現在完了とは、本来は 昔に終わった動作の影響を現在においても感じる ということを表す形です。英語の現在完了はこの意味を強く保持しており、しかも多様な表現に用いられます。
I have finished my homework. 宿題を終わらせた。
これは、宿題が単に終わっているというだけではなく、その影響を今自分が「持って」いるということを意味します(だからhaveを使うわけです)。つまり、宿題が終わったからもう遊べるのだとか、提出できるとか、そういうことです。
ドイツ語では、現在完了と過去を厳しく区別することはありません。どちらも今より前のことを意味していることにかわりはないので、用法が混同されています。
その結果、特に口語においては、取りあえず過去のことはみんな現在完了で言うという状況になっています。
現在完了形は、seinかhabenと過去分詞で作ります。seinの人称変化については(第4回)、habenの人称変化については(第9回)を参照のこと。
seinを使うのかhabenを使うのかは動詞によって決まっています。自動詞のうち、移動や変化を表す動詞だけがseinを使います。sein+過去分詞は前回扱った状態受動と全く同じ形ですが、seinを使う動詞は自動詞ですから状態受動になることはありません。
seinを使って現在完了を作る動詞をsein支配の動詞、habenを使って現在完了を作る動詞をhaben支配の動詞といいます。
辞書では(s)、(h)という印でどちらであるのかを示します。
Er hat seine Ehre gewahrt. エア ハット ザイネ エーレ ゲヴァールト
[Ehre (女)名誉 wahren wahrte gewahrt (h)保つ]
彼は自分の名誉を守った。
seinはsein支配、habenはhaben支配の動詞です。
Wir sind Studenten damals gewesen. ヴィア ズィント シュトゥデンテン ダーマルス ゲヴェーゼン
[damals 当時]
僕らは当時学生だった。
英語では、「当時」などの明らかに過去であることを表す語は現在完了では使えない規則です。現在完了はあくまでその影響を「今持っている」という含意があるからで、「当時」「持っている」という表現はおかしいわけです。ですが、ドイツ語では、特に口語では過去形の代わりに現在完了を用いるため、このように明らかに過去を示す語でも現在完了形の文で用いることが出来ます。
現在完了はhaben+過去分詞、受動はwerden+過去分詞、話法の助動詞は助動詞+不定詞という構文で作りますが、現在完了で受動や話法の助動詞を用いるときには、habenを定形にし、受動や話法の助動詞を過去分詞にして文末に置きます。つまり、
現在完了の受動態は haben ... 過去分詞 worden (助動詞werdenの過去分詞はworden)
現在完了での話法の助動詞を用いた表現は haben ... 不定詞 助動詞の過去分詞
です。
Serbien hat von Österreich angegriffen worden. ゼルビエン ハット フォン エスターライヒ アンゲグリッフェン ヴォルデン
[Serbien セルビア Österreich オーストリア angreifen griff...an angegriffen 攻撃する]
セルビアはオーストリアによる攻撃を受けた。
Sie haben die Leute führen wollen. ズィー ハーベン ディ ロイテ フューレン ヴォレン
[führen führte geführt 導く、指導する Leute (複数形)人々]
彼らは人々を導きたかった。
過去完了と未来完了は、それほど見かける形ではありません。参考までに挙げておきますが、あまり気にしなくてもかまいません。
過去完了は現在完了の助動詞habenまたはseinを過去形にすることで作ります。
Serbien hatte von Österreich angegriffen worden. ゼルビエン ハッテン フォン エスターライヒ アンゲグリッフェン ヴォルデン
セルビアはオーストリアによる攻撃を受けたのであった。
未来完了は現在完了の助動詞habenまたはseinを未来形にすることで作ります。未来形の助動詞werdenが定形になります。
Serbien wird von Österreich angegriffen worden haben. ゼルビエン ヴィルト フォン エスターライヒ アンゲグリッフェン ヴォルデン ハーベン
セルビアはオーストリアによる攻撃を受けていることだろう。
動詞から語尾を除いた部分の最後がr,l,d,s,sch,ss,ß,zである動詞(歯音幹動詞)は、こういった子音と語尾の折り合いが悪いので、ちょっと不規則な変化をします。
-enという語尾が付く時、つまり不定詞、1人称複数、3人称複数で、-enが-nになります。
例:ändern エンデルン 変える
Ich ändere
Wir ändern
wandeln ヴァンデルン 変える、歩き回る
Ich wandele
Wir wandeln
2人称単数の-st、3人称単数と2人称複数の-t、それに過去基本形の-teや過去分詞の-tが発音しづらいので、前にeを添えます。
例:baden バーデン 入浴する
Du badest
Er badet
Ich badete (過去形)
Ich haben gebadet (現在完了形)
2人称単数の-stとぶつかり、sが1つ消滅します。結果として2人称単数と3人称単数が同じ形になります。
例:küssen キュッセン 口づけする
Du küsst
Er küsst
tanzen タンツェン 踊る
Du tanzt
Er tanzt
-d-enの時のような、-stの前にeを挟む形にしてもかまいません。
Du küssest
Du tanzest
-sch-en型の動詞は、必ずeを挟みます。
例:wünschen ヴュンシェン 願う
Du wünschest
(Du wünschtは不可)
さて次回。
次回は比較級と最上級について扱います。これまで動詞の話題が続きましたが、次回は形容詞のお話。
比較級・最上級をこんな後で扱うのは、構文がちょっと面倒だから。次回から徐々に複文の話に入っていくことになります。