裏辺研究所 週刊?裏辺研究所 > 小説:バイオハザードin Japan棒

第24話:町長、最期のあがき

「鹿尾町周辺4町合併の話が本格派し始めたころじゃ。合併したらわしは町長の地位も、特権も失う。それだけならまだしも、わしのやってきたことがバレたら…。わしは怖かった。合併させるくらいなら、全て壊して、全てうやむやにして、逃げて、消えてしまいたかった。そんな時、奴らが現れたんじゃ。」
「…奴ら?歯切れの悪い言い方をするな。はっきりしゃべれよ、バカ。」
一瞬、町長の顔が怒りに引きつったように見えたが、拳銃をちらつかせると、その目は光を失った…。
「…奴らっちゅうのは『あんべるら』とか言う会社の『えいげんと』たらいう奴じゃ。町をあげて実験に協力せいと言ってきおった。」
「『アンブレラ』の『エージェント』だろ。その程度の単語も覚えれんのか、カスが。…で、どーしたよ。ただの実験じゃなかったんだろう?」
その質問をすると、町長が急にガタガタと震え始めた。

「おい、何とか言えよ。死にてぇのか、オラ。」
手塚はさらに追い打ちをかける。
「ち、ちがう。わ、わしはこんなことになるなんて思っちょらんかった。こんなはずじゃなかったんじゃ。…最初はこの病院の地下の一部を貸して、保健所の野良犬を横流しするだけでよかった。一匹10万で買ってくれたわい。確かに、多少高いとは思った。しかし、あの実験を見たら、それだけ外に洩らしたらヤバイ、そういう実験だっちゅうことは分かったわい。それで…、奴らはそのうち生きた犬まで要求してきおった…。これだけの田舎じゃ、野良犬なんぞ、はいて捨てるほどおる。保健所でも始末に困っておった。それに…、実際、奴らの実験が面白くなっておったわしは、二つ返事で引き受けてしもうた。他にも、カエルじゃとかヘビじゃとかイモリじゃとか…、いろんな動物で実験しておった。その次は人の死体で実験…、そして、最近になって…。」
「人体実験を始めた…、ということか?」
町長の震えは一層大きくなった。額には脂汗とも冷や汗ともつかない液体がにじんでいる。
「わ、わしは悪くない…。やったのは院長だし、身寄りの無い穀潰しの老人とか、末期ガンで助かる見込みのない奴だけじゃ…。わしは悪くない、悪くない…。」
うわ言のようにそればかりつぶやく。本当にイライラさせられる。できれば今すぐ、息の根を止めてやりたいが…。

「お前の方がよっぽど穀潰しだよ。…しかし、おかしいな…。だったら、牛田はどこに消えた?アイツは、老人でも天涯孤独でもないぞ。本当にそういう奴だけだったのか?」
「し、知らん。そんな奴、名前も知らん。ほ、本当じゃ。勘弁してくれ。そんなに知りたければ、院長に聞けばいいだろう?!」
…。コイツ、院長が自殺したことも知らないのか。彼の行方は是が非でも知りたいところだが、知らないなら仕方ない。コイツの言っていることがどこまで本当かは分からないが。

「チッ、まぁいい。で、それがさらにエスカレート、お前もついに本格的に狂って町全体をアンブレラに売り渡した、って訳だ。見返りに何を約束されたかは知らんが…、大したクソジジィだよ、お前は。」
そう言って、床にへたり込んでいる町長の頭を足げにし、そのままの格好で次の質問をする。
「さてと、そろそろお前とのトークも飽きた。できればもう、この病院から出たいんだが、どこから出れるか教えてくれるよな?」
もう、質問のときは銃口を向けるのが癖になってしまった。
「…それは、わしも知らん。実験を始めるときに言われたんじゃ。『ここなら絶対に安全だ、迎えに来るまで出るな』っちゅうて…。わしも被害者なんじゃ。だから、頼む、助けてくれぇ…!」

 …どうやらこれは本当らしい。利用するだけ利用して、使い物にならなくなったら、ポイってやつだ。アンブレラのエージェントも、なかなかやるな…。
「そうか、知らないんなら、仕方ないなぁ…。もう聞くことも無いし…。」
手塚は拳銃の狙いを定めた。アンブレラと同じく、俺も利用し終わったものは消させてもらおう。
「ま、待て!助けてくれるって言ったじゃろうが!その約束はどうなった?!」
町長もこれまでに無く、必死で手塚にすがりつく。
「お前が一回でも、まともに公約守ったか?ま、俺は守るぜ?『命だけは』助けてやる。急所は狙わない。」
眉一つ動かさずに引き金を引く。冷酷な銃弾が町長の左大腿部を貫いた。
「ぎぃゃやああぁぁぁァァァー!!…ハァハァ、何で…、何でわしだけこんな目にあわんといかんのだ?!森林を切り開いて産廃処理場を作ろうとしたときも、町議会議員だった手塚のジジィに邪魔されて…、商工会を乗っ取ろうとしたときも、会長だったその息子に邪魔されて…。そんなことさえされなければ、こんなことにはならなかったのにぃー!」
それを聞いて手塚は少し可笑しくなった。
「…クククフフフハハハハ!そう言えばそんなこともあったなぁ!そして、貴様の最後の野望も、三代目である俺によって潰えるわけだ!面白い因果じゃないか。ハハハハハハ!」
それを聞いて町長の顔色もさらに青くなる。もしかしたら失血のためかもしれないが。
「そ、そんな、まさか貴様…。こんな…、こんな四半世紀も生きとらんような若造にぃー!!」
「…一世紀近くも無駄に生きたジジィに言われたくはねェよ。」
残った全ての憎しみを込めて放たれた弾丸は、右の膝を砕いた。
絶叫する町長を尻目に、カンカンと軽やかな音を響かせながら螺旋階段を駆け下りる。動いている最中は気にならなかったが、タイラントとの戦闘で負った傷が急に痛み始めた。とりあえず、救急スプレーで応急処置をするが、右腕など痛みが引かない箇所がある。骨にひびくらいは入っているかもしれない。

 満身創痍の体を引きずり、室内へドアをくぐると突然、警告音らしきサイレンがけたたましく聞こえてきた。辺りの照明は全て赤色に変わり、院内放送と思われる機械的な女性の声が絶望を告げる。
「緊急事態発生、緊急事態発生。機密と安全、および微生物による周囲環境の汚染防止のため、本病院は10分後に完全に密閉され、全館的に熱ガス殺菌を行います。このガスは人体に有害なため、院内に残っている方は最寄の出入り口より屋外に脱出してください。現時刻よりすべての電子ロック、および物理的施錠は解除されます。繰り返します、本病院は…。」

 …しまった!こんなことをするのは、町長以外に考えられない!どんな手を使ったかは知らないが、やはり止めを刺しておくべきだった!
 だが、後悔しても仕方ない。仲間がいる電算室へ走っていると、繰り返される女性の声とサイレン音をバックグラウンドに町長の声が放送されてきた。
「ケヒャヒャヒャ…!よくもやってくれたのぉ、手塚家の孫!こうなったら、貴様も道連れじゃ!逃げられると思うなよォ?いま、『G』を起動させたからのォ!」
…『G』?確か、会議室で拾った書類に何か書いてあったな…。何はともあれ、今は逃げなければ!

 そして放送はさらに続く。マイクの向こうから人間とは思えない咆哮が聞こえてきた。
「ケヒャヒャ、行け!バケモノ!あのクソガキどもをブチ殺して来い!」
 馬鹿なことを言ってくれる。要は、追いつかれる前に逃げ切ってしまえばいいだけのことだ。各所に設置されたスピーカーからは町長の気持ち悪い笑い声がとめどなく垂れ流されている。…が、それは突然に止むことになった。

「ケヒャ?どうした?早く行かんか!…ち、違う、こっちじゃない!や、止め…!!」
 町長の声はそれきりで途切れ、代わりに「グシャッ」という骨を砕き、肉を撒き散らす音がした。ちょうど、飛び降り自殺をした人間が、地面に衝突した時のような音だった。
 もちろん、実際に飛び降り自殺の音を聞いた事があるわけではない。ただ、話では、「耕した畑のような柔らかい地面に波打ったトタン板を置いて、一抱えくらいの石を胸くらいの高さから落とす」とちょうど飛び降り自殺の音になるらしい。その音のイメージに酷似していただけだ。

 そんな無駄なことも頭の隅で考えつつ、電算室へ急ぐ。…そう言えば奴らはちゃんと電算室に残っているのか?ここではぐれてしまったらまた厄介なことになるが…。
電算室のドアノブを回し、手で押すのももどかしく足で蹴り開ける。瞬間的に人影の数を算段し、声を張り上げる。
「よし!全員いるな!逃げるぞ!いる物だけ持って走れ!」
 しかし、あまりに現実離れした状況に、藤田を始め、皆少なからず混乱し、あっけに取られていた。  


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