った。

 そこには、死者がいた。
 正確には彼が自分自身でその死を確認し、既にこの世にいるはずのない人物がいた。喜びと驚きが、そのままの感情を声にさせる。
「皆川!お前、生きてたのか!?」
 死の淵より生還した命の恩人は不敵に微笑をこちらに向けた。

 その時点で、手塚、皆川間の距離は10m位はあっただろうか。手塚は彼に駆け寄って再度、声をかけた。
「お前、あの状況でよく生きてたなぁ。俺はてっきり、死んだものだと…。」
「俺も死んだと思ったさ。なにせ、バックミラー見たら変なのがバズーカ構えてこっち向いてるんだからな。必死でドアあけて車から転がり出たよ。そしたら次の瞬間、俺の愛車が大爆発さ。さすがに危なかったね、あれは。」
 意外に余裕のあるしゃべり口である。手塚はその様子に多少、面食らったが窮地を救ってくれたことに対する礼は言わねばなるまい。
「しかし、助かったよ。礼を言う。」
「まぁな。あそこで俺が来なきゃ、お前もゾンビに食われて死んでたもんな。これで俺たちは『お互いの死を見取った仲』ってことになるのかな?フフッ。」
本当に余裕のあるしゃべり口である…。
「しかし、何でお前ここにいるんだ?それに、そのライフル。そんな物騒なモノ、一体何処から持ってきたんだ?」
 手塚の当然といえば当然の疑問。皆川はそれに当然といえば当然の答えを返す。
「車が無くなって逃げられなくなった。だから戦って生き延びるしかない。戦うためには武器が必要だ。だから家から持ってきた。幸い親父に狩猟の趣味があってね。いい武器が手に入ったよ。ここに来たのは、牛田がここに入院してるから、その様子を見るためにね…。」
「牛田が入院!?マジか?!」
「ああ、2、3週間前に車で事故ってな。何ヶ所か骨折したらしい。」

 どうやら、もう一人捜すべき人間が増えたらしい。手塚はこれまでのいきさつと、ここに来ているはずの友人のことを手短に話した。
「…というわけだから、見つけたら保護してやってほしい。ただし、既にゾンビ化してたときは…。」
手塚が言葉に詰まったが、すぐさま皆川が補足した。
「…楽にしてやれってことか?」
「ああ…。」

 それが彼らの非情なやさしさだった。

「で、これからどうする?どうせ捜すのなら二手に分かれたほうが早いと思うが…。」
 皆川の提案はもっともだった。一人では多少心細いが、この状況ではそうも言っていられない。今は彼らを捜すことが第一だ。望みは薄いが…。
「そうだな。…じゃあ、俺は地下1階から捜すから、そっちは4階から巡ってきてくれ。全ての部屋をくまなくな。それと…」
 手塚が一層、真剣な表情で付け加えた。
「死ぬなよ。」
「ああ。俺のGT-Rをブッ潰したあのバズーカ野郎をぶっ殺すまではな!」
 どうやら彼は随分と俗な理由で動いているらしい。



棒

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