(本文、写真撮影:秩父路号)
*情報は2017年6月現在のもの

始めに

 現在ロンドン縦貫線の「テムズリンク」、ロンドン北部・東海岸本線近郊の「グレート・ノーザン」、そしてロンドン南部近郊・イングランド南部「サザン」の列車を運行するTOC「ゴヴィア・テムズリンク鉄道(Govia Thameslink Railway)」(以下GTR)で大規模なストライキが頻発している。2016年4月以来頻繁に行われ、労働組合のASLEF(通称アスレフ)とRMTによる徹底抗戦により2017年6月まで継続しており、解決への道のりは長い。しかし多大な数の利用客に影響を及ぼしていたが故に、イギリスでは随時トップニュースを占領するまでの社会問題に発展している。何故ここまで闘争が発展してしまったのか、今回のコラムではこの問題について解説していこうと思う

GTRという巨大TOCの誕生

 現在ロンドンを縦貫するテムズリンク線とロンドン・キングズ・クロス駅とムーアゲート駅を起点とするロンドン北部近郊、及び東海岸本線南部の路線を運行する路線はファースト・グループのTOCである「ファースト・キャピタル・コネクト(First Capital Connect)」が運行していた。2014年にはフランチャイズの契約更新に際し同路線網の運行権が再び入札にかけられ、同年5月にゴー・アヘッド・グループ(Go-Ahead Group)とSNCFの子会社であるケオリス(Keolis)が共同出資するゴヴィア(Govia)がに運営権が授与され、「ゴヴィア・テムズリンク鉄道(Govia Thameslink Railway)」、通称GTRというTOCが運行。

 ロンドン南部近郊とイングランド南部(主にウェスト・サセックス州、イースト・サセックス州とサリー州)の路線は民営化以来「サウス・セントラル(South Central)」というフランチャイズで契約されており、2009年9月以来同ゴヴィア社のTOCである「サザン(Southern)」が運営していた。なおロンドン・ガトウィック空港の空港速達列車を運行するガトウィック・エクスプレスのフランチャイズは以前は独立したフランチャイズだったものの、同時期にサウス・セントラルのフランチャイズに吸収され、サザンの一部として運行されている。こちらのサウス・セントラルも2015年6月にはフランチャイズの契約更新時期だったがこちらは入札にかけられず、「テムズリンク、サザン&グレート・ノーザン(Thameslink, Southern & Great Northern)」、通称TSGNというフランチャイズに吸収合併され、それをGTRが継続して運営することとなった。



GTRは図の4つのブランド名を使い分けてロンドン近郊とイングランド南東部で列車を運行している。 なおよく混同されがちだが、「TSGN」は路線網のフランチャイズ名で「GTR」はそれを運営するTOCの名前だ。


 GTRの運行体系は通常のフランチャイズではなく、マネジメント契約を通して列車を運行する判断が運輸省側で下された。詳細は第一回イギリス鉄道コラムに記載してあるが、フランチャイズ契約はTOCの利益が運賃収入に直結する。しかしマネジメント契約ではTOCが列車を運行する際、目標運行定時率や顧客満足度を達成することで運輸省から一定額の報酬を支払われる形となっており、運賃収入増減のリスクは運輸省が負担する。なぜこうなったかというと、このフランチャイズ期間はTSGNの路線網の大改革の時で運賃収入の予測が難しく、フランチャイズ契約における権利金(または援助金)の算出が困難なのが主な理由だ(フランチャイズの権利金や援助金に関しても第一回イギリス鉄道コラムで解説)。
・ロンドン・ブリッジ駅の大規模リニューアルと配線更新によるテムズリンク列車の迂回
・グレート・ノーザンの列車の一部テムズリンク乗り入れによる運行系統見直し
・サザンの運行系統の一部テムズリンクへの吸収
・ファリンドン〜ロンドン・ブラックフライアーズ駅間のテムズリンク中心部の自動運転導入
・新型列車(クラス700)のテムズリンクへの導入とそれによるTSGN内での車両移動
などが行われるため、これらのフランチャイズ区域をまとめ上げ、一つのTOCの管理下に置く必要があった。

 なおGTRを構成するサザン、ガトウィック・エクスプレス、グレート・ノーザン、そしてテムズリンクは同一会社だがそれぞれ独立したブランドを保ち、列車の運行系統も前フランチャイズのものを保持。更に運転士や車掌も独立した会社だったころの雇用契約を継承しており、例を挙げればサザンとテムズリンクの運転士は別々の契約で雇用されている。

闘争の火種:DOO(P)の導入義務

 ここまでは全て前振りだが、いよいよここからが本題。TSGNのマネジメント契約の一部には運輸省から指定されたDOO(P) (Driver Only Operation-Passenger、旅客列車の運転士ドア扱い)の拡張義務の項がある。なお、DOO(P)(DOOとだけ表記される場合も)は日本でのワンマン運転とは異なり、他の乗務員が同乗していても運転士が全てドア扱いをする場合DOO(P)と定義される。このマネジメント契約の義務を果たすべくGTRは2016年4月にサザンで現在車掌が乗務している路線の一部にDOO(P)を展開する計画を発表。ドア扱いを運転士に移管し、車掌はOBS(On-Board Supervisor、客室乗務員)へ転職するという内容だった。

 車掌とOBSの決定的違いはOBSはドア扱いを行わないこと。サザン側はドア扱い業務の負担が軽減されたOBSはより接客に集中できる、トラブルにも迅速に対応することができる、更にダイヤ乱れの際には乗務しなくてもよいため復旧が早くなる、と良いことづくめだとアピール(v)。しかしこれは車掌・客室乗務員の撤廃と完全なワンマン運転移行への第一歩であるとサザンの運転士が加盟する労組「ASLEF」と運転士・車掌が加盟する労組「RMT」が主張。猛反発の末4月末にはストを実施することになり、闘争の火蓋は切られた。



イングランド南部での大規模ストはGTRの中でもサザンの列車で車掌のOBSへの置き換えがストの原因となっている。写真は朝ラッシュ用に12連で運転するクラス377/4。

GTRと労組の闘争年表


2016年
4月22日:高等裁判所がASLEF運転士のガトウィック・エクスプレスの12連DOO(P)列車運転拒否は契約違反と判決。
5月20日:サザンが当初指名したOBS転換契約の強制承認の期限
10月3日:サザンが車掌にOBS転換契約を承認しなければ解雇すると宣言、契約承諾した際には2000ポンドのボーナスを提示
10月12日:RMTとサザンが交渉を試みるも決裂
12月8日:高等裁判所が労組のスト権を擁護、サザンのスト継続は違法だという異議を却下
2017年
2月15日:ASLEF労働組合員運転士、サザンから提示された新規契約内容に合意せず、以前闘争は継続
4月3日:Aslef労同組合員運転士、二度目の交渉でサザンから提示された条件に再び合意せず

ストが継続できた根本的な理由

 上記の年表の通りASLEF、RMTの両労組のスト実施日数は40日以上にも及ぶ。これだけ継続的にストが続行できた環境は運輸省が提供したと言っても過言ではない。先ほど説明した通りTSGNの運営はマネジメント契約なので運行を委託されているGTRには一定額の運行費が支払われる。つまりストによる運賃収入減の負担は全て運輸省が負う仕組みになっている。もしTSGNが通常のフランチャイズとして契約されていればとっくにGTR側が折れていただろう。

 なぜそう断言できるかというと全く同じ問題がスコットランドで同時に起こっていたからだ。2016年4月頃からほのめかされていた主にエジンバラ〜グラスゴー間でのDOO(P)運転拡大だったが、7月にいよいよRMTとASLEFのスコットランド支部がストを決行。しかしスコットランドの鉄道フランチャイズを運営するアベリオ・スコットレール(Abellio Scotrail)は早々に交渉に持ち込み、同年9月には運転手がドアを開け、車掌が閉めて出発合図を出す形の運用体系での合意となった。アベリオの運営側は二人目の乗務員の撤廃で得られるコスト削減よりもストによる運賃収入減のほうが影響を与えると判断した結果だ。TSGNの場合はストが起きても金銭的負債は「裏」で運輸省が負担するのでこのような配慮は無用なのだ。

 しかしなぜ労組側がここまでDOO(P)運転拡大とOBS導入に反発し、対立が深くなってしまったのか。要因は主に4つに分けられるが詳細は次回に持ち越しとなる・・・

ソース、参考文献・ウェブページ



↑ PAGE TOP