クラス121「バブル・カー」 

British Rail Class 121 'Bubble Car'


現在は平日のラッシュ時にローカル線を数往復する旧型気動車。121034編成は旧英国鉄の深緑リバイバル塗装に更新されている。
(撮影:プリンセズ・リズバラ駅、Princes Risborough)

●基本データ

デビュー年 1960年
最高速度 120km/h
製造会社 プレスト・スチール・カンパニー(Pressed Steel Company)
運行会社 チルターン鉄道(Chiltern Railways, CR
ネットワーク・レイル(Network Rail, NR
運行区間 平日のラッシュ時のみ:
●エイルズベリー(Aylesbury)〜プリンセズ・リズバラ(Princes Risborough)
編成詳細

クラス121 16両製造
・2両旅客用で現役
・1両事業者に改造
・11両動態・静態保存
・2両廃車

制御付随車10両


●唯一通常旅客運行で現役の多扉旧世代車両。

 クラス121は保存鉄道を除く本線上で通常旅客運用を行う最古の車両。1960年に旧英国鉄がプレスト・スチール・カンパニー社に16両の単両両運転台付きのディーゼル車を発注。当時主流の手動ドアも持つ多扉車で、利用率が低いローカル線に導入された。

旧国鉄時代から民営化時初頭まで
 1948年の英国鉄発足から全国の路線網は地域ごとに区分けされていて、クラス121はウェスタン・リージョン(Western Region、西方地区)のローカル支線に導入された。ロンドンとイングランド西部を結ぶグレート・ウェスタン本線から伸びるルー(Looe)支線、ヘンリー・オン・テムズ(Henley-on-Thames)とマーロー(Marlow)支線を初め、ブリストルのセバーン・ビーチ(Severn Beach)支線で運用。更にはロンドン市内のグリーンフォード支線にも活躍の場を広げた。同時期に片側のみに運転台がある付随制御車が10両導入され、需要に応じて両運転台気動車+片側運転台付随制御車の2両編成で運転する事もあった。車両前面上部には列車番号表示器が備わっているが、1970年代からは使用されず改装工事の際に使用不可となった。

 1996年の英国鉄民営化時には4両のみが現役で旅客運用を行っており、これらはシルバーリンク(Silverlink)に受け継がれた。ブレッチリー(Bletchley)〜ベドフォード(Bedford)線やロンドン市内のゴスペル・オーク(Gospel Oak)〜バーキング(Barking)間などの非電化路線で運用された。2001年にはセントラル・トレインズ(Central Trains)から転属したクラス150に置き換えられ、事業用車両として第二の人生を送っている。民営化時に他の車両の多くが当時の鉄道インフラ保有会社であるレールトラック(Railtrack)により事業用車両として使用されていた。

 2006年にはウェールズの列車を運行するアリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(Arriva Trains Wales)が121032編成を購入。カーディフ・クイーン・ストリート(Cardiff Queen Street)〜カーディフ・ベイ(Cardiff Bay)間の2駅1区間のシャトル運行のために導入した。しかし2013年3月にエンジン故障のためクラス153に置き換えられ現在はウェンズリーデール保存鉄道(Wensleydale Railway)で保存されている。

現在は地方路線でひっそりと他の車両を支える
 レールトラックが保有していたクラス121は後継会社であるネットワーク・レイル(NR)が事業用車両として受け継いだが、2003年にチルターン鉄道(CR)がNRから121020編成を購入。旅客用に大掛かりな改造工事を受け、エイルズベリー〜プリンセズ・リズバラ間の列車に導入された。走行中に手動ドアが開かないようにするため製造当初にはなかった電磁ロックが追加され、クラス165から流用した電光行き先案内板も新しく設置。これにより平日のラッシュ時にクラス165を1編成より需要があるロンドン行きの列車に充当する事ができる目的でクラス121を導入した。

 2011年5月には2両目のクラス121をCRが購入。121034編成は旧英国鉄の深緑塗装をまとい、121020編成と共にエイルズベリー〜プリンセズ・リズバラ間で運用されている。NRも未だにクラス121を1両保有している。この121014編成はクラス960と改称され、NRCRの両社に乗務員教習用車両として共同で使用されている。

クラス121の仕様
 クラス121は同時期に製造された気動車と同じく多扉車で、各扉を囲うようにボックスシートが配置されている。イギリスでは手動ドアの列車は珍しくはないが通常営業運用で使用されるものは全て客車列車であり動力分散方式で手動ドアを採用している現役車両はクラス121が最後。車両の片側には荷物室が設けられており、通常営業時でも自転車などの大型荷物を積み込める。クラス121系統の気動車の特徴が排ガス用パイプ。荷物室側の車両前面に設置されており、列車番号表示器を避けるように曲がっている。

(解説・撮影:秩父路号、2016年4月更新)

●ギャラリー


クラス121の車内。3+2配置のボックスシートで各座席から乗り降りできる多扉式となっている。小さいながらも網棚も設置。座席のモケットはチルターン鉄道標準のものを使用。


この写真の客室側の先頭形状は上記の荷物室側とは異なり、排ガス用パイプがない。
(撮影:プリンセズ・リズバラ駅、Princes Risborough)


側面と足回り。側面には1950から60年代にかけて使用された旧英国鉄の紋章が描かれている。
(撮影:プリンセズ・リズバラ駅、Princes Risborough)

車両の客室側からはイギリスの鉄道車両としては珍しく運転席との仕切りがガラス張りで運転席を覗く事ができる。

運転室より前方の景色。

●参考文献・ウェブページ

・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2
Wikipedia: British Rail Class 121
Martin Loader's Railway Photography: Class 121

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